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翡翠
198
#snjn
のりもちさん
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ゆき
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*ご本人様には一切関係ございません。
スタジオ裏の、薄暗い機材置き場の通路。
そこに逃げ込んだ俺は、冷たい壁に背中を預け、ようやく「ハァーーッ……」と熱い息を吐き出した。
手で自分の顔を触ると、信じられないくらい熱い。まだ鼓動が耳の奥でドクドクと暴れている。
__あんな顔初めて見た……。
なんであんな顔をしたんだ。
もしかして勇斗も俺のことが……?
__いやいや、そんなことある筈がない。
そんな、考えても答えが出ないことを、頭の中で悶々と考えていると。
突然、後ろから誰かに声をかけられた。
舜「じーんちゃんっ」
__え?
弾かれたように肩を揺らし、俺は慌てて振り返る。薄暗い機材置き場の通路、そこに立っていたのは、少し意味ありげな笑顔を浮かべた、
舜太だった。
まさかの相手に声をかけられ、俺は動揺を隠せなかった。
舜「まあまあ、そんなビビらんとってよ。 」
俺の動揺に気づいたのか、舜太はくすくすと笑いながら、宥めるようにひらひらと両手を振ってみせた。
舜「スタッフさんに水貰ってきたよ、とりあえず飲み」
そう言って、舜太は手元にあった冷たいペットボトルの水を俺の胸元に差し出してきた。
仁「…え、あぁ、ありがとう」
予想外出来事に、少し拍子抜けしながらも、俺は舜太から貰った水を一口飲んだ。
舜「……」
俺がゆっくりとボトルのキャップを閉めるのを、舜太は少し細められた瞳のまま、じっと静かに見届けていた。
舜「……仁ちゃんさ、」
仁「……ん?」
あいつは周りをキョロキョロと見渡し、薄暗い通路の近くにスタッフが誰もいないことを確認する。
舜「……いや、えっと…」
一瞬、舜太は何かを躊躇うように視線を泳がせ、言葉を詰まらせた。
だけど、すぐにグッと覚悟を決めたような真剣な目で、まっすぐに俺の顔を見てきた。
舜「仁ちゃん、勇ちゃんのこと好きなん?」
あまりにも、確信づいたようなその瞳に、俺は目を逸さざるを得なかった。
「そんなわけないじゃん」
と笑い飛ばすための言葉を、喉の奥から必死に引っ張り出そうとした。
だけど、まっすぐに俺を射抜く舜太の真剣な瞳の前では、どんな言い訳も、ただの強がりにしかならないと悟ってしまった。
俺はギュッと手元のペットボトルを握りしめたまま、ただ薄暗い床の一点を見つめて、激しく波打つ鼓動に耐えることしかできなかった。
俺のその無言の動揺が、舜太にとっては、何よりの確実な答えになっていた。
舜「……やっぱり、そうやったんや。
いやさ、何回かそうなんかなー、とは思ってたんよ。でも、この前柔太朗との記事出たやん?
それで、俺、仁ちゃんが、勇ちゃんのこと諦めて柔太朗と付き合ったんかなって勘違いしてもうてん」
ポツポツと胸の奥に溜め込んでいた、本音を零してくる舜太。
だが、俺はまだ動揺していて、舜太の言葉をただ耳で聞くしかできなかった。
舜「いや、まあでも、よかったわ、ただのデマやってわかって」
__……ん?
ボトルを握る手にぐっと冷たさを感じながら、俺の頭の中に、唐突にひとつの強烈な違和感が走った。
__待てよ。
__舜太、お前、もしかして……。
仁「……柔太朗のこと好きなの?」
俺の質問に、舜太は少し諦めたように、微笑んで、答えた。
舜「うん、好きやで」
その言葉に、記事が出た時の、舜太の焦り具合にひどく納得してしまった。
__あぁ、だから、あんなに……。
俺は、グループが大事だからこそ、怒っているのだと思っていた。だけど違った。
実際は、自分の好きな男が、俺の恋人になってしまったかもしれないと、1人で焦っていたのだ。
舜「あん時さ、俺すごい焦っててさ、2人にすごい追い詰めるような言い方で、責めちゃったやん、ほんまごめんな」
しょぼんと、怒られた後の犬のように、凹んでいる舜太を見て、フッと笑が溢れてしまった。
仁「いいって、いいって。気にしてないから、そんな顔すんなって」
舜太に笑いかけながら、軽く肩をポンっと叩いた。
だけど、
そんな和やかな空気が溢れる中に、俺の頭に、ひとつの疑問が浮かぶ。
__待てよ。こいつ、さっき何て言った?『何回かそうなんかなー、とは思ってたんよ』とか言ってたか……?
ボトルの水をもう一口飲み込もうとして、俺の手がピタリと止まった。
焦りが完全に引いた脳内で、その言葉の意味がにわかに恐ろしさを帯びて肥大化していく。
仁「……舜太俺ってそんなにわかりやすい?」
恐る恐る、舜太の顔を覗き込んで尋ねる。
舜「……ははは」
舜太は目を細めると、なんとも言えない、少し気まずそうな乾いた笑い声を漏らした。
__おいおい、嘘だろ……。
否定も肯定もせず、ただ「察してくれ」と言わんばかりにあいまいに笑うあいつのリアクションを見て、俺の背中にドッと冷や汗が噴き出した。
隠せていたなんて思い込んでいたのは俺だけで、実はとっくに、勇斗にもバレていたんじゃないかと、羞恥心がマックスに達してしまった。
舜「あっ、多分勇ちゃんは全く気づいとらんよ!」
焦る俺の様子を見て、舜太が慌てて言葉を付け足してくる。
必死に声を張って保証してくれる舜太の言葉に、俺は張り詰めていた肩の力が、一気に抜けていくのを感じた。
仁「よかった〜……」
へなへなと冷たい壁に背中を預けたまま、俺の口から、情けないくらいに気の抜けた安堵の声が漏れ出した。
?「何がよかったの?」
突然、薄暗い通路の奥から、低く落ち着いた声が響いた。
完全に油断していた俺と舜太の身体が、同時に硬直した。聞き間違うはずのない、ずっと隣で聞いてきたあの声。ゆっくりと首を回して、声のした暗闇の向こうへと視線を移すと、そこには一本の冷たいペットボトルを手にした男の影が佇んでいた。
勇「2人ともなんの話してんの?」
暗闇からゆっくりと通路のライトの下へ歩み出てきたのは、他でもない勇斗だった。
舜「は、はやちゃん……?いつからそこに…?」
どこから聞かれていたのか。俺が好きなのは勇斗だということも、舜太が柔太朗を好きだということも、全部あいつの耳に届いてしまったのだろうか。
勇斗は手に持ったペットボトルを少しだけ握り直すと、俺たちのパニックを見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
勇「舜太が、俺が気づいてないって言ったところぐらいから。__で?何がよかったの?」
勇斗が、俺たちを逃すまいと、鋭い目つきで見つめてくる。
いつものふざけたトーンは完全に消え去り、まっすぐに俺たちの退路を断つように立ちはだかる勇斗。
だけど、パニックになりかけた頭の隅で、俺は冷徹に勇斗の言葉のパズルを組み立て直していた。勇斗はまだ、俺が自分のことを好きだという本当の核心までは、気づいていない。
__まだ、いける。
仁「な、なんだよ勇斗、そんな顔すんなって。
いや、今日俺さ、ずっとズボンのチャック開いてたぽいんだよー」
必死にでっち上げた最低最悪の、だけどこれ以上ないカモフラージュ。
俺のあまりにも格好悪すぎる告白に、俺たちを逃すまいと鋭い目つきで見つめていた勇斗の表情が、一瞬できょとんと固まった。
舜「そ、そうなんよ、仁ちゃんずっと社会の窓全開で動画撮ってたんやで!」
舜太が、俺の意図を察して、笑いを堪えながら必死に、乗っかってくる。
勇「それで、俺が気づいてないって……?」
勇斗の言葉に必死に頷く。
鋭かった勇斗の目つきが、俺たちのあまりの必死さと、格好悪すぎる嘘のディテールによって、みるみるうちに呆れたような、呆気に取られたような色へと変わっていった。
勇「……なんだよー、仁人まじアホじゃん!ちゃんとチャック閉めとけよ!」
あいつはそう言って笑いながら、俺の背中をバシバシと力強く叩いてくる。
__上手く誤魔化せたか……?
誤魔化せたことに安堵しつつも、勇斗の中で俺は、今日の撮影中ズボンのチャックをずっと開けていた、ただの『アホな奴』という認識になってしまったのではないか。
仁「う〜……」
恥ずかしさで俺は、唸りながら顔を伏せ蹲ってしまった。
勇「何、仁人唸ってんの?」
勇斗が、ケラケラと笑いながら俺の顔を覗き込んでくる。
舜「2人ともそろそろ戻ろー」
なんて言葉をかけて、先に颯爽とスタジオに戻って行く舜太。
仁「あっ、舜太!ちょっと待てって!」
置いていかれると思い、舜太のことを追いかけようとすると、勇斗にガシっと右の手首を掴まれた。
仁「……っ、勇斗?」
弾かれたように振り返ると、そこには、さっきまでケラケラと大爆笑していたはずの面影を綺麗に消し去った、勇斗の顔があった。
勇「…嘘下手くそ。ねぇ仁人、本当は舜太となんの話してたの?」
低く、静かに通路の壁に響いたあいつの声には、もう誤魔化しを許さない圧倒的な熱が籠っていた。
__最初から、バレてたんだ。
チャックが開いていたなんていう、俺の必死ででっち上げた格好悪いカモフラージュなんて、あいつには最初から何一つ通用していなかった。
勇「いやー、仁人があまりにも可愛い嘘つくから笑っちゃって」
__え?
逃げ場をなくされて心臓が止まりそうになっていた俺の目の前で、勇斗はふっと口元を緩めると、いつもの意地悪で、だけど堪らなく眩しいあの笑顔を浮かべた。
俺が嘘がバレていた事実から、軽くパニックになっていると。
グッと、至近距離まで顔を近づけられた。
仁「……っ、勇斗、近い…離れて」
思わず息を呑んで逃げようとしたが、勇斗が掴んでいた手首を壁へと持っていき、俺の逃げ道を完全に塞いできた。
冷たい壁に俺の手首が押し当てられ、固定される。
勇「仁人、教えて?さっきまで何の話してたの?」
低く、静かに、だけど耳元を甘く痺れさせるような勇斗の声が、至近距離から真っ直ぐに俺の鼓膜へと注ぎ込まれた。
仁「……っ、いいから離せって…」
喉の奥からやっとの思いで絞り出した声は、自分でも驚くほど細く、微かに震えていた。
掴まれていない方の手で勇斗の胸元をぐっと押し返そうとするけれど、びくともしない。
必死に顔を逸らし、あいつの真っ直ぐな瞳から逃げようとする俺。
だけど、勇斗は俺のその必死の抵抗を前にしても、ピクリとも腕の力を緩めようとはしなかった。
__頼む、誰か来てくれ……!
心の中で、叫ぶような、祈るような、切実な悲鳴が響き渡る。
勇「……舜太には言えて、俺には言えないの…?」
勇斗が子犬のような顔をして俺の目をじっと見てくる。
__そんな顔で見ないでくれ……。
俺の理性が崩れ落ちる寸前、廊下の奥から聞き慣れた大きな声が聞こえてきた。
太智「おーい!いつまでサボっとるねん!そろそろ撮影再開すんでー!!」
__っ、太智……!
勇斗がハッとしたように小さく息を呑み、俺を壁に縫い付けていた手のひらの力が、ゆっくりと緩んでいく。あいつは悔しそうに微かに奥歯を噛み締めると、掴んでいた俺の手首を名残惜しそうにパッと離し、一歩後ろへと身を引いた。
勇「…ごめん、戻ろっか……」
勇斗はそう小さく呟くと、もういつものプロとしての顔を取り繕い、先に立ってスタジオへと歩き出し始めた。
俺は、そんな勇斗を追いかけるように、壁に押し付けられた時に乱れてしまった髪を、手のひらでそっと整えて、勇斗への狂おしいほどの恋心を、もう一度胸の奥の一番深い場所へと閉じ込め、ゆっくりと歩き出した。
コメント
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すごくお話好きすぎます!!フォロー失礼します🙇♀️🙏次回も楽しみです♪
フォローとブクマ失礼します🙇♀️
面白い作品発見やぁ…!もうちょい早く見つけたかったな🙄