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🦈「……え?」
こさめは小さく目を瞬かせた。
過去。
“大事だった子”。
すちの言葉が胸に引っかかる。
でも、考えようとした瞬間——。
ずき、と頭が痛んだ。
🦈「っ……」
こさめは思わず額を押さえる。
🍵「こさめくん?」
すちが顔を上げた。
頭の奥が変だ。
知らない景色が、一瞬だけ浮かぶ。
雨。
赤い色。
誰かの泣き声。
『……っち』
誰かが、自分を呼んでいる。
でも次の瞬間には霧みたいに消えてしまった。
🦈「ぅ、あ……」
息が苦しい。
なんだこれ。
怖い。
すると、すちはすぐ立ち上がった。
🍵「こさめくん!」
鉄格子越しに手が伸びる。
🍵「大丈夫!? 顔真っ白だよ」
優しい声。
その声を聞いた瞬間、不思議と少しだけ落ち着いた。
こさめは荒い呼吸のまま、小さく首を振る。
🦈「……へい、き」
🍵「平気に見えない」
すちの声が少し低くなる。
本気で心配している声。
こさめは壁に寄りかかる。
頭痛は少しずつ引いていった。
けれど、胸のざわつきは消えない。
🦈「…こさめ…昔のこと、考えようとすると」
🦈「時々、頭いたくなるんです」
すちの動きが止まった。
🍵「……昔のこと?」
🦈「こさめ、昔の記憶ほとんどなくて」
静かな廊下に、その言葉が落ちる。
🦈「だから、すちさんが何を起こしてここに来たのかとかのニュースの記憶とかもないし」
すちの表情が固まった。
こさめは気づかないまま続ける。
🦈「小さい頃のこと、全然覚えてないんです。」
🦈「家族に聞いても、“色々あったから”って……」
苦笑する。
🦈「先輩達は知らされているらしいですけど、教えてくれなくて」
🦈「変ですよね」
でも、すちは笑わなかった。
まるで息を忘れたみたいに、こさめを見ている。
🍵「……何歳くらい」
🦈「え?」
🍵「覚えてないの」
🦈「んー……十歳より後、くらい?」
その瞬間。
すちの顔色が変わった。
こさめは初めて見る。
この人がこんなに動揺する顔を。
🦈「……すちさん?」
返事がない。
すちは何かを堪えるみたいに口元を押さえていた。
視線が揺れている。
🍵「……まさか」
小さな呟き。
こさめには聞き取れない。
ただ、すちの目だけが、壊れそうなくらい震えていた。
そして次の瞬間。
🍵「こさめくん」
名前を呼ぶ声が、今までになく切実だった。
🍵「昔、左肩に怪我したことある?」
こさめは目を瞬かせる。
なんでそんなこと。
でも言われてみれば——。
🦈「……あります」
制服の上から、自分の左肩を触る。
🦈「なんか傷あります。小さい頃のらしいけど、覚えてなくて」
その瞬間。
すちが、がたりと膝をついた。
🍵「……っ」
🦈「すちさん!?」
顔が真っ白だった。
苦しそうに呼吸をしている。
こさめは慌てて鉄格子に駆け寄った。
🦈「どうしたの!? 大丈夫!?」
すると、すちは震える手で顔を覆った。
🍵「……なんで」
🍵「なんで、生きて……」
その言葉に、こさめの背筋が凍る。
生きてる。
まるで——。
死んだと思っていたみたいな言い方だった。