❄さん詰め

もふるな

頭脳派と自称天才のコンビいいよね

高校生るなさん。

もふくんが脳内で褒めてます。

「…うわ、もうこんな時間」

誰もいない部屋で一人語散る。

書斎で本を読みふけっていたらいつの間にか時計の短い針は12を回っていた。

この場所は普段俺以外は立ち寄らない。読書を趣味にしているメンバーは居ないからだ。

読みやすい文庫本も児童書もおとぎ話の絵本だってあるのにな、と思う。メンバーに伝えたこともあるが、ゲーム以外に興味が無い人たちにはなんの効果も無かった。

「ふぁ…」

最近、一人の時間が取れていないと思って好きな本を読み返したらどんどんのめり込んでいって…。明日起きれるかな。

かなり前にるなさんがメンバーを集めて世界を救ってから、役目を終えたとばかりにうんともすんとも言わなくなったあのタイムマシン。また使えるようになったら便利だと、俺とゆあんくんに共同開発、研究をお願いされた。

朝ご飯を食べたら昼まで研究に明け暮れ、昼ご飯を誰かに持ってきてもらったらそれを食べつつ研究を重ねて…。何かを考えることは嫌いじゃないけど、流石に疲れが溜まっていたらしい。この時間で眠くなるのは俺の中では珍しいことだ。

「…今日はもう寝よう」

読み終わった一番お気に入りの本を元の場所に戻す。

ぐぐっと伸びをしてから書斎を出てザウルス寮に向かう。

「え、電気ついてる」

もう既に消灯時間は過ぎている。ダイニングの明かりがついているからこんなに明るいのか。吹き抜けになっている通路から下を見ると高く積まれた本らしきものと、その横で熱心になにかを書いている様子の小さい体。鮮やかな水色の頭。

うちの末っ子、るなさんだ。

「なんでこんな時間に…？おーい、るなさん」

上から声を掛けるも、全く気づく様子は無い。再度名前を呼ぶも、無反応だった。

別にこのまま部屋に戻ってもいいが、るなさんだ。一人で居るのは少し心配になって、結局寮ではなく階段へ足が向かっていた。

ダイニングに入ると、いつになく集中した様子のるなさんがノートに向き合っている。絶え間なくペンを握った手を動かしていた。時折教科書に目を向けながら、問題を解いている。

少し考える。このまま部屋に戻るか。声をかけるか。

邪魔したら悪いけど、時間も時間だ。このまま徹夜…なんてことになったら健康に悪い。まだ高校生なんだから年上がしっかりしないと。ちらりと腕時計を見る。12時17分。

１時になったら声をかけて寝ることを促そう。

そう決めてるなさんの向いの席に腰掛ける。

読む本もスマホも持っていないのでぼうっとるなさんを見つめる。

いつもの天真爛漫な表情と態度はどこに行ったのか、どこか追い詰められたような表情で真剣に手を動かしている。

普段とのギャップに少し気圧された。

何も考えていないようで、沢山考えて行動している、実は頭が良い部類の人間だというのは薄々感じてはいた。普段の動画撮影でも、自称天才のポジティブガールなんて紹介文に沿った言動をしている…と思う。その時その時で与えられたキャラクターや行動を理解して実行できる人はなかなか居ない。実際るなさんは明るいし、好奇心旺盛な年相応の少女であることに間違いは無い。

時々本当にぶっ飛んだ発言をすることもあるけど、基本は常識人だ。自分にとってのラインは絶対に超えないのも、ブラックジョークなるものや人が傷つけられるような冗談はあまり好まないのも、真面目さと優しさの上にあると思う。

正直、初対面の印象はアホそう、とかなり良くはないことを密かに抱いていた。だって、まとっている雰囲気も話し方も、表情もふわふわとしていたから。だから、定期テストで一位を取ったとメンバーが揃っている中で報告されたときは驚いた。本当に天才なのかもしれない、なんて。

でも。

目の前のるなさんを見ていると、違うんだろうなと気付かされる。

自分では想像もできないくらいの努力の結果があれなんだと。自分を追い詰めているように見えるくらい集中力があって、真剣に取り組んでいる。

そういえば、努力するるなさんを見るのはコレが初めてでは無い気がする。ゲームだって、料理だって。歌やトークも。誰かにコツを聞いて回っていたよな。マイクラが苦手でゲームスキルが求められる企画には参加できなくて。それでも忙しい高校生活の合間を縫って、練習していた。

ぼんやりとそのことを思い出して胸が熱くなる。

常に笑顔で明るいるなさんの裏にはとてつもないくらいの努力が隠されているんだろう。そんなるなさんの一面を間近で見れたことにふっと笑みが漏れた。

腕時計を見る。１時だ。立ち上がって、るなさんの隣に行く。肩を軽く揺すって声をかける。

「るなさん、るなさん」

流石に触れられていることに気づいたるなさんはこっちを向いた。

俺の顔を見た瞬間に張り詰めた表情が溶ける。ふにゃ、といつもより少し眠たそうな顔で笑った。

「もふくん。どうしたんですか？」

首をこてんと傾けて不思議そうな顔をするるなさんに、疑ってたわけじゃないけど本当に気づいていなかったんだなと思う。

軽い笑みをこぼしてううん、と首を振った。

「もう遅いから、一旦声かけにきたんだよ。さっき上からるなさん見えたから」

「遅いって今…え、1時！？」

「やっぱり気づいてなかったんだ」

「や、やっぱりとは…」

スマホの画面を見て驚いたような顔をするるなさんに呆れ半分の笑みが浮かぶ。部屋戻らなくてよかった。

「すっごい集中してたから。声かけて正解だったよ」

「すみません、ありがとうございます…」

「んーん、気にしないで」

開いていた本とノートを閉じて、筆箱に使っていたペンを入れるるなさん。積み上がった教科書に手を伸ばしているのが見えたので、そのうちの7割くらいを素早く取った。俺はマッスル寮じゃないから力があるわけじゃないけど、仕方ない。

横で慌てた顔をしたるなさんがわたわたと両手を振る。

「え、そんなには申し訳ないです…！」

さっきの真剣な顔と別人みたいで、なんだか可愛らしくてふっと吹き出す。それを見たるなさんが不満げに眉を潜めた。

「大丈夫、こういうときは頼っときな」

ちょっと腕がキツイけど、女子寮はすぐそばだから大丈夫。なんて笑って軽い口調で言うと、下がった眉は変わらないまま、でもゆったりとした笑みを浮かべてくれた。

「うん、じゃあ、お願いします」

ダイニングの電気を消して、ところどころにある非常灯の明かりを頼りに二人並んで歩く。

ここでいいです、とるなさんに言われ、女子寮のリビングの机に教科書を置く。ふうと二人揃って息をついて、微笑み合う。

「ありがとうございます、本当に」

「いいって。それより、あんな覇気まとって普段も勉強してるの？」

「は、覇気って…」

冗談めかして言うと、恥ずかしさからか薄く頬を染めて口を尖らせるるなさん

「今はテスト勉強真っ最中なんです。必死なんですよ、ほんと」

拗ねたようにそっぽを向いて言うるなさん。仕草や表情が本当にかわいい。

「るなさんならがんばれるでしょ。あんだけ集中できるし」

「そ、そうですか…？もふくんに言われると、自信でます」

さっきの不満そうな顔から照れたようにはにかむ。本当に表情がころころと変わるな。なんとも言えない感情が浮かび上がってきて、るなさんの頭に無意識に手が伸びた。ぽんと丸い頭を撫でる。

不思議そうな顔で見てくるるなさんに、微笑んで、そっと離れる。

「じゃあねるなさん。良い夢を」

「あ、はい。おやすみなさい」

後ろ手を振って女子寮から出る。

慌てたように下がる頭から覗く耳が少し赤かったのを俺は見逃してないよ。

自然と口元が緩むのを自覚した。

気づかれてないと良いけど。