「そういえばシュークリーム食べそこねてるのよね」
思い出したかのようにポツリと言う。そういえば仕事中も焼き上がったシュークリームを眺めながら食べたい食べたい言っていたなと思い出した。てっきりもう食べているかと思っていたけど。
「掃除が終わったらコンビニで買うわ」
「レトワールのじゃないんですか」
「いいじゃない、コンビニのも美味しいわよ」
どうやらこだわりはないらしい。コンビニのも美味しいけど、やっぱりレトワールのシュークリームも食べてもらいたい。今度、差し入れるか。
結子さんのアパートは二階建てで、ブラウンと淡いベージュ色の外壁がおしゃれだ。トントンと階段を上がっていく結子さんの後を追う。
「散らかってるけど……」
「掃除しに来たので問題ないかと」
ガチャリと開いた玄関からふわっと優しいフローラルな香りが抜けていった。
リビングとダイニングの間には壁がなくて、小さなソファと棚、ベッドで部屋が仕切られている。インテリアは淡く柔らかい色でまとめられており、結子さんのセンスの良さが際立っていた。
「うわぁぁぁっ」
突然大きな叫び声を出した結子さんは、ソファの上から何かを引っ掴んでベッドの中へ隠した。そして真っ赤な顔でこちらを振り向き、「見た?」と呟く。
まあ、見たけども。パジャマだったかな。あえて見たとは返事はしない。結子さんの私生活が垣間見れるなんて貴重以外の何物でもないだろう。
「そんな恥ずかしがらなくても。掃除に来たんだから」
「それとこれとは別。掃除は掃除でも見てはいけないものもあるのよ」
必死になっている姿も可愛いわけで。嫌がっているようなのではいはいと視線をそらした。その先はベランダ。風に揺れる洗濯物が見える。あれはいいのだろうか、下着が見えるんだけど。
パジャマを隠すので必死な結子さんはそのことに気づいていない。そんな抜けてる姿が実に愛らしくて思わず笑ってしまった。俺が笑うので結子さんは不思議そうな顔をする。
俺の視線を辿った結子さんは声にならない悲鳴を上げて先ほどよりも真っ赤な顔をした。飛びつかんばかりの勢いで俺の元にくると、さっと回れ右をさせられた。
「不可抗力ってやつですよ」
一応言い訳をしてみたけど、「ちょっとはあんたも恥じらいなさいよっ」と叱られてしまった。そう言われても、恥ずかしい気持ちよりも結子さんが可愛いなと感じる気持ちの方が大きくて、得した気分になっている。
「ピンクもいいけど白も好みです」
調子に乗って言ってみたら、「知らん!」とパンチが飛んできた。いつもの痛くないパンチじゃなく、ちょっと痛かった。
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