それから数日後。
新たなプロジェクトのメンバーが集まって開かれた最初の会議。
うちの商品企画2部と合同でやる1部からそれぞれ数名のメンバーが選ばれて参加。
今回のプロジェクは男性と女性境界線なく兼用出来る商品。
商品企画2部が今まで手掛けていた女性色が強い可愛い路線だけではなく、また商品企画1部が手掛けていた男性色が強い男らしい路線でもなく。
うちの会社で新しいブランドを立ち上げる予定らしく、そこにコンセプトが男女共通でのカッコよくてオシャレな商品。
どちらの良さも取り入れて合算された魅力ある商品・男性女性どちらも同じように楽しめる商品を作りたいらしい。
そこで組まれたチームがこのチーム。
なるほど。
だから、合同チームでやる必要があるってことね。
まだブランド立ち上げは随分先みたいで、かなり時間がかかってもいいから、まずこのチームでどんなコンセプトでもどんなテーマでもいいから、数多くのアイデアを考えてほしいとのこと。
「では、このプロジェクトは商品企画1部からは早瀬くん。商品企画2部からは望月さんがリーダーとして、それぞれその部の特徴・魅力を活かした商品をこのチームで色々アイデアを出して考えて頂きたいと思います」
うちの商品企画1部の部長の言葉。
最初に両部の部長がプロジェクト企画の指示と説明。
その後これからは基本両部のリーダー中心で企画を進めて行くとのこと。
「じゃあ、これで会議を終わりたいと思います。リーダーの二人はそれぞれの部でアイデアを出したのをまとめつつ、それぞれの意見をミックスさせて上手く形にしてください」
それぞれのリーダーとして改めて責任を実感。
やり甲斐を実感出来て更に気が引き締まる。
だけど、その分やはり恋愛にうつつを抜かしていられない現実。
しかもこのプロジェクトは普段の業務と同時進行で進んで行く企画。
なので、これじゃない企画の仕事もしていかなきゃならないという、なかなかの現状。
まだどの仕事も時間的にも余裕があるから追い詰められるほどじゃないけど。
バランス取りながら頑張らないとな。
会議が終わり資料をその場で片付けていると。
「望月さん。今回はよろしくお願いします」
早瀬くんが声をかけてきた。
「あっ、よろしくお願いします」
この人やっぱり会社では二人の時とは当たり前だけど雰囲気違う。
「オレ。このプロジェクトに賭けてるんで」
「えっ、そうなんだ? 今までも色々活躍してたって聞いたけど」
「あぁ。まぁ。それもある理由があって、頑張ってここまで結果残して来たって感じなんで」
「へ~意外。案外何でも余裕でこなしてるのかと思った」
「まさか。オレどうしても諦めたくないことあるんですよ。どうしても手に入れたいモノがあって」
「へ~案外熱いんだ」
「だから絶対今回はなんとしてでも成功させなきゃいけないんです」
「このプロジェクトと何か関係あるの?」
「えぇ。まぁ。このプロジェクトを通して伝えたい相手がいるんで。ある意味オレにとってこれからが変わるっていうか」
なんかかなり意味ありげなその言葉。
私のこのプロジェクトへの気持ちの向け方と、早瀬くんの意気込みはなんだか違う気がして。
このプロジェクトで何が変わるんだろう・・・。
「なのでこのプロジェクトで望月さんも全面的にサポートするんで」
「あっ、ありがとう・・・」
「でもその分、経験と結果重ねてる望月さんも頼りにしてますんで」
「えっ、そっち? いやいや、多分早瀬くんに比べたら、私は目の前のことをなんとか片付けてくことで精一杯だから」
「じゃあ。オレに頼ってください」
「え?」
思わず笑って返事をする。
「後悔させないんで。オレと一緒にいること」
「ふふ。大袈裟」
単に仕事でチーム組むだけなのに。
「じゃあ同じチームとして期待してる」
若さと勢いがあるからか仕事に対しての意気込みが強くて。
そのエネルギッシュなパワーに素直に期待を持つ。
色々考えてしまう性格と状況の私とはなんか違う感覚がして。
「これから望月さんの力になるんで安心してください」
なんだか違う人と話しているかのような感覚。
「これ。とりあえず商品企画1部で今まで手掛けて来たオレが成功させた商品のリストです。これを参考に今回のプロジェクトの内容も考えていこうかなと思ってます。一度目を通しておいてください」
と言ってリストのファイルを渡される。
「あっ。わかった」
「じゃあ。オレ次の仕事あるんで失礼します」
「あっ、お疲れ様です」
早瀬くんはそう告げて次の仕事へ。
仕事上では、ホントにいつもみたいに必要以上に絡んで来ないんだ。
そういえば、ちゃんと仕事出来る自信あるって言ってたっけ。
話し方も当たり前だけど全然違うから、少し戸惑う。
だけど仕事も公私混同してしまうのが苦手な私にとっては、それが逆に安心出来た。
それからデスクに戻って、そのファイルをチェックしてみると。
思ってる以上の商品の数と功績の数々。
へ~。
自信あるって言ってただけあって、ホントに結構な結果残して来てるんだ。
今まで同じ商品企画部でも全く違う路線でお互いやってたから、誰が手掛けてるとか全然知らなかった。
だけど、このリストに載っている商品、結構うちのヒット商品だよね、確か。
そういえば一時期から若い社員が関わって、ヒット商品増えたって聞いたことあったかも。
そっか。それ早瀬くんだったんだ。
最初の出会いから会社での再会。
そして新たにプロジェクトチームとしての仕事中としての彼。
どれも印象も顔もそれぞれ違う。
正直どれが本当の彼の顔なのかわからない。
会う度に、会う場所や状況によって雰囲気が変わる。
・・・ホントに不思議な人。
そしてそのプロジェクトの会議の日から、本来の仕事の合間にいくつか浮かんだアイデア。
とりあえず自分の手掛けた商品リストとその思い浮かんだアイデアがそれなりにまとまったので、参考程度に早瀬くんに一応相談しようかと思い、まだ次の企画会議が予定されていなくて、とりあえずその書類を持って数日振りに商品企画1部へ出向き早瀬くんを訪ねる。
だけど、訪ねた時に限って、他での打合せだったり、外回りだったりでなかなか会うことが出来ず話す機会さえ作れない。
元々違うフロアだし、今まで他部署の人と関わることも少なかったからこういう不便さは経験もなく。
職場のエースだと、こんなに忙しく同じ会社でもなかなか会うことないんだ。
三輪ちゃんから噂で話を聞いたところによると、元々営業部にいたこともあって、今もその時の繋がりが続いてる人も多く、フットワークも軽くて、よく外回りで情報も集めに行ってるらしい。
女性メインのうちの部も外回りもするけど、多分そこまでのフットワークの軽さもないし人脈もそこまでない。
さすが元営業部、そして若さ。
まだまだ時間があるから焦りはしないけれど。
でもここまですれ違いというかなかなか会えないと少しモヤッとするというか気になるというか・・・。
今までは同じ部署のメンバーですれ違うことなく仕事を進めることが出来ていたからな。
だけど、ここまで捕まらなくて、会うこともままならないのが、今まで経験なくて、逆に気にかかってしまう。
最初に早瀬くんと出会ってから短い間に、なんかいろいろあった気がしたのに。
いざ仕事が忙しくなるとパッタリとそんな兆しもなくなる。
同じ会社だってわかって、プロジェクトも一緒にやっていくことになって。
きっと今まで以上会える機会が嫌でも増えると思った。
だけど、案外そうでもなくて。
うん、あれから面白いくらいに全然偶然にも会わない。
会社でも、美咲の店でさえも。
あの時あんなに期待させるようなこと言って来たくせに。
特に目立ったアピールもしてこない。
別にあれから期待してたワケじゃないけど。
なぜか、気にかかる。
うん、きっと彼も仕事で忙しくしてるんだ。
そして、私も多分この書類がなかなか渡せないから、ただモヤモヤしてるだけ。
そう、多分きっと。
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