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人間は誰にも言えない秘密を抱える…?そしてその苦しみから逃れたがっている…?社長は何の秘密を抱えているのだろう。考えている間に社長とねむちゃんが戻っていってしまった。
莫「何がどうなってるんだ!」
「セブン。全ての人間を救えるなどと、自惚《うぬぼ》れるなよ」
莫「何故、俺の名前を知ってる?」
「やがてお前の悪夢を思い出す時が来るだろう」
莫「もういい、どけ!俺は…俺のミッションを遂行する!」
何とかチェンソーのあいつを倒して玲子さんの元に辿り着いた私たち。
莫「玲子さんも一緒に!」
あの謎の男の何を考えているのかも分からないような視線を背に引き返した私たち。
莫「ここに隠れていてください。(警戒センサーをセットして)万が一の時はすぐ駆け付けます」
玲子「分かった」
先程と逆だ。何階建なのかも分からないこの階段をダッシュで駆け上がっていく。
莫「ねむちゃん!返事してくれ!ねむちゃん!」
幸呼奈「ねむちゃーん!」
歌華「捕まってたら捕まってるって言って!」
磨輝「捕まってたら返事できないんじゃないかな!」
何ここ?無限階段!
真っ先にゼッツルームのゼロのところに駆け込む。紅茶(風の燃料)をしばいているところ申し訳ないし朝、目が覚めた直後のテンションではないが、状況が状況だ。もう皆がいる。
磨輝「ゼロちゃま!」
ゼロ「ゼロちゃま⁉︎」
こいつ、ゼロにそんなあだ名つけてたのか。思いながらもスルーする。
ゼロ「今回のミッションは監獄に閉じ込められている以上、今までのように夢主の心の扉には辿り着けなさそうだな」
莫「じゃあ手がかりなしで解決するしか…」
なすか「おはようございます!」
陶瑚「なすかさん!おはようございます!」
富士見「おはよう、莫」
莫「お、おはようございます…」
磨輝「あ、ゼロちゃま!(小声)」
振り返る。もうしっかりバイクの形態に変身している。
ゼロ「ふふーん(小声)」
幸呼奈「ええ…(小声)」
莫「おお…(小声)」
小声でえばってらっしゃる。不覚にも可愛いと思ってしまった。
富士見「おい。ミッションの進捗はどうだ?」
莫「それが…美女木社長がねむちゃんだけを連れて逃げてしまって…」
なすか「また課長の推理から外れていっていませんか?3人家族で過ごす夢を見ているなら、自分の妻を見捨てるはずがないのでは?」
富士見「だが美女木の夢だというのは間違いない!それにねむちゃんのことを家族よりも大切に思っていたとしてもおかしくない。あんな事故のあとではなおさらな…」
莫「事故?何のことですか?」
なすか「信じがたい事実ですが、4年前…」
タブレットで記事を見せてもらう。
莫「ロケバス事故1人重体…?」
富士見さんとなすかさんは私たちが夢の中にいる間に大城《おおしろ》玲子さんのところに行ってくれていたらしい。時効ということで教えてくれたという。記事の内容はこうだ。4年前、あるロケバスが蛇行運転をしていたトラックと衝突してしまったのだ。トラックの運転手とロケバスに乗っていた芸能事務所の社長は軽傷で済んだが、座りどころが悪かったのか、社長の近くに座っていた10代の女性は…。そのロケバスに乗っていた「芸能事務所の社長」と近くに座っていたという「10代の女性」が美女木社長とねむちゃんだというのはいうまでもない。
富士見「残念ながらこの事件、読めてしまった。事故後のねむちゃんの容体は再起不能なケガか、あるいは死か…その事実を社長は隠蔽した」
莫「いや…ありえないですよ!」
太宰「ありえない、なんてことはありえない…」
太宰先生…文豪たちはたまにこうやってテレパシーで話しかけてくれることもある。
莫「ねむちゃんはCMとか広告にもたくさん出てるし…」
なすか「でも過去に撮影されたものや、CGの可能性も…」
今なら生成AIって手段もあるよね…。思いながらも気分が重くなっていく。
莫「でも…夢の中でだって元気にしてる!」
富士見「それは夢でだろ!生の彼女を見たことがあるのか?」
渚冬「光景が目に浮かぶな…」
茉津李「疑いが氷解していく…」
皆が重い口を開いていく。まだ朝食もしっかり済ませていないのに腹の中のものがいきなり鉛にでもなったかのようだ。
莫「ねむちゃんが死んでるわけない!」
幸呼奈「莫くん!」
莫くんを追いかけた先はオフィス美女木。社長とねむちゃんの事務所だ。美浪ちゃんも一緒にいる。
莫「ごめんな、付き合ってもらっちゃって」
美浪「別にいいけど…どうして要件を教えてくれないの?」
莫「社長に直接会って…聞きたいことがあって…」
美浪「まさか…この事務所に就職する気⁉︎」
莫 幸呼奈「え⁉︎」
美浪「そうやってねむちゃんに近づこうとしてるんでしょ、せこいぞ、バカ兄貴!」
莫「違う、これも仕事だって!」
美浪「適当なこと言わないでよ」
莫「適当じゃありません〜」
美浪「適当です〜」
莫「適当じゃないです〜」
幸呼奈「もうやめなよ、2人ともw」
美女木「どうかしたかね?」
ああ、まずい騒ぐから。社長が入口の前までやってきた。
美浪「鶴亀芸能の万津です。先日は現場で兄が…」
莫「夢で会ったセブンです」
幸呼奈「私も会いましたよね?覚えてませんか?」
美浪「はぁ!ちょっと何言って…」
美女木「覚えているよ。夢の時とは別人のようだがね」
事務所に入れてもらう。案内されたそこにはねむちゃんとの写真の写真立てが大量に飾られている棚があった。そこは家族との楽しかった思い出を残しておくための飾り棚というにはあまりに物暗く、どちらかというと死んだ子の歳を数えている仏壇のようであった。
美女木「君たちが来る予感はしていたよ」
莫「ねむちゃん…本当に事故のあったんですか?」
美浪「事故って…」
美女木「ああ。ねむは私にとって…我が子のようだった」
それはそうだろう。ずっと一緒に頑張ってきたのだから。そんな子が目の前で体を支えていた大切なものを失ったのだ。社長はスクープを恐れてVIP専門の病院で治療を受けさせたが、意識が戻らないどころか忽然と姿を消してしまったのだという。警察に通報することもできたが、情報がマスゴ…おっほん。マスコミに漏洩しないように内密に捜査をしていたらしい。結局、今まで見つからずじまいということだ。
莫「どうしてずっと隠してたんですか…?公表すれば、彼女の捜索だってもっと…」
美女木「国民を悲しませたくなかった。ねむはもう、私だけの娘じゃない。ねむは死んだ。そんな噂が流れたら、多くの国民の努力する力や夢を奪いかねない。それだけは避けたかった。何よりもねむ本人が望んでいなかっただろうから」
幸呼奈「それはねむちゃんが望んでないんじゃない。社長。貴方が望んでないんでしょう?」
莫「幸呼奈さん。今はやめて」
幸呼奈「…ご、ごめんなさい…」
美女木「いい。分かってる…そんなのは綺麗事だ。誰よりも事実を受け止めたくなかったのは、私なのかもしれない…」
莫「社長だけじゃありませんよ」
美女木「え…?」
莫「俺だって…認めたくありません。絶対に」
美女木「ねむは幸せ者だな」
ゼッツルームまで戻った私たち。怪事課の2人も待っていてくれた。
富士見「でもこのままねむちゃんの事実を公表しないわけにもいかない」
なすか「もし亡くなっているなら、彼女の尊厳にも関わりますからね…」
富士見「ああ」
莫「ねむちゃんは…今もどこかで生きてる可能性だって…」
富士見「彼女は事故で重体だったんだぞ!病院で治療を続けなければ、助かる命だって助からない!」
莫「でも可能性はゼロじゃない!美女木社長は…ねむちゃんが長年、生死不明であることに苦しんでいた。だからこそ心の監獄に閉じ込もって、彼女と過ごす夢を見ていたんです。なんとしても悪夢から救い出して見せます」
「「緊急事態だな。参加させてもらおうか」」
磨輝「待ってたぞ!」
渚冬「姉貴から話は聞いた」
茉津李「次は俺たちが行こう」
よし。何はともあれ役者は揃った。
戻ってきた夢の中。階段を発見。見上げる。天井が見えない。これは…どこまで続いているのだろう。もうあんなの(序盤参照)はごめんだ。
渚冬「アアナンテロングナカイダンナンダ、アハハ…」
幸呼奈「(いつもの竹杖を召喚して)乗って」
皆で乗れるくらいには強い竹杖でよかった。
ねむ「ねえ戻ろうよ。お母さんを助けないと」
美女木「いいんだよ。お前さえ助かれば」
なんだか嫌な予感のする言葉が耳をよぎったが、竹杖はどんどん上を目指していく。やってきた98階。竹杖の効力はここまでだ。あと1階でねむちゃんと社長の元へ行けるかもしれない。ここからは歩いて行こう。でもここは屋上ではない。
磨輝「アーカイダンノボルノツカレター《あー階段、上るの疲れたー》」
茉津李「アシガゲンカイダー《足が限界だー》」
幸呼奈「ワタシタチヲココカラダシテクレナイナラココデオオアバレスルシカナイカナー(私たちをここから出してくれないなら、ここで大暴れするしかないかなー)」
例の謎の男も上にいることを信じてわざとらしいくらいの声を出しながら階段を上っていく。
「夢を叶える時が来たなぁ。夢主」
は!そのイケボは言っていた謎の男の!足を止める。奴は何をする気だ。もう盗み聞きが癖になっている。
「お前は深層心理で思っていた。4年前の事故のこと。亡くなったのは彼女ではなく、自分が身代わりになれたらどんなによかったかと。 だからお前に、夢を叶えるチャンスをやろう」
磨輝「え、何、勝手に言ってるの、あの悪夢おじさん」
幸呼奈「悪夢おじさん⁉︎」
「あいつを死ぬ気で倒してみろ。自分が犠牲となれば、今度こそねむを助けられる」
幸呼奈「あいつってチェンソーのあいつのこと?は?」
本当に何を言ってるんだ、あいつは。と思う。
ねむ「だめだよ…だめだよ、やめて!」
美女木「来るな!」
幸呼奈「社長、待って!」
ついに2人のところまで駆け上がった私たち。
莫「それは罠だ!そんなことをしてもねむちゃんは助からない。悪夢が叶ってしまったら、あんたの体がナイトメアに乗っ取られるだけだ!」
「たとえそれでも、夢主の深層心理がそれを望んでいるとしたら?」
謎の男の声と同時にチェンソーのあいつが襲ってきた。真っ先にかわす。
「ここで夢が叶わなければ、彼女を救えなかった現実が彼を永遠に苦しめることになる。それでもいいのか?」
背中から声が聞こえる。いや待てよ。富士見さんの時もだが、こいつさっきまで社長とねむちゃんのそばにいなかったか?何故、今は私たちの背中に…
莫「ねむちゃんは…まだ死んだと決まったわけじゃない!」
渚冬「どけ!」
莫くんがこっそり渡したカプセムと音撃の異能の力でチェンソーのあいつが吹っ飛んだ。
莫「ねむちゃん。ごめん。君が探って欲しくなかった思いに気づいてあげられなくて。 社長に聞いたよ。4年前、君に起きたこと」
茉津李「俺たちも小耳に挟んで放っておけず…」
ねむ「ううん。私こそごめんなさい。でも自分にも分からなくて。現実世界で私が今、どこにいるのか。生きてるのかさえも…」
莫「俺は信じてる。病室から消えた君が、きっとどこかで今も生きていると。約束するよ。Find NEM《ねむを見つけろ》.俺が自分に与えたもう1つのミッションを必ず遂行してみせる」
磨輝「うん。僕もねむねむのこと助けたいな」
ねむ「もう…ねむねむって何…」
磨輝「よし。笑った!」
渚冬「よかったな。」
ねむちゃんは久しぶりに笑った。ほんの少しだけ心が温かくなった気がしないでもない。
莫「だから…こんな悪夢からは目を覚そう」
「言ったはずだ。ここは死に至る監獄。出口はないと」
再び奴の力でチェンソーのあいつが大量に錬成されてしまった。気づけば奴は消えていった。
莫「危ないから2人は離れて。Escape with all the prisoners 《全ての捕虜とともに脱出せよ》…コードナンバー:7《セブン》。ミッションを遂行する。(ドライバーとカプセムをセット)変身!」
幸呼奈「“縁の下で鳴いているのですけれど、それが、ちょうど私の背筋の真下あたりで鳴いているので、なんだか私の背骨の中で小さいきりぎりすが鳴いているような気がするのでした”…」
持っていたナイフが身の丈ほどはある大きな鎌が錬成された。
幸呼奈「私たちが引導を渡してやるよ!」
なんとか皆の力で殲滅することに成功。突然、警戒センサーの音が耳をつんざく。センサーが映し出す映像を見てみる。どうやら玲子さんがまだ逃げ惑っているらしい。
ねむ「助けにいかないと!」
美女木「いや…誰よりもお前を救いたかったんだ!」
しかし再びチェンソーのあいつが先程以上に大量に錬成されてしまった。
莫「大丈夫。脱出するぞ。全員でな!この監獄そのものがナイトメア。そしてここは最上階。だとすれば…」
莫くんがプロジェクション…光学迷彩の力のカプセムであるヴィジョンを見せてくれた。映っているものはおそらく脳みそ。弱点はあそこだ。 この脳みそはおそらくナイトメアのものだろう。勝った。見えてしまえばあとはもうこちらのもの。そして光学迷彩の力はこういうヴィションを見せるだけのものではない。分身。
莫「1人じゃ救えなくても…これで救える!」
茉津李「幸呼奈!莫!来い!」
チェンソーのあいつは莫くんの分身と渚冬兄と磨輝に任せて私たちは行こう。一瞬、目の前が真っ暗になったが、すぐにナイトメアの脳みそのところまで放り出された。茉津李兄の影の異空間からここまで繋いでくれたのだ。この影の異空間の能力には条件がある。自分が行ったことのある場所にしか行けないということ。言い換えれば行って(見て)しまえば…。落ちていく力に乗って莫くんも茉津李兄もそれぞれ体勢を立て直していく。止めを刺す。ミッションコンプリートだ。駆逐完了。脱出成功。気分はまさに感無量。お疲れのご様子だが玲子さんも生きている。よかった。言ったとおり全員で脱出できた。
美女木「玲子!玲子!無事でよかった…本当にすまない… 」
玲子「ううん。あの子を救いたかったんあの子の気持ちは…分かってたから…」
許してくれた。
ねむ「ありがとう。セブン」
莫「ああ」
磨輝「あとはねむねむ探しだけだね」
ねむ「ねむねむ…」
ずっとその呼び方でいくつもりなのだろうか。遠くに見えたのは例の謎の男だ。
「コードナンバー:セブン。お前はいずれ、その力の代償を知ることになる…」
磨輝「本当に何言ってんだ、あの悪夢おじさん」
渚冬「お前はどんなあだ名つけてんだよ…」
あいつもその呼び方でいくつもりなのだろうか。いい加減、名前が知りたい。その力の代償とやらも…気づけば再びあいつは消えていた。
戻ったオフィス美女木。
莫「ねむちゃんを見つける約束、俺が必ず果たしてみせます」
美女木「本気で待ってみることにするよ。ねむの帰りを」
仏壇にしか見えなかったそこは片付けられ、今度こそ家族との楽しかった思い出を残すための飾り棚に見えなくもなくなった。少し明るくなったか。希望が戻ったように思う。そう願いたい。
莫「これからはいい夢見られますように」
帰り道。どこからかは分からないが、奴の信じられない言葉が耳をよぎった。
「これからも…悪夢を導く力となれ…ねむ」
“この小さい、幽かな声を一生忘れずに、背骨にしまって生きて行こうと思いました”
抜粋
太宰治『きりぎりす』