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本気になってはいけない恋

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第12話   気になり始めた存在⑤

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2024年01月28日

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「マジで!ホントに!? よかった~!」


すると、なぜかその私の言葉に今度は満面の笑みになって答える。


ちょっ。なんでそんな嬉しそうにするのさ・・・。

これがこの人の誰に対しても無意識な自然な姿なのかもしれないけど。

だけど。

こんな風に目の前で笑われたら・・・しない方がいい期待をしてしまいそうになる。

またそのギャップに胸の奥がキュンとなる。


もしかしたら。

またこれもこの人の手なのかもしれないとしても・・・。

私をただドキドキさせる為の、深い意味のない楽しむだけの一部なのだとしても・・・。


「なら。これからオレから離れようとしないで」


そしてまたドキッとする言葉を告げる。

その言葉にどんな意味があるのかはわからないけれど。


「仕事仲間だから・・・それはわかってる」

「仕事仲間・・・ね」


すると、私が言ったその言葉をため息交じりに同じように繰り返す。


「何・・・?」

「いや・・・。これから大変そうだなって」

「ふふっ。私と仕事するのめんどくさくなった?」


だよね。

年上でこんな面倒な女とこれから一緒で。


「じゃ、なくて。これからオレのこと知ってもらうのが」

「・・・え?」


またよく意味のわからない言葉を呟く。


「どういう意味?」

「・・・きっとこれからオレを知っていけばわかるよ。オレのすべての言葉が」

「・・・何それ・・・」


彼の一言一言が、何か意味があるような気もするけど。

結局、よくわからない関係のままになっちゃったな。

でも、これから仕事でも顔合わす時間増えていくだろうし、気まずい雰囲気にもなりたくないし。

それに、なぜか関係を否定していた気持ちと同時に、このままこの人との少し特別に思える関係を終わらせたくないと思ってる自分もいる。


「じゃあ、オレ行くわ」

「え?もう帰るの?」


さっき来たとこなのにすぐ帰ろうとする言葉を聞いて、思わず反応して尋ねてしまう。


「あぁ、うん。望月さんに会いたくて来ただけだから」

「・・・え?」

「ここに来れば会えるかなと思って。仕事の途中で抜けて来た」


さらっと言われたその言葉。

だけどその一言にドキッとする。


「え、会社までまた今から戻るの?」

「あぁ。今日中に片付けたい仕事あるし」


決して会社から近くはないここのお店。

なのに、私に会いにわざわざ・・・?


「なんで、そんな面倒くさいこと」


面倒なことしないって言ってたくせに・・・。


「面倒じゃないよ。今日中に話したかったから。どうしても」


それ、どういう意味?


「ここにいなかったらどうすんのよ・・・」


なんかそういうとこ若いな~ってちょっと戸惑うところ。

私は、逆にこの年齢になると、面倒で無茶なことは出来るだけしたくなくて、無意識でそういう選択選ばないようになった。


「どうしただろうね~。思い当たるとこ探し回ったとか?」


笑いながら答える。


「私のこと何にも知らないくせに」

「・・そうだね。でも。ここにいる気がしたから」


なぜか確信を持って伝える。


「それ・・だけ伝えに来たの?」


特にたいした用事じゃなかったよね?


「そっ。だから会いたいから来たって言ってんじゃん」

「な・・に、それ」


ストレートにそんな言葉を伝えられて、ドキッとして素直に戸惑ってしまう。


「じゃあね。また」

「あぁ、うん」


そう爽やかに伝えて彼は店を出て会社へ戻って行った。


彼は何気なく意味ありげな言葉を自然に戸惑いなくサラッと伝える。

つい最近出会ったばっかりなのに。

つい最近ちゃんと話したばっかりなのに。

だけど、なぜか。

絶妙な距離感を保つ。

完全に嫌だとも思わせない距離感で。

ドキドキさせる胸高鳴る距離感で。

もう少しと物足りなさを感じさせる距離感で。

まだどんな関係にもなってないのに。

絶妙なさりげない甘い言葉と絶妙なドキドキで。

淡い気持ちが芽生えそうになって、つい期待してしまいそうになる。


どうにもなっていない関係。

ただドキドキさせてくれるだけの関係。

だけど、その意味ありげに思える行動や言葉にトキメいている自分にも気付く。

その言葉一つ一つにきっと意味はないとわかっているのに。


「樹くん。帰っちゃったね」


店の状況が落ち着いて、美咲が声を掛けて来る。


「あぁ、うん」

「樹くん。いいと思うけどな」

「美咲まで、何」

「もうそろそろ前進んでもいいんじゃない?」


これは恋愛に対してずっと遠ざかっていた私への言葉。


「もうそろそろ誰かと過ごす時間始めてもいいと思うけど」


ずっと一人が楽だった。

もう誰かを好きになって新たな道をまた歩み始める勇気が出なかった。

美咲の言葉に何もまだ答えられない自分は、まだあの時のことを引きずっているのだろうか。


「樹くんなら。透子なんとかしてくれる気がするけど」

「何それ」

「う~ん。なんとなく、樹くんは今までの人とはなんか違う気がして」

「だとしたら、いいのにね」


ホントにそうなら、私も変われるのだろうか。

例え本物じゃない恋愛だとしても。

相手にしてもらえて、ドキドキさせてもらえて。

そんな気持ち味わえるだけでも充分なのだろうか。


「でも年齢も離れてるし、あの子モテそうだし、色々とハードル高いでしょ」


だけど、やっぱりなぜかすぐには手放しで飛び込めない自分がいて。


「でも今の透子には年齢離れてるくらいのがちょうどいいかもよ。若い年齢だからこそ、透子の知らない部分引き出してくれるかも」

「まぁ確かに、気を使わずにいられるような気もするけど。背伸びする必要もないし」

「なんかさ、それだけじゃなく樹くんなら透子のこと、ちゃんとわかってくれるような気がする」

「まぁね。そんな人ホントはずっと探してるのかもしれないけどさ」


ずっとそんな人には縁がなかった。

自分が自分らしくいれて、そんな自分をわかってくれるような人。

縁があればいつか出会えるはずと、半ば投げやり、半ばそんな夢見て。

まだ今は彼がその相手なのかはわからないけれど・・・。

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