あの日、僕は知ったんだ
この世に天使がいるということを。
そして、僕を愛してくれた人が居たということを。
『君が、安らかに眠れる日まで』
第一章 『夏のような君』
この世は綺麗事ばかりだ。
『自分さえ良ければ他人なんて気にしない』
そんな汚い考えを持っているような人間ばかりなのに、皆んな当たり前のように嘘を吐く。
僕は、こんな世の中は嫌いだ。
そう、公園にポツンと寂しそうに置いてあったベンチに座りながら考える。
「死にたい…」
発してはいけない言葉だと、自分の命を突き放してしまう言葉だとわかってはいる。
でも、そんな変な縛りに狩られながら、僕は生きていけるのだろうか。いや、きっと無理だ。
僕はきっと、命を放棄してしまう。
「帰るか…」
ゆっくりと立ち上がり、歩き出す。
この公園は、僕が生まれた時からある公園。だいぶ愛着の湧いてきた遊具。ベンチ。
『でも、後少しで取り壊されてしまう』
そう考えるだけで苦しかった。
ずっと、僕の心の拠り所だったこの公園。
公園の入り口には看板がある。いや、つい最近出来たんだ。勿論、報告文が書いてある看板だ。
『10月4日〜10月30日まで、暁千星公園の解体作業を行います』
こう書かれた看板を見た当初、俺は膝から崩れ落ちるようにショックを受けた。
この先、この公園がなくなったら僕は生きていけるのだろうか。
「いや、きっと無理だな」
半分諦めかけな僕は、この先の事を考えるのを辞めた。きっと、何も変わらないから。
△▼△▼△▼△▼△▼△
家路に着くと、母が出迎えてくれる。
「おかえり」
「ただいま。母さん」
エプロン姿の母が出迎えてくれる。
髪を一つに括っていて、いつもとは雰囲気が違う。珍しい。
「夕飯はどうする?何がいいかしら」
夕飯…別になんでも良いと思う。だって、食べられれば何でも一緒だからて
「食べられれば何でもいいよ」
「何よそれ(笑)」
半ば呆れられたような言い方でそう言われる。
母さんも、きっと慣れたんだろう。
「貴方はもっと欲張った方がいいわ、我慢しすぎてもいけないもの」
そう言われても…となるが、母さんもきっと心配してくれている。申し訳ない気持ちに狩られるが、こればっかりはしょうがない。許してほしい。
「うん。わかってる…」
「じゃあ、今日の御夕飯はハンバーグにしましょうか」
「好きでしょう?」
と、言い、母さんは少し微笑んだ
「うん」
質素な返事だが母さんも慣れているのだろう。悲しげな様子を浮かべるでもなくキッチンへと向かっているのできっと気にしていない。
部屋に行って宿題でもしようかと思い、鞄を持ってリビングから出る
小さい頃から共に成長し、最近は少し古くなった廊下を歩く。
この廊下には沢山の思い出がある。
小さい頃よく転んだり、壁に落書きして怒られたり。
色々な思い出が詰まっているこの廊下、家。
「勉強しよう」
部屋のドアをガチャりと開けると、もう随分と見慣れた僕の部屋が視界に入り込む。
鞄を起き、ノートを開く。
高校2年と言うこともあり、勉強面では少し落ち着いてきた。
だけど、テストでは毎回上位に入れるように勉強を怠ったことは一度もない。
親の期待に答えるために…
▽△▼△
昔から、僕は冴えなかった。
運動だって、勉強だって…友達関係だって、全て平均点以下。
きっと、親はその時から僕を見放していた。呆れていた。
でも、その日を境に僕の人生は変わった。
「お母さん!見て!ボク、テストで98点取れたよ!」
「あらぁ!凄いじゃない!…でも、98点かぁ…」
「まぁ、凄いけど、次からは100点取れるように頑張りなさい」
「え…」
「うん、頑張るね」
『ボクはもっと頑張らなくちゃ…』
『お母さんに、褒めてもらえるように…』
それからの僕は凄かった。
帰ってきたら晩ごはんまでずっと勉強、食べ終わった後も勉強。
でも、頑張っても頑張っても、努力が報われることはなかったんだ。
僕が、出来ない子だから。
そして3年後、僕の実の母は、交通事故で亡くなった。
▼△▼△▼△▼△▼
「奏太〜!ご飯よ〜!」
良く透き通る声で名前を呼ばれる。
そうだ、奏太…
僕は、「浅葱奏太…」
「奏太?寝てるの?」
母は部屋に入って来た。
「いや、起きてるよ」
「そう、ご飯出来たから、食べちゃいなさい」
「うん」
ご飯が完成したってことは、僕は何分、何時間寝ていたんだろう。
後で予習しよう。
部屋のドアを開け、廊下に出る。
白く、質素な壁は、生活感の感じられない。
曲がり階段を降り、1階の階段に出る
リビングのドアを開け、中に入ると、美味しそうなご飯が沢山テーブルに並んでいた。
この、新しいお母さんになってからは、生活も、本当に楽になった。
△▼△▼△▼△▼
次の日の朝、ベッドの上で目を覚ます。
今日は確か土曜日だったはず。
少し外に出て気分転換しよう。そう思いベッドから降り、軽く身支度をする。
「あら?朝早くからどこに行くの?」
僕の支度音で起きたであろう母が、玄関で靴を選んでいた僕にそう問う。
「ちょっと、近くの海に、気分転換しようと思って」
「そうなの、気をつけていってらっしゃいね」
「うん」
ガチャり。と音を立てて家を出る。
やっぱり、外は気持ちが良い。
「行くか」
▼△▼△▼△▼△▼
4分程歩き、海に着く。
「ふー…」
海独特の塩水の匂いは好きだ。
夏が来たんだと、実感できるから。
3年前の7月25日。交通事故にあった。
僕と、他二人を乗せた自動車に1台の車が衝突してきた。その衝撃で、一人は亡くなり、僕ともう一人は生きた。
確か…そうだった気がする。
3年前の事故だからか、記憶が曖昧だ。
もう、忘れよう…
「そろそろ帰るか」
朝方だし、これからきっと日も出てくる。暑くならない内に帰ろう。
ザーザーと音を立て、波が行ったり来たりする。実を言うとこの音は少し苦手だ。
波に、連れて行かれそうな気がするから。
「ねぇ」
溶かすような、透き通った声で後ろから呼ばれた。
「?」
僕は浜辺の方へ、声がした方へ振り返る。
そこには、長い茶色の髪を靡かせた、綺麗な女の子がいた。
思わず見惚れてしまう程の、綺麗な顔。
白いワンピースに見を包んでいる彼女は、とても…
「おーい、聞いてる?」
「あ、はい」
そうだ、今はこの子に話しかけられてるんだった。話に集中しよう。
「えっと、それで、何か用ですか?」
「用っていうか、君が、今にも死にたそうな顔してたから…」
「死にたそうな顔?」
「そう!なんか、この世の終わりみたいな顔してたよ!」
何だこの子は…出会ったばかりの人の顔をめちゃくちゃに言ってくる。
「あ、もしかして、嫌だった?だとしたらごめんね!私、言いたいことはズバズバ言っちゃう性格でさー…」
「いえ、気にしてません。用がないなら帰ります。」
出口の方へ体を向け歩きだそうとすると、急に誰かに右手を掴まれた。まぁ、それをするのはこの人しか居ないのだけれど、
「ねぇ、少年」
さっきまで「君」呼びだったのがいつの間にか「少年」呼びに変わっている。僕よりも年上の人なのだろうか。
「帰るのはまだ早いよ、ちょっと付き合ってくれる?」
彼女の雰囲気が急に変わった気がした。
さっきまで、明るい少女みたいな感じだったのに、急に大人の女性のような、そんな気がした。
「まぁ、、はい」
「そっか!ありがとう!」
また雰囲気が変わった。次は明るい少女。本当に表情がコロコロ変わる人だ。
そして彼女は海の方へ、波の方へ行くと、座った。
「まぁ、まぁ、座って座って!」
と言い、僕に手招きをした。
僕は彼女の近くに行くと、人一人分程開けて、彼女の隣に座った。
「もー…そんなに私が嫌…?流石に傷ついちゃうなー」
「嫌な訳じゃ…」
「えへへ…冗談冗談!ごめんね!君にそんなつもりがないなんて事、わかってるよー」
本当に何なんだこの人、話についていけない。
「あ!そうだ!自己紹介してなかったね!」
と彼女は言い、立ち上がった。
「私は綾部美咲!美咲って読んでも良いしなんて呼んでも全然ウェルカムだよ!」
と言い、僕にニコッと微笑んだ。
美しい。その笑い皺も、綺麗なスカイブルーの目も。
「君はなんて言うの?」
「僕は…浅葱奏太」
自分の名前を名乗ったのは久しぶりだ。
きっと、高校の自己紹介のとき以来だ。
「浅葱奏太かー、いい名前ね!」
「ありがとう、美咲さんも良い名前だと思う」
「ありがとう!嬉しい!」
そこからは、何の変哲もない会話をした。
学校はどうだとか、好きな人は居るのかとか、
ごくごく普通の会話だと思う。
「少年はさ、自分の生きる意味って、ある?」
さっきまであんな話をしていたのに、急に話が変わった。生きる意味…
「多分…恩返しをする為…だと思う」
「恩返し?」
彼女は興味津々で身を乗り出して来た。
「昔、僕がいじめられてたときに、助けてくれた女の子が居たんだ。」
▼△▼△▼△
「ほらほーら!w」
「童貞奏太く〜ん!!w」
元々暗かった僕は、小学生の頃、虐めに合っていた。
学校一の美女に振られたとか訳のわからない噂が理由で。
「ひっぐっ…辞めてよぉ…」
「うぇw泣いてんのー!」
「童貞奏太がなーいた!童貞奏太がなーいた!」
『ちょっと!何やってるの!』
「え…?」
急に声がしたと思ったら、学級で一番モテるって言われてた女の子が居た。
虐めてきた男子は、あの後先生に怒られていた。
「あの…ありがとう…」
『ううん!!全然!』
「でも…どうして僕を助けてくれたの…?」
『えっ?』
『何でって…』
『君が…だから…』
「え?」
『なんでもない!』
『それじゃ!またね!』
△▼△▼△▼△▼△
「っていうことがあったんだ。」
「へー…!少年にも青春っていうのがあったんだね!」
「…」
「ごめんなさいでした。」
僕が黙ると彼女は謝ってくる。それが少し、少しだけ面白くて…。
「それで、恩返しって?」
彼女はそう訪ねてくる。確かに、恩返しの訳を言っていなかった。
「その子は、次の学年に上がる前に転校しちゃったんだ。」
「ふーん…」
「僕が学校を出る前に言われたんだ。」
「なんて?」
「「私はもう転校しちゃうけど、いつか、また会いに来てね」って言われたんだ。」
確か…僕の記憶の中では、あの綺麗な女の子は、そう言っていた気がする
「だから、今もその子を探してるって言うこと?」
「そういうことになるね」
「何それ!凄いロマンチックだねー!」
彼女は目を輝かせてそう言う。
「僕は、またその子に会って、お礼を言いたいんだ。」
「後、何かプレゼントしたいな」
「へー…」
「それでそれで?その子はまだ見つかりそうにないの…?」
「まぁ…名前も顔も、そんなに覚えていないから…」
すると彼女は急に寂しそうな顔をして、「そっか…」と言った。
「じゃあ、私が協力してあげる!!」
「えっ?」
彼女は自信満々にそう言う。何を…?
「だから、私もその子を探すのを手伝ってあげる!」
「1人より、2人の方が見つかる可能性が高くなるでしょ?だから、私が手伝ってあげる」
「…」
「だから、その子を見つけたらこう言ってあげて」
『やっと君を見つけた』
「ってね」と、彼女はそう言った。寂しそうな顔だけど、口は笑っていて、なんと言うか、『儚い』という言葉が合っている気がする。
「それで、そんなに探してるってことは、その子が好きなの〜?」
「そういうのじゃ…いや、好きだったのかもしれない…」
「ふ〜ん笑そっかそっか!」
「少年にもそういう時期があったんだね!」
「まぁ…と言うか、少年呼びなんだね」
ずっと気になっていたことを聞く。すると、
「えっ?何か変かな?」
と彼女は言った。変だろう、明らかに僕より小柄だし、そんなに少年呼びされる程年が離れて居るのか。
「じゃあさ、少年はいくつ?」
「8月4日が誕生日の、今年で17になるよ」
「ってことは、今は16?」
「そうだね」
「惜しいな〜!私は、9月13日誕生日の、今年で18!」
僕より1つ年上なのか、確かに、体型だけで年齢を決めつけるのは良くない。
「だから、少年は少年!」
「中々説得力のない発言だね」
「うるさいなー!そういう所は律儀だなー…」
「でもまぁ、今日からよろしくね、少年」
「よろしく、美咲さん」
何となくで終わってしまったけど、でも、楽しい時間を過ごせた。
「あ!LINE交換しようよ!それだったらいつでも連絡出来るでしょ?」
「うん、いいよ」
「やったー!」
彼女は何をするつもりなのか、果たしてどうやってあの女の子を探すのか、気になることはまだまだ沢山ある。
でも、これから見つけて行くのだろう、この、天真爛漫な美咲さんに。
次回、第二章『彼女が消えた日』
コメント
6件
なんか、私が持ってる小説📖の本に、似てる、、
凄い✨