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「ピーマンのビタミンよりも、カボチャの方が効果的だから。一緒にβーカロチンやポリフェノールが、いい感じで摂取できるんだよ。免疫力をアップして、再発防止に備えなきゃならないんだからね」
やがて焼かれていった野菜たちが、俺の皿の上にどんどんうず高く積まれていく。
(どうしよう、こんなに食えないよ。シイタケは一口、ピーマンは半身が限界だ)
「あの太郎くん、早く食べたほうが美味しいと思うよ」
なかなか手をつけない俺に焦れたのか、小田桐さんが声をかけてきた。
「俺、野菜キライ。食べられない……」
隠しきれないと観念して事実を言うと、タケシ先生と桃瀬がピキーンと固まる。
「おまえ、一緒に暮らしてたとき、普通に食べていただろう?」
「や……その実は――コッソリ残してた」
俺の言葉を聞いて、相当ショックだったのだろう。ガックリと肩を落としたタケシ先生。
「焼肉のタレは万能なんだ、絶対に食える! というか食わせるんだ周防!!」
桃瀬は鼻息荒くしていきなり言い放ち、タレの入った容器をタケシ先生に手渡す。
「太郎、おまえは目をつぶって口を開けていろ。大好きな周防が直接、食わせてくれるから」
大好きなタケシ先生でも、食べさせられるのは、キライな野菜なのに。
「え、でも……」
「口に入れられる物は、全部肉だと思えばいい。しかも周防が、わざわざ食べさせてくれるんだぞ。超レアものだ。普通なら、絶対にあり得ないんだからな」
普通ならあり得ないことは、重々理解してるけど、野菜は野菜であって、肉だとは到底思えない。噛んだときの質感が、全然違うからな。
ウッと思いながら、隣にいるタケシ先生を見ると、焼けている野菜にしっかりとタレを滲みこませるべく、お皿の中で用意して、食べさせる気が満々だった。
「太郎くん、みんなが君を思ってしていることだからね。いい機会だから、野菜の好き嫌い、なくしてみたら?」
小田桐さんにまで最終宣告され、涙を浮かべながら、タケシ先生に箸を運んでもらって食べさせてもらった。
泣きながら食べたけど、ラッキーな収穫もあった。
俺に野菜を食べさせつつも、桃瀬のヤツがタケシ先生に、ビールをどんどん呑ませ続け、例の質問を投げかけてくれたんだ。
「あ~? 太郎のどこが好きかって? そうだな、変なウソをつかないトコ」
いい感じにでき上がったタケシ先生は、赤い顔をしながら、ハッキリと言ってくれたけど。小田桐さんみたく、全部が好きって言ってくれるまで、あとどれくらいかかるのかな。
いつまでも野菜を口に突っ込まれ、少々不機嫌になってる俺を見て、カラカラと可笑しそうに嘲笑う。何が、そんなに可笑しいのやら――。
「きちんと食べることができて、偉かったな。今度は肉を食べさせてやるよ」
タケシ先生は上機嫌に言って、カルビの肉に箸を伸ばした。
「――そんな肉よりもタケシ先生のソーセージが、俺としては食いたいんだけど」
しれっとして言い放つと、桃瀬が飲み物を派手にぶーっと吹き出し、小田桐さんは手に持っていた小皿をガシャンと落とした。タケシ先生は肉を摘んだ箸を、カタカタと振るわせる。
「……す、周防そろそろお開きにしようか。太郎もすげぇこと言ってるしさ」
「でもまだ肉が、こんなに残って――」
「にっ、肉よりも太郎くんの体のこと、考えなくちゃいけないと思います! 退院したばかりで、きっと疲れちゃってるよね? それにキライな野菜をあんなにたくさん食べたんだし、ついでに周防さんを食べたいみたいだし……」
言ってから、やっちゃったという顔をして、桃瀬を見上げた小田桐さんが、何気に可愛かった。機転の利くこの人だからこそ、鈍感な桃瀬と上手くいってるんだろうな。
仲睦まじくしてるふたりに呆れながら、タケシ先生は静かにテーブルに箸を置く。
ふたりが気を遣ってくれたお蔭で、早々とお開きになり、店の前で解散になった。