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~アメリカ合衆国新聞社ワールドジャーナルより抜粋~
昨日ニューヨークのマンハッタンで起きた大規模なビル火災は、その規模からすれば驚く程犠牲者が少なく鎮火するに至った。負傷者こそ100名近く発生しているが、死者は現時点で0人。
“マンハッタンの奇跡”と呼ぶ人もいる中、何故こんなにも犠牲者が少なくて済んだのか。当記者はこの火事に関わった人々への取材を通して、ある共通点を見出だした。皆が口を揃えて言うのだ。「天使が助けてくれた」と。
先ず断言するが、当記者達は宗教家ではないし取材した相手も熱心な信者と言うわけではなさそうだ。それに、スピリチュアル分野は専門外であると申し上げておく。
この話はインターネット上にも多数拡散され、翼を持つ天使のような少女の写真が幾つもアップされて物議を醸している。
真意は定かではないが、先ずは取材を受けてくれた当事者達のインタビューを掲載させていただく。
消防隊長ウィリアム=バーグ
「あの日の火災は最悪の一言だ。ガソリンを満載にしたローリーが突っ込んで引火したのが原因だよ。現場についた時はビルの下層部は炎に包まれていたんだ。ビルにいた人達は屋上へ避難したんだが、ビル内に取り残された人も少なくなかった。なぜかって?あのビル老朽化が進んでいたんだ。だから爆発の衝撃で天井や壁が崩れたりして屋上まで避難できなかったんだ。間の悪いことに、その日は地元のハイスクールの催し物があって生徒や父兄が多かったのも混乱に拍車をかけたな」
状況は最悪だったと?
「屋上へ逃げた人達はヘリが救助を続けていたが、ビル内に取り残された人達の救助は難航していた。火の勢いが強すぎるからな、先ずは下層部を鎮火しなきゃ突入するのも難しい。かといって火の手はどんどん上層へ向かう。正直、取り残された人達何人かは間に合わないと考えてしまった」
なのに死者が居ない。間に合ったんですね?
「間に合ったのは俺達じゃない。炎を逃れて窓から女学生が飛び降りたんだ。その時に彼女が、天使が現れたのさ。アンタもネットくらいは見たろ?」
見ましたが、眉唾物だと思っていましたよ。
「だろうな、俺がアンタの立場でも同じように考えただろうさ。けど、あの写真は真実だ。女学生を抱き留めて地上に降りてきたんだ。皆固まったよ。俺も夢を見てるんじゃないかとな。そんな俺達を尻目に彼女は救急隊員に女学生を託していた。俺が質問しようとしたら、言われたよ。何を優先するべきかってな」
何を優先するべきか、ですか?
「ハッとなったね。確かに信じられない光景を見せられたが、今も救助を待つ人達がたくさん居るんだ。そして、俺達のバッジは何のためにあるのかってな。後は簡単さ。彼女は取り残された人達が何処にいるか正確に分かるらしくてな、彼女の指示で放水し、可能なら俺達が突入して助け、無理なら彼女が突っ込む。俺達は水をかけながら援護、って感じにな。気が付けば全員助け出すことが出来た。これだけは断言できる。彼女が居なきゃこんな奇跡は起きなかっただろうよ」
医師マルチネス=ロジャー
「私は現場の直ぐ近くで小さな診療所を営んでいる。あの日の火事は凄くてね、怪我人が大勢出ることは予想出来た。中には病院まで持たない人も出るかもしれない。そこで私のような手の空いた医師に協力要請が来たんだ。うちは小さいから受け入れなんて出来ないし、昨日は患者さんも居なくて手が空いていたから直ぐに駆けつけたよ。現場はまさに野戦病院と言った様相で、直ぐに手当てに取り掛かったんだ」
貴方のような方が何人か居たのですか?
「ああ、何人か居た。通りすがりの医師まで居たのを覚えてる。やはり火事だからか負傷者には火傷を負った人が多かったが、外傷も少なくなかった。ビル内のあちこちが崩れて怪我人が増えたようだね。中にはどう頑張っても助からないような重傷者も何人か居たよ。かといって私達も手が足りない。気は進まないが、トリアージを始めようとした瞬間だったね、彼女が現れたのは」
噂の天使ですか?
「そう、美しい翼を持った銀髪の少女だった。彼女は私が手当てをしていた負傷者に近付くと、掌より少し大きな白いテープを取り出して傷口に貼りつけたんだ。いや、驚いたよ。傷口がみるみる塞がっていくのが隙間から見えたからね。1分くらいか?彼女がテープを剥がしたら傷口が綺麗に塞がっていた。まさに奇跡だな」
そんなことが……まさに奇跡ですね。
「唖然としている私に彼女は深刻な顔をして言ったんだ。命に関わる場所を教えてください、とね」
命に関わる場所?どういう意味ですか?
「うん、私は彼女の表情を見て何となく察したよ。奇跡のような行いにも何らかの制約があるんだろうとね。それに、怪我人は山のように居たんだ。考えている暇は無い。私は直ぐに他の医師達や救急隊員達にトリアージを始めるように要請した。重傷者を集めるようにとね。同時に彼女は消防士達に呼ばれてビルへ飛んでいった。直ぐに戻ると言い残してね」
では彼女は火災現場で救助活動をしながら負傷者の手当てを!?
「彼女は間違いなく働き者だよ。いや、必ず助けると言う強い意志を感じた。消防隊が火の勢いを弱めるまでの僅かな空き時間で彼女はまた戻ってきた。もちろんこちらもトリアージを進めて、重傷者を集めていた。そして命に関わるような部位を彼女に教えたんだ」
命に関わる部位ですか?
「簡単に言えば、出血の多い場所だったり急所だったりだよ。今すぐにどうにかしないと命が危うい場所を教えて、彼女はそこに例のテープを貼っていった。一人一枚だったがね。そしてまた消防士達に呼ばれた彼女は、私達にテープを20枚ほど渡してくれたんだ。使ってくださいとね」
そのテープは!?
「もちろん全て使ったよ。確かに魔法のような道具だが、彼女は私達を信用して預けてくれたんだ。そんな想いを裏切りたくは無かったからね。彼女が居なかったら、こんなものじゃ済まなかったのは間違いないよ」
インタビューの結果は、インターネット上に溢れている多数の証言を補足するような形となった。
火事が鎮火した後、天使と呼ばれる彼女は軍警察が厳重に保護して何処かへと連れていかれた。
様々な憶測が飛び交っているが、最後に彼女のインタビューを載せて終わりとしたい。そう、最初に天使によって助けられた少女だ。
続報をお待ちいただきたい。
「熱さから逃げるために飛び降りた私を助けてくれた彼女にもう一度会いたいです。あの時はビックリしてお礼も言えなかったから。彼女が何者か?そんなのは関係ありません。だって彼女が居なかったら私は死んでいたんですよ?彼女は私の命の恩人なんです。叶うなら、ちゃんとお礼を言いたいです」
ハイスクール女学生、カレン=ケラー