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「こんばんは!」
「ちーっす、相変わらず仲がいいんだな」
キレイ目男子と、桃瀬が店の前で待っていた。
そんなふたりの前に、手を繋いだまま現れたのは、仲の良さをこれでもかとアピールするためだったんだけど、照れてしまったタケシ先生が、その手を無理やり解いてしまう。
「コイツとは、仲がいいワケじゃないよ。病みあがりの病人が医者の俺がいるのに、道端で倒れたりしたら、それこそ洒落にならないでしょ」
「へえぇ、なるほどねぇ」
「周防さん、本当に面倒見がいいですね」
そんないいわけも、桃瀬は置いておいて、このキレイ目男子には通用してないって感じ。口元を押さえて、意味深な笑みを浮かべているから。
俺としては、もっとタケシ先生との関係を、これでもかと甘いものにしたかった。食ってもいないというのに、胸焼けがするとか、ワケのわからないことを言って、見事に全部蹴散らしてくれる。
そのまま、キレイ目男子の顔を見続けていると、いきなりペコリと丁寧にお辞儀をされてしまった。
「はじめまして。郁也さんと一緒に暮らしてます、小田桐と言います」
次の瞬間タケシ先生に、バコンと後頭部を強く殴打されてしまう。
「一番年下のおまえが、先に挨拶しないでどうするよ?」
「怒らないであげてください。僕がいきなり挨拶したんですから」
「でも……」
「挨拶が遅れて、本当にすみませーん。タケシ先生のカレシです」
またもや容赦のないタケシ先生の殴打が、俺の後頭部を襲った。
「おまえ、なに言ってんだ! きちんと自分の名前を言って挨拶しろ」
いちいちそんなふうに、激しい照れ隠しをしなくてもいいのにさ。
「タケシ先生のカレシの太郎でーす、はじめましてでーす」
「おまえなぁ!」
「ふふふ。本当におもしろい人だね、太郎くんって」
「おもしろいというか、頭がおかしいんだコイツは! どうして、本名で挨拶しないんだよ」
「本名よりも、タケシ先生に付けられたこの名前のほうが、気に入ってるから。かわいがられてるって感じがするし」
「かわいがってなんて、いないんだからな。おまえみたいなバカ犬は、俺は知らん!」
怒りまくるタケシ先生をしっかり無視して、向かい側のふたりが声高々に、俺らの様子をそれぞれ口にする。
「周防が簡単に翻弄されてる姿、すっげぇ貴重だろ」
「確かに。最初から、こんな感じだったの?」
「ああ、もう驚くしかねぇだろ」
「本当だね、これはすごいや」
言いながらタケシ先生を見やると、顔を真っ赤にして、ふるふる震えていた。もしかして、激しくテレている?
「そこのふたり、いったいなんの感想を、楽しげに語り合ってるんだい? そろそろ店に入るよ!」
イライラしてるタケシ先生の後ろで、ニヤニヤする俺と、含み笑いをするふたり。
ここまでアピールしておけば、いらない心配をしなくていいだろうって思ったのに、店内に入ると一転、店の中にいるヤツラが、俺たちに視線を飛ばした。
(それはしょうがないと思う。俺以外の方々は、世の中からイケメンと言われるであろう類だから。つぅかレベルが高すぎて、引き立て役にもなりゃしねぇ……)
そんな投げつけられる、好奇な視線を無視して四人で着席し、メニュー表を広げて、各々食べたいものを注文した。
というかドリンク以外、俺の頼みたい物を全部無視して、勝手にテキパキと注文したのは、なぜなんだ?
程なくしてタケシ先生の生ビールと、俺らの飲み物が運ばれてくる。
「とりあえず、乾杯しちゃおうか。太郎、みんなに挨拶しな」
言いながらタケシ先生に、肘でつんつんと突かれたが――。
「え~っ、なにを言えばいいか、全然わかんねぇ」
本当に、なにを言えばいいのかわからなかったから、そう口にしたのに、そんな俺を白い目で見て、頭を抱えるタケシ先生。
こんな場面に慣れていないから、しょうがないじゃないか。
「ももちん悪い。代わりに挨拶してくれない?」
タケシ先生は右手で頭を抱えながら、向かい側にいる桃瀬に頼むと、目の前で喜んでジョッキを掲げた。
「おー、いいぞ。太郎退院おめでとう! あと、周防と恋人になれて良かったな。末永く付き合ってやってくれ、乾杯!!」
「かんぱーい!」
四人でカチンとジョッキを鳴らし、派手に乾杯。桃瀬の言葉のお蔭で、暗い雰囲気も払拭され、みんなが笑いながら飲み物を口にする。
ふと目の前にいる小田桐さんと目が合って、疑問に思っていたことを聞いてみようと思った。
「あの小田桐さんって、コイツのどこが良くて、付き合ってるんですか?」
俺の質問で目の前にいる桃瀬が、一気に不機嫌そうな顔をする。
「コイツ、何気に酷い」
唇を尖らしながら文句を言う桃瀬に、隣にいる小田桐さんがふわりと、柔らかくほほ笑む。
「太郎おまえは、本当に口の訊き方がなっていないよね」
そしてタケシ先生にも、なぜか突っ込まれる。だって、あんなハチャメチャな絵を描くコイツを、今更桃瀬さんとは呼びたくない。
「タケシ先生、だってさコイツ、顔はいいけど、すっげぇ鈍感じゃん。一緒にいて、イライラしないのかなって思ったんだ」
「そうだね。結構鈍感だけど、そこもひっくるめて、全部が好きなんだ」
小田桐さんが瞳を細めながら、すごく嬉しそうに答えると、隣で飲み物を飲んでいた桃瀬が、思いっきりブッと吹き出した。
(おーおー、イケメンが台無しになるくらい、顔を赤くしちゃって!)
「大丈夫? 郁也さん」
「……涼一、盛大に告白しすぎだ。バカ」
口元を拭いながら視線を彷徨わせ、落ち着きのない桃瀬の様子に、タケシ先生もゲラゲラ笑いこけながら言い放った。
「ももちん、超テレちゃって、すっごくかわいいねぇ」
どこがかわいいんだ、タケシ先生のほうがもっとかわいいのに。
「あのさ全部が好きって、下手っくそな絵を描くトコも含めて?」
見るからに、不気味な絵を描くトコなんて正直、俺としては引いてしまうのだけれど。
「う~ん、そうだね。お互いできないところを、補い合えばいいかなと思うんだ。そういう太郎くんは、周防さんのどこがいいのかなぁ?」
(む……この人、結構侮れないかも。なにかを探ろうとしてるのか?)
「その質問に答えるよりも、タケシ先生に俺のどこが好きか、聞いてみたほうがいいんじゃないですかね。みんな、知りたい話題だと思うけどさ」
小田桐さんの質問をタケシ先生にしてみると、さっきの桃瀬みたく眉間にシワを寄せて、途端に不機嫌になった。
「そんなこと知ったって、涼一くんみたいに、おもしろくもなんともないよ」
あちゃー。俺を含めて、みんなが知りたいことなのにさ。
気落ちした俺らを無視して、タケシ先生はビールを一気呑みした。
「まぁまぁ。周防、またビールでいいよな? すみませーん、生一つお願いします!」
意味深に笑いながら、店員さんにビールを注文した桃瀬は、隣にいる小田桐さんになにかを耳打ちした。
いたずらっ子みたいな顔して、目の前でイチャイチャされたとき、注文した食べ物が、タイミングよく運ばれてくる。
(なんでこんなに、野菜の盛り合わせが注文されているんだろ。これって、肉の倍はあるじゃないか?)
正直俺は、野菜関係苦手。肉が食べたくて焼肉屋を指定したのに、これじゃあ野菜を食べに来たみたいだ。
顔をこれでもかと思いっきり引きつらせる俺を無視して、タケシ先生と桃瀬が一生懸命に、野菜だけを焼いてくれた。
(どうして、肉は後回しなんだ?)
「太郎、シイタケが焼けたら、ちゃんと食べなよ。シイタケの中には、レンチナンとβーDグルカンがあってね。レンチナンは癌細胞の増殖を抑える効果があるし、βーDグルカンは、免疫力を高めるんだよ」
さすがはタケシ先生、なんでも知ってるって感じだな。
「周防が勧めたのと一緒に、こっちのピーマンも食っておけ。色物野菜は、ビタミンが豊富に含まれてるんだからな」
――桃瀬のヤツ、もしかしてタケシ先生と競ってるのか?