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邸内へ招き入れられると、改めてその広さに驚かされた。
「お部屋は、どちらにご案内をされますか?」
源治さんが声をかける。
「私の部屋に。ティーセットもそちらに持って来てもらえるか」
彼がそう答えると、
「承知しました。彩花お嬢さまも、どうぞごゆっくりと」
源治さんは笑顔を返し、離れて行った。
彼に付いて廊下を歩きながら、壁際に並ぶアンティークのガラス製の花器や大理石の胸像などの調度品に、目を奪われる。
「……本当に、お城みたいで」
思わずため息が漏れると、
「……君は、私の母と同じ反応をするんだな」
と、彼が呟いた。
「お母さまと?」
「ああ、かつて母がそう話していたと、父から聞いたことがあるんだ」
「そうなんですね……」
お母さまのことを思い出してか、彼が薄っすらと目を細めて、亡くなられたお母さまやお父さまの分まで、せめてこの人のことを愛していけたらと思わずにはいられなかった……。
緋色のじゅうたんが敷き詰められた長い廊下の片側には、幾つもの部屋が並んでいて、時折そこから家政婦さんらしきエプロン姿の女性が現れては、笑顔でおじぎをして行った。
「えーっと……家政婦さんとかって、何人ぐらいいらっしゃって……」
それぞれの部屋から出て来る人たちは、みんな違った顔で、一体どれくらいの方がいるんだろうと、単純に気になった。
「そうだな……使用人らは、住み込み以外も含めると、だいたい十数人くらいか」
「そんなにですか⁉」
驚きの隠せない私に、「うん」と彼が頷いて、「家には会社関連の訪問客も多いので、いつも気持ち良く整えておくために、ある程度のスタッフも入り用だからな」と、話して聞かせた。
「そう、ですよね……」
あれだけの規模の会社の創業主なんだもの、それも当然なのかもと思うけれど、やっぱり自分とはだいぶ次元の違う話に、まるで夢物語のようにも聞こえるみたいだった。