第3話:視線と友情
涼架side
夏休みが本格的に始まった。
若井くんは、部活の予定があるのか、屋上に来る頻度が少し減ってしまった。学校が閉まってしまうと、もう彼の音を聞くことも、彼を描くこともできない。
そんな焦りにも似た気持ちを抱えながら、私は綾華と二人で、駅前のカフェに来ていた。
「涼架、ぼーっとして。課題は?進んでる?」
綾華が、ストローでアイスティーをかき混ぜながら、私に尋ねてきた。
「んー、まぁ…ぼちぼち、かな」
私の返事は、自分でも歯切れが悪いと思う。
夏休みの課題は、若井くんを描くこと。それなのに、彼に会えなければ、私の熱意も宙ぶらりんだ。
「なんだか歯切れ悪いね。もしかして、あの若井くんの絵、進んでないの?」
綾華は、ニヤニヤしながら私の顔を覗き込む。
「いや、進んではいるんだけど…その、学校の屋上だと、いつも彼の周りに風が吹いてて、光が綺麗で…。夏休みで会えなくなっちゃったから、その、実物が見れないというか…」
私が正直に打ち明けると、綾華は吹き出した。
「やっぱりね!涼架ってば、もう。遠回しにそう言うことだと思ったよ。やっぱ、本人じゃないとダメなんだ。写真じゃダメだもんね。涼架の描きたい若井くんは、動いてて、音出してて、その場の空気の中にいる若井くんだもんね!」
「うぅ…もう、綾華には何でもお見通しなんだから」
私は顔を赤くして俯いた。綾華は、エスパーか何かだろうか。
私の心の中まで鮮やかにスケッチしてしまう。
「当たり前じゃん。でさ、涼架がそんなに若井くんに会いたいなら、会う機会を作っちゃえばいいんだよ!」
綾華は、身を乗り出し、声を潜めた。
「ねぇ、涼架。いいこと思いついちゃった!来週さ、駅前で夏祭りあるじゃん。浴衣着て、屋台とか出て、花火も上がるやつ」
私の頭の中で、花火と若井くんの横顔が重なった。想像するだけで、心臓が跳ねる。
「…うん、知ってる」
「涼架、思い切って若井くん誘ってみたら?『夏の終わりに、花火見に行きませんか?』って」
綾華の提案に、私は思わず椅子から飛び上がりそうになった。
「えっ!?無理だよ!私にそんなことできるわけない!」
「なんで無理なの?別に悪いことしてるわけじゃないし!それに、涼架、絵の題材が欲しいんでしょ?お祭りって、浴衣とか提灯とか、最高に絵になるじゃん!いつもと違う若井くんが見れるかもだし!」
綾華は、私の頬をつんつんと、つついて、イタズラっぽく笑う。
「それに、もしOKしてくれたら、一日中若井くんのこと、じっくり観察できるじゃん!これは、涼架の絵の才能を伸ばすためにも必要なことだよ!」
「いや、そういう問題じゃ…」
「だーいじょうぶ!若井くんも、涼架が自分のこと見てるの気づいてるはずだよ。もし断られたら、その時はその時!それでも涼架は頑張ったんだから、十分偉いよ!」
綾華のまっすぐな言葉に、私の胸の奥が熱くなった。
「白熊のように涼しげで居たいの、でもこの熱意は募る」-ー私の内側でくすぶっていた熱意が、綾華の言葉で一気に燃え上がった気がした
「……背中押される夏の日には、鮮やかに揺れる花になろう」
私は決意を込めて、そう呟いた。
「よし!その意気だ、涼架!」
私は、若井くんが描かれたスケッチブックのページを、そっと撫でた。
この夏、私は彼に、勇気を出して近づきたい。
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コメント
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ファイト〜!涼ちゃん!