第2話:視線が交差する屋上
涼架side
私は、もう何日もこの屋上で若井くんの姿を描き続けている。夏休みに入って、彼は毎日欠かさずギターを弾きに来てくれた。
言葉は少なくても、彼の奏でる音と私の描く線が不思議な共鳴を生んでいる気がしていた。
その日も私は、若井くんの新しい曲の力強さを感じながら、彼の表情をスケッチブックに写し取っていた。
無防備に音楽に集中する彼の横顔は、いつにも増して魅力的だった。
すると、背後から突然明るくそしてよく知っている声が聞こえた。
「涼架、こんなところにいたんだ!もう、探したんだから!」
私は「ハッ」と息をのんで振り返る。そこに立っていたのは、親友の綾華だった。
「綾華…どうしたの?連絡してくれれば良かったのに」
私は慌ててスケッチブックを閉じた。若井くんの絵を見られるわけにはいかない。
「ごめんごめん!スマホ家に忘れちゃってさ。夏休みの課題、全然進まなくて、教えてもらおうかなって」
綾華はそう言って、私の隣にドカッと座り込んだ。そして、若井くんの方に視線を向ける。
「ていうかさ、あそこにいるのって、軽音部の若井くんだよね?なんか、あの人いつも一人でギター弾いてるよね」
綾華の言葉に、私はドキっとする。若井くんの存在を、綾華に気づかれた。
「う、うん。まあ、そうみたいだけど…」
「ふーん。で、涼架は、なんでいつもこんな暑い屋上にいるの?まさか、若井くんの弾く音にインスピレーション受けてるとか?」
綾華がからかうように笑う。私は、顔が熱くなるのを感じた。
「ち、違うよ!ただ、この屋上からの景色が好きで…」
「景色ねぇ。でもさ、涼架がいつも描いてるのって景色だけじゃないでしょ。なんか最近、涼架の絵に熱があるっていうか、いつもと違う感じするんだよね」
綾華は、私の心を見透かすような目で、じっと見つめてきた。
「…ほら、さっき、私、涼架のスケッチブックちらっと見ちゃったんだ。若井くんの顔、描いてたでしょ?」
綾華の核心を突く言葉に、私はもう隠しきれないと思った。
「なんで…分かっちゃったの?」
「そりゃ分かるよ!涼架の絵の題材は、涼架の『心動いたもの』が全てだもん。あの若井くんのクールな横顔を、涼架がこんなにも真剣に描くなんて。ねぇ、涼架、正直に言いなよ。あの若井くんに、もしかして恋しちゃった?」
綾華の問いかけに、私の心臓はドクドクと高鳴る。私は、小さな声で、自分の想いを詩の言葉に乗せて呟いた。
「……貴方って人はどんな人?そんなふうに聞けたらなって思って…背中押される夏の日には、鮮やかに揺れる花になろうって、思ってるの」
「え、なにその詩?涼架が考えたの?うわぁ、めっちゃロマンチストじゃん!」
綾華は驚いたように声を上げるが、私の肩をポンと叩いた。
「いいよ、いいよ。別に隠さなくて。涼架がその『花』を咲かせるの、全力で応援するから!」
綾華の温かい友情に、私の胸はいっぱいになった。一歩を踏み出す勇気は、まだ見当たらないけど、私の背中を押してくれる存在ができた。
「ありがとう、綾華…」
私は小さく感謝を伝えた。綾華の笑顔は、真夏の太陽よりも眩しく見えた。
私の恋の物語は、ここから「友情」という心強い光を加えて、さらに進んでいく。
次回予告
[視線と友情]
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コメント
2件
あやかちゃんナイスすぎないか!? よし!500っと… 続きも待ってる
あやちゃん頼もし〜!!頑張れ涼ちゃん!