テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
詩音は小さな手で彼の腕にぎゅっとしがみつきながらジェットコースターに乗っていた。
走り出すまでは少し緊張した表情だったものの終わってみれば思っていたほど怖くはなかったらしい。
「たのしかった!」
満面の笑みを浮かべながらすぐに次のアトラクションへ目を向ける。
「つぎはあれがいい!」
そう言った詩音の指差した先にあったのは、お化け屋敷だった。
洋館風の外観はどこか不気味ではあるものの子供向けらしい可愛らしさもあり、詩音は何のためらいもなく駆け寄っていく。
それを見た和葉は慌てて呼び止めた。
「詩音、それは怖い乗り物だよ? 詩音はお化け苦手でしょ? きっと怖くなって泣いちゃうから……ほら、あっちのクマさんのコーヒーカップにしよう? ね?」
そしてやんわり説得して見せるものの詩音は首を横に振る。
「いや!」
頑として譲ろうとしない詩音に和葉は困り顔を浮かべ、そんな二人を見ていた湊が横から口を開く。
「トロッコに乗って進むタイプみたいだし、もし怖くなったら目を閉じてれば大丈夫だよ。詩音ちゃんが乗りたいなら乗せてあげよう?」
「……うん」
湊にそう言われ、和葉は渋々頷いた。
もっとも、本当は詩音以上に気が進んでいなかった和葉。
それと言うのも和葉自身、お化け屋敷が苦手だったのだ。
(まあ、子供向けだし、大丈夫よね……)
そう自分に言い聞かせながらトロッコへ乗り込む。
三人掛けの長椅子になった座席に和葉、詩音、湊の順で腰を下ろし、トロッコはゆっくりと暗闇の中へ進んでいった。
ところが、予想に反して館内は意外にも作り込まれていた。
不気味な音楽が流れ、人形などの仕掛けが次々と現れるたびに詩音は耐えきれなくなる。
「こわい! おばけやだぁ……!」
涙声で叫びながら和葉へしがみつく詩音。
「大丈夫よ、怖くないから。もう少しだからね」
優しく背中をさすりながら宥める和葉だったが、その声とは裏腹に詩音を抱く手はわずかに震えていた。
その震えに気づいた湊は詩音ごと和葉の肩をそっと抱き寄せる。
「二人とも、怖かったら目を閉じてるといいよ。大丈夫、俺がついてるから」
その低く穏やかな声に詩音は小さく頷くとぎゅっと目を閉じ、和葉も安心したように肩の力を抜いた。
お化け屋敷を出る頃には、さっきまで泣いていた詩音はすっかり元気を取り戻していた。
「つぎ、コーヒーカップのる!」
そう言って元気よく駆け出す詩音を見つめながら湊と和葉は安堵したように顔を見合わせる。
少し先を歩く詩音の後ろを二人は肩を並べてゆっくり歩いた。
「和葉はお化け屋敷、苦手だったよな。子供向けだから平気かと思ったけど意外と作り込まれてたから流石に怖かったよな」
湊が苦笑しながらそう言うと和葉は照れくさそうに微笑んだ。
「うん……。でも湊さんが居てくれたから……安心できたよ」
その一言だけで湊の胸は温かさで満たされる。
「和葉……」
思わず名前を呼んだ、その時だった。
「おにーちゃん、ママ、はやく!」
詩音が二人の元へ駆け戻ってきて、それぞれの手をぎゅっと握ると不思議そうに二人の顔を見比べて小首をかしげた。
「おにーちゃんもママも、かおあかいよ? あついの?」
あまりにも純粋な問いかけに二人は一瞬固まり顔を見合わせてしまう。
「そ、そうかも。少し暑いかもな」
照れ隠しに笑った湊へ続くように和葉も慌てて口を開いた。
「そうね。喉も渇いたし、お腹も空いてきたでしょ? 少し早いけどお昼ご飯にしない?」
「そうだな。ご飯を食べたらまたアトラクションに乗ろう」
「うん!」
湊と和葉は照れ笑いを浮かべながら互いに視線を交わすと、そのまま詩音に導かれるように歩いて行った。
コメント
1件
読ませていただきました!今回もじんわり温かい気持ちになりました🫶 特にお化け屋敷のシーン、和葉さん自身が怖がっているのに詩音ちゃんをちゃんと抱きしめて宥めていて、その健気さに胸がぎゅっとなりました。そんな彼女の震えを見逃さず「俺がついてるから」と肩を抱き寄せる湊さんの優しさも良かったです…! 最後に詩音ちゃんから「顔赤いよ」と純粋なツッコミが入るところが、ほっこり可愛くて好きです。親子3人の距離がじわじわ縮まっていく感じ、これからも楽しみにしています🌸
宇津Q
1,982
鷹槻れん

52,986
鷹槻れん

25,540
#ヤクザ
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
2,849