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午前9時。手術室の扉がゆっくりと開いた。
「ICU搬入準備完了です」
ストレッチャーを押しながら、京本がオペ室へと入っていく。
「大我、脾臓摘出成功した。腹腔内止血も完了」
執刀を終えたジェシーが軽く頷く。
しかし、その顔にはまだ緊張が残っていた。
「出血量3200ml、輸血は合計14単位。心機能はやや低下傾向。人工呼吸器も継続だな」
「了解。循環動態を見ながら管理するよ」
京本は患者の容態を素早く把握し、ICUスタッフに的確に指示を出していく。
「樹、麻酔の切り替えは?」
「ちょうど今、維持麻酔から覚醒準備に入るとこ。あんまり急がないでよきょも」
田中樹が笑うが、その手の動きは一切の無駄がなかった。
「もちろん。慎重に行こう」
患者の命が、また一本、細い糸で繋がれた。
そのわずか数分後──
「ドクターコール!ドクターコール!救急搬送要請!」
館内アナウンスが鳴り響く。
救命救急室の北斗の表情が一瞬で引き締まった。
「今度は何だ…?」
タブレットに映し出された情報には、こう記されていた。
◆多発交通事故現場
◆負傷者多数
◆重症3名搬送予定
「髙地!!DMAT出動要請だ。現場に行けるか?」
「もちろん。」
髙地はすぐに救急チームを引き連れ、機材と共に飛び出していく。
事故現場──
道路の真ん中で、潰れた車両が幾つも積み重なっていた。
叫び声、サイレン、瓦礫の音。
「髙地、A地点の重傷者から!」
救急隊長の指示に頷き、髙地は即座に動く。
「意識レベルE1V2M5!顔面蒼白、下肢変形あり、骨盤骨折疑い!」
ハンズフリーの無線で即座に病院へ情報が飛ぶ。
「北斗、現場から。男性30代、出血性ショック疑い。すぐ搬送します」
「了解、すぐ受け入れ体制整える」
北斗はICUとORに連絡を飛ばす。
「慎太郎、またCTすぐ頼むぞ」
「OK、いつでも。」
ICU──
「また重症…今日は波が続くな」
京本は新たな患者のためにベッドを確保しながら小さく息を吐いた。
命の炎は消えやすい。
だが自分は、それを何としても守る側に立つのだと、改めて自分に言い聞かせた。
「ジェシー、またオペかも」
「今日も寝れそうにないな。」
「樹も頼むよ」
「もちろん。いつでも対応できる」
救命の戦場に、また新たな命が運び込まれようとしていた。