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2016年の夏
中村海音
僕は普段ピアノの修理屋で調律師として働いている。
ある音大学のピアノが壊れ 音階もバラバラになったから直して欲しいと依頼があり、呼ばれた。
「暑っつ…大学内広っ!
てか、どこだ門に教員が立ってるって聞いたけど誰もいないし
どこの教室なのかもわからん…」
〜♪♪♪〜
耳を澄ますと 校舎から調律が狂ったお世辞にも
綺麗とは言えない音色が微かに聞こえてくる
絶対音感と調律師を持ち合わせている俺には早く直したくなる音色をしていた
音を頼りに辿っていくと 少し戸が開いている
教室の前に年配の女性教員が立っていた
ここだなと思い近づいてみると
教員はハッと目を見開き来たっと言う顔をして
「お待ちしておりました、 なかなかお越しになられなかったので
心配しておりましたが 良かったです」
との事…門で待っててくれるはずでは無かったのかと一瞬思い
良心のいい言葉を返し事を得た
だけどあのピアノの音色は止まっていなかった
少し戸惑いながら教員が戸を開け入ると1人の女の子が弾いていた徐々に近づく、 普通戸が開いたらこちらに目線を合わせるはずだが
彼女は弾き続けている少し離れたとこ机にもたれかかりながら で凄い集中力だなと、 感心していると俺の肩を優しく二回叩き教員が口を開いた
「あの子ピアノの腕はピカイチなのよ 天才ピアニストとって言われてるけどねぇ… 」
「けど、なんですか?」
「 耳が聞こえないのよ…あの子。
ごめんなさいねこんな話してしまって」
腑に落ちたのと驚きの感情が二つ同時に来て
口を開けまま何も返す言葉が出てこなかった
けど1番は驚きが勝った、本当に音が聞こえないのかと困惑するくらい靱やかで迷いのない
指の動きは、まるで音が聞こえてるんじゃないかって思うくらい
だけどやっぱり調律が狂ったピアノは…って
遠くから聞こえてきた時は思っていたけど
実際その場にいると狂っているのにそれを
カバーすると言うか味にしていると言うか この曲は聞いたことは無いけれど美しく綺麗に聴こえた
ピアノの音色が止まり顔を上げこちらをゆっくりと振り向いた
驚くことも無く無表情のまま
またピアノ方に向いた
そうすると教員の人が彼女の方に急いで向かい手話をしていた
俺にはその手話は分からなかったが、彼女は勢いよく立ち上がり俺の方を向き
一礼して荷物持って小走りで帰って行った
唖然としていると
扉付近の床に猫のマスコットが落ちていた
それを拾い本当は教員に渡せばいいものの自分の作業着の胸ポケット中に入れピアノの方へ 向かうと
持ってきた修理道具を床におろしピアノの音を一音一音確かめる
どうしてここまで狂ったのか教えてはくれなかったが治すのに2時間半もかかってしまった
やっと治り腰を上げると
あたりはすっかり夕日で教室はオレンジ色に染まっていた不意に昔の記憶に浸っていると
勢い良く教室の扉が開いた俺はあまりにも急な音に身体がビクッとなり硬直し
頭の理解が追いつかず誰が入ってきたのか理解するのにほんの数秒時間がかかった
教員かと思ったがさっきピアノを引いていた彼女が息を切らし汗をかいていたのか前髪が少し湿っていた
どうしたのかと思い彼女の方に近づいた瞬間咄嗟バッとほふく前進でもするのかと思うくらいしゃがみ、机の下や教室の隅々まで探し始めた
俺はすぐさま止まっていた足を進め彼女のもとへ向かい床にしゃがみこみ彼女の方を両手で掴んだ
「どうしたの?!」
と言っても彼女も俺が急に肩を掴んだから目をまん丸く見開き 首を傾げた
そうすると、俺は何か忘れている気がして彼女の顔を見つめているとハッと思い出して
さっき入れた胸ポケットに手を伸ばす
取り出すとさっきまでビックリして強ばっていた顔が安堵したのか、頬が緩みマスコットを両手に持ち大切な人を見るかのように目をキラキラさせて笑っていた。
それを見て俺も微笑んで、ズボンのポッケ中にスマホが入っているそれを取り
メモ帳を開いた
これ探してたの?
と打ち彼女に見せたそれを見て首を縦に振り彼女は俺のスマホを取り打ち始める
どこに落ちてたんですか
との事が書いてあり俺もスマホを取り
扉の近くに落ちてて、拾って届けようとしたけどもう居なかったから…
打って彼女に見せるそれを見て彼女が打つを繰り返していた
見つけてくれてありがとうございます
さっき居た教員に届けようと思ったけど、大切な物ならここに来るかな?って思って
届けてもらっても良かったのに、わざわざすみません
だって、大学内広いじゃん! いちいち職員室とか取りに行ったりするの大変じゃない?
気遣いどうもありがとうございます
いえいえ、あとさっき君が弾いてたピアノ調律しといたから
音が狂っていようが音が出ていなかろうが私には聞こえません
耳が聞こえないから?
なんで知ってるんですか?
さっきの教員から聞いたよ
変なことも言ってたんでしょ?勿体ないとか可哀想とか
言ってたけど俺はなんとも思わなかったむしろほんとに聞こえないの?笑
なんでですか
指に迷いが無くてちゃんとペダルも踏んでたじゃん
最初っから聞こえなかった訳じゃないので
へぇー、じゃあいつもこの教室にいるの?
ここあまり使わなくて
俺、君のピアノ好きだから週一でもいいから聴きに来ていい?
スマホを見せた
彼女はさっきみたいに目をまん丸くさせていた
君ともっと話してみたいし
また打ち見せる
彼女は、目に涙を浮かばせながら首を縦に降った。