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9
研究所中に警報が響いていた。
赤い警告灯が光る。
慌ただしく走る兵士達。
無線の怒鳴り声。
施設全体が騒然としている。
だが。
モトキ達は止まらなかった。
「右!」
ヒロトが叫ぶ。
三人は分岐路を駆け抜ける。
背後では追手の足音。
けれど今は戦っている時間も惜しい。
目的は一つ。
涼架を連れ帰ること。
それだけだった。
⸻
最深部。
実験室。
涼架は目を閉じたまま座っていた。
機械音だけが響く。
脳波モニター。
記憶干渉装置。
そして無数のデータ。
研究員が慌てていた。
「先生!」
「侵入者が第三ブロックを突破!」
榊は落ち着いたままモニターを見る。
「予定より早いな」
「迎撃部隊を….」
「いや」
研究員が固まる。
榊は静かに笑った。
「ちょうどいい」
そして。
涼架へ視線を向ける。
「最終確認をしよう」
⸻
数分後。
モトキ達は巨大な扉の前へ辿り着いた。
地図によれば ここが最深部。
涼架がいる場所。
ヒロトが息を整える。
「この先だ」
モトキは迷わず扉へ手をかけた。
レイも隣に立つ。
そして。
重い扉が開く。
⸻
広い部屋だった。
白い光。
大量のモニター。
研究員達。
そして中央。
椅子に座る涼架。
「涼ちゃん!」
モトキが駆け出す。
やっと会えた。
助けられる。
そう思った。
だが。
涼架はゆっくり顔を上げる。
その瞬間。
全員が止まった。
瞳の色が違う。
冷たい。
何も映していない。
まるで知らない人を見るような目。
「……涼ちゃん?」
返事はない。
代わりに。
榊が後ろから現れた。
「ようこそ」
モトキは睨みつける。
「返せ」
榊は肩をすくめる。
「返す?」
「彼はここにいるよ」
その言い方が癇に障る。
モトキは一歩前へ出た。
「涼ちゃん」
今度は真っ直ぐ呼ぶ。
「帰ろう」
涼架は数秒黙っていた。
そして。
口を開く。
「……対象確認」
モトキの表情が止まる。
ヒロトも息を呑む。
レイの赤い目が揺れた。
涼架は立ち上がる。
動きが不自然なほど滑らかだった。
「侵入者」
感情がない。
いつもの優しい声なのに。
何もない。
空っぽな声。
「排除します」
その瞬間。
空気が変わった。
床が砕ける。
涼架が消えた。
「っ!?」
モトキが反応するより早い。
衝撃。
身体が吹き飛ぶ。
壁へ叩きつけられる。
「モトキ!」
ヒロトが叫ぶ。
だがモトキ自身が一番驚いていた。
見えなかった。
涼架の動きが。
涼架は静かに立っている。
白い髪。
冷たい瞳。
そして。
頭の上。
獣の耳。
レイに似た銀色の耳が生えていた。
ヒロトが息を呑む。
「そんな……」
獣人化。
もう始まっている。
いや。
始まっているどころじゃない。
完成に近い。
榊が満足そうに微笑む。
「素晴らしいだろう」
モトキが立ち上がる。
口の端を拭う。
それでも目は涼架から逸らさない。
「……涼ちゃん」
呼ぶ。
何度でも。
「オレだよ」
涼架は無表情だった。
「識別不能」
「違う」
一歩近づく。
「モトキ」
「涼ちゃんと三年一緒にいた」
「鹿肉焦がして」
「怒られて」
「一緒に逃げて」
声が震える。
「覚えてるだろ」
沈黙。
涼架の瞳が微かに揺れる。
ほんの一瞬だけ。
だが。
榊が静かに言った。
「命令を実行しろ」
その言葉で。
揺れが消えた。
涼架はゆっくり手を上げる。
冷たい声。
「排除します」
次の瞬間。
強烈な衝撃が部屋を駆け抜けた。
モトキは歯を食いしばる。
目の前にいるのは敵じゃない。
ずっと探していた人だ。
だから。
拳を握りながらも。
本気では戦えなかった。
そして。
それが最悪の隙になる…
コメント
1件
あ、もうこれ…やばかったです。 涼ちゃんのあの目が、ほんとに何も映ってなくて震えました。モトキが必死に呼びかけるシーン、声震えてるのが伝わってきて胸が締め付けられましたよね。しかも涼ちゃんが一瞬だけ瞳揺らしたのに、榊の一言で消えるところがもう辛すぎる…。そして獣耳って、そういうことか、って。モトキの「本気で戦えない」気持ち、めちゃくちゃわかるけど、それが“最悪の隙”って…続きが気になりすぎます🖤