──父とそんな一件があった週末のこと、私は貴仁さんと仕事終わりに待ち合わせて、以前にも訪れた創作フレンチのお店で食事をしていた。
相変わらずお料理はどれも美味しかったけれど、やっぱりお父さんとのやり取りが頭に引っかかっていて、終始気もそぞろだった。
「どうした? 口に合わないものでも、あっただろうか?」
こちらを気づかうように彼から見つめられて、
「い、いえ、そんなことは……。とと、とってもおいしいです! アハハ」
ついどもりがちになった上に、語尾にわざとらしくも思われるような渇いた笑いをくっ付けてしまった。
「本当にか? 遠慮せずとも、言えば何か他のものを作ってもらうが」
彼がより心配げに、額に刻んだしわを深める。
「いっ、いえ、ほ、本当に大丈夫ですから……」
にっこりと笑うつもりが、自分でも顔が引きつったらしいのが知れて、どうやらドツボにハマった気がした……。
「では体調が良くないのか? それならもう帰ろうか?」
「あの、えっと、それも違うので……本当に」
なんだか底なし沼にでもズブズブと落ちていくみたいで、どうしたらいいのかを思い悩む。
……だって、ブライダルフェアに誘うだなんて、どうにも言いにくくて……。
だけど、そのままにしておくと、お父さんのことだから、またきっと矢のような催促が……。
家で一人で見るのもなんとなく照れくさくて、持ってるカバンの中にパンフはずっと入れっぱなしなんだけれど……。
でもそれを今ここで出すのさえ、恥ずかしくて……。ああー、もうどうすれば……!
神様、ヘルプ……!!