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搬送車が病院の正面玄関に滑り込んだ。
「重症患者到着!」
ストレッチャーが勢いよく救命救急室へと押し込まれる。
「30代男性、交通外傷、骨盤骨折、出血性ショック!」
髙地の声に合わせて、スタッフが一斉に動き始める。
北斗はすぐに患者のバイタルを確認した。
血圧は80台まで回復しているが、昇圧剤に依存していた。
「呼吸苦あり。右側胸部打撲。気胸再評価!」
「エコーで胸水少量、心嚢液も貯留あり!」
慎太郎が超音波プローブを走らせながら報告する。
「心タンポナーデの可能性もあるな。京本呼ぶ!」
ICUフロア──
「京本先生!救命から至急コンサルトです!」
看護師が慌てて飛び込んできた。
「わかった。モニター持って救命に降りる」
京本はカルテを手に、そのまま小走りで救命救急室へ向かった。
救命──
「京本、心タンポナーデ疑い。穿刺いける?」
北斗が京本にバトンを渡す。
「わかった。カテーテルセット準備して!」
京本は患者の胸部にプローブを当て、穿刺部位を確認した。
「心拍出量低下中、心嚢液貯留15ミリ……いくよ」
深呼吸ひとつ。
静かに針を胸に差し込み、慎重に心嚢液を抜き取る。
「……心拍数上昇、血圧安定してきた」
周囲の緊張が一瞬だけ緩んだ。
「でもまだ腹部出血は続いてる」
北斗が息を整えながら言った。
「ジェシーの出番だな」
京本も頷いた。
手術室──
「今日だけで何件目だよ、ジェシー」
麻酔準備を進めながら、田中樹が苦笑する。
「命がある限り、何件でも受けるさ」
執刀医ジェシーの目に迷いはなかった。
「腹腔内、再出血確認。脾動脈分枝からの出血。ヘモスタシス開始!」
クランプが血管を掴み、電気メスがジュッと音を立てる。
田中樹は血圧モニターをにらみながら、出血量を読み上げる。
「出血1000ml追加。総輸血量18単位突破。ヘモグロビン5.2」
「慎重にいこう。まだ臓器灌流は維持できる」
ジェシーは静かに止血操作を続けた。
ICUでは──
別室で待機していた京本が、患者用ベッドの人工呼吸器設定を微調整していた。
治療計画は常に次の危機を想定して組まれる。
「今は持ちこたえてるけど……次は多臓器不全のリスクだな」
彼の呟きは、現場に漂う緊張感そのものだった。
救命の朝は、まだ始まったばかりだった。
次なる緊急通報は、彼らに容赦なく降りかかろうとしていた。