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統合宇宙開発局のジョン=ケラーだ。いよいよティナが地球へ来訪する日となった。ISS付近に突如として出現した巨大な宇宙船には度肝を抜かれたが、同時に政府内部にある強硬派、過激派の連中を黙らせることに成功した。
なにせ、今の我々ではあんなもの逆立ちしても作ることはできない。いや、ガワだけなら作れるだろうが、どれだけの時間、コスト、資源が必要か考えれば現実的では無いだろう。
我々は宇宙船に戦慄しながらもティナを迎えるための最後の調整を進めていた。ティナの要望に従いあまり派手な式典などは行わず、秘密裏にホワイトハウスに招いて大統領、国連代表と会談。その後記者会見を開いて歓迎パーティと言う流れだ。
歓迎パーティについては、ティナの好みが分からないため各国の名物を一流のシェフ達が用意することなっている。もちろん滞在用の高級ホテルも用意してある。セキュリティも可能な限りハイレベルにしてある。
これらの準備を二ヶ月足らずでやらねばならなかった。いや、異星人対策室に対応を丸投げされた時は生きた心地がしなかったが、職員達は天才秀才揃いだ。彼らが居なければ出来ない仕事だったよ。
こんな私を室長と呼んで慕ってくれる彼らに少しでも報いたくて、昨日は奮発して前祝いをした。娘には怒られてしまうだろうが。
うん?ああ、私にはハイスクールに通う一人娘が居るんだ。こんな私を愛してくれた家内との宝さ。
残念ながら家内は産後の肥立ちが悪くて天へ召されてしまったが、忘れ形見のあの娘はそんな逆境をものともせずに強く優しい娘に育ってくれた。
今日は娘の属する楽団の発表会だったのだが、私が抜けるわけにもいかず欠席することになってしまった。愛娘の勇姿を見ることが出来ないとは、我ながらダメな親だよ。
っと、いかんいかん。先ずは仕事に集中しよう。場所はホワイトハウス内にある会議室を指定した。どうやら直接会議室へ来ることが出来るらしい。10万光年を旅する技術力だ。所謂ワープも容易いらしい。
我々は会議室でその時を待っていたのだが、約束の時間を過ぎてもティナは現れなかった。
さて、なにか起きたのかと我々は待っていた。念のためISSにも確認したが、宇宙船に異常は見られないらしい。
大統領をあまり待たせるわけにはいかないので、我々がこの場に残って一旦解散するかと話していたまさにその時だった。血相を変えた補佐官が飛び込んできた。
「失礼します!」
「なんだマイケル、そんなに慌てて。何かあったのか?」
「大統領閣下!こちらをご覧ください!」
補佐官が会議室に備え付けられた大型のモニターを起動すると、そこにニュース番組が映し出された。
「これは!」
「ニューヨークか!?」
ニューヨークでビル火災が発生か、確かに大事ではあるが……いやまて!あのビルは、娘が、カレンの楽団が発表会を行っている場所ではないか!?
唖然としながらニュースを見つめていると、ビルの上層にある窓から誰かが飛び降りて……カレン!?
「カレン!」
咄嗟に私は叫んだ。嗚呼神よ!
そこで奇跡が起きた。落下するカレンを真っ白な翼を持った少女が抱き留めて、地上へゆっくりと降ろしているではないか!レポーターがうるさいが、そんなことはどうでも良い!カレンは無事なのか!?
「今のはなんだ!?天使!?」
「まさか、ティナ嬢では!?」
うちの職員が呟き、皆が視線をこちらへ向ける。
「えっ、ええ。やり取りの際にティナは自分には翼があるから一目で分かる筈だと言っていましたが……まさか!」
ティナだとするなら、彼女は娘を助けてくれたことになる。嗚呼、神に、いやこの出会いに最大限の感謝を捧げたい!
と、同時に連絡が来た。偶然現場を通りかかったティナが見過ごせずに救助活動に参加したこと、約束の時間に遅れることについての謝罪がメッセージとして送られてきた。何故か私の携帯にだ。
……いつ知ったのか、戦慄を禁じ得ないな。
「記者会見を開いて国民に周知するつもりが……これではな」
「インターネットでも話題となっています。数々の映像や写真で溢れている以上、最早火消しは困難。いや、対応を誤れば我々が糺弾される立場になりかねません」
報道官が青い顔をしているな。段階的に異星人の存在を公表するつもりだったのだが、ここまで派手な大立ち回りをされてはそれも不可能だ。親としては心から感謝したいが、何故か為政者サイドに属する羽目になった身としては胃痛が……いかん、薬を飲まねば。
「室長……」
部下がそっと胃薬を差し出してくれた。その優しさと哀れみを浮かべた表情に涙腺が決壊しかけたのは秘密だ。
ともあれ。
「大統領、逆に考えるのです。今回の件で国民はティナに対して好意的な印象を持った筈です。段階をいくつか飛ばすことが出来ると考えてはどうでしょうか?」
国民が好意的なら、国内の観光地などを案内するのも容易くなるだろうな。何せ隠す必要がなくなるのだから。
もちろん警備は万全にするのが大前提ではあるが。
「私としてはケラー室長の意見を一考の価値ありと考えるが、諸君はどうだね?」
大統領が名だたる官僚達を見渡す。
「国民に受け入れられるのであれば、それに越したことはありません。今後の交渉も幾分やり易くなるでしょう。国務省としては賛成します。直ぐに予定を変更しましょう」
「ただ、この件が妙な信仰を集めないか、それが心配です。また彼女自身がテロリズムの標的になる可能性もあるので、警備は予定よりも更に強化するべきであると考えます」
「国防省の意見も一理ある。彼女には予定が許す限り国内を満喫して貰い、我々は影ながら彼女に迫る脅威を排除することに注力しよう」
「異星人対策室として、大統領閣下のご決断に賛成します。まかり間違っても彼女に危害を加えるような輩を近付けてはいけません」
それはすなわち地球の破滅を意味する。彼女が地球に滞在している間は、最大限楽しんで貰う。今後のためにも、私自身の為にもっ!
「よし、改めて閣議を開いて調整するとしよう。先ずは……ヒーローを迎えに行かねばな。将軍、頼む」
「速やかに。対応は女性士官を充てます」
「くれぐれも優しいものを頼むよ」
「承知」
「室長、彼女と最も関わりがあるのは君だ。彼女もそう考えているだろう。期待しているよ」
「……はい、大統領閣下、微力を尽くします……」
え?交渉の席にも参加しなきゃいかんの?
……薬、増やそう。