テラーノベル
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大したことじゃない。 そう判断した瞬間、四季の中ではもう終わっていた。
練馬からの支援要請を聞き、練馬へと行ったはいいものの。生徒は巻き込まれた鬼の救助に向かっていた。そこで予想外のことに桃の隊員が数名責めてきたのだ。四季の周りには他の生徒や鬼はおらず、四季ひとりだった。だが桃の数も少なく隊長や副隊長などはいなかったため油断していたのだった。戦闘が始まったが、昔よりも羅刹で鍛えたことによって昔よりも強くなっていた。しかし最後の1人が救助の間に合っていない子供の鬼に手を出そうとして、四季が咄嗟に庇ったのだった。その瞬間
脇腹を斬られた、確かに痛みはあった。熱く、鋭く、息が一瞬止まるほどの。
けれど、倒れていない。視界も暗転していない。指先も動く。
(死なない)
それだけで十分だった。
その後、攻撃した桃は意識を失って倒れた。
何とか周りにいた鬼も全員避難させ、自分も帰ろうとした時だった。痛みが酷く身体中に響きその場に立つことがままならなくなった。
人目につかない場所で制服を緩め、一応避難者の為に持っておけと言われた包帯を取り出す。不思議と手は震えていなかった。
「っ…」
無意識のうちに少し声が漏れていた。
傷口にきつく包帯を巻く。きつすぎるくらいでいい。痛みは後から考えればいい。
その後何とか遅れて集合場所に戻った。数人に遅いと言われたが、普段通りの笑顔を作り「ごめん」と謝った。
翌日の朝に帰る予定だったため、個人の部屋で寝ることになっており、怪我を隠すにはとてもありがたかった。風呂に入る時には
鏡は見なかった。
見れば、余計な判断が増える。そう思ってしまったから。
翌日の朝、学校に帰り少ししてから訓練があると担任の無陀野無人が言った。
「帰ってきたばかりだが、普段の訓練とは違い1体1の戦闘訓練をする、ちなみに血の使用はするな。」
驚きや、戸惑いの声が上がる。それはそうだ帰ってきて早々戦闘訓練しかも血の使用が禁止なのだから。
四季の対戦相手は皇后崎だった。
担任の声と同時に、
訓練が始まる。普通と比べて基礎的な身体能力が高いふたりだったため、戦闘は互角だった。けれど
一瞬だけ四季の視界が少し緩んだのだ。
「っ……」
体は言うことを聞く。聞いている、はずだった。
まずいと思った時には遅かった。
踏み込んだ瞬間、わずかに遅れてしまったのだ。それを逆手にとるように皇后崎が詰め、結局戦闘の勝敗は皇后崎の勝ちに収まったのだった。
(……今のは)
気のせいだ。
そう結論づけて、次の動きに移る。
誰も何も言わない。
それでいい。
ただ、一人を除いて。
違和感は、ほんの一瞬だった。
訓練中、四季の顔が少し歪んだと思ったら、四季の踏み込みがわずかに遅れた。
他の誰も気づかない程度。むしろ気づくほうがおかしいと言われるほどの差だ。
だが、皇后崎は知っている。
四季は、その一拍を絶対に外さない。
(……怪我か)
そう結論づけるまでに、時間はかからなかった。
だが、口には出さない。
四季は、追及すればするほど黙る。
問い詰めれば、さらに奥へ引きこもる。
だから、見ているだけでいい。
視線を一度、足元に落とす。
四季は気づいたが、気づかなかったふりをした。
夜になるまで、何も言わなかった。
消灯後の廊下。
予想通り、四季は一人だった。
壁に手をつき、呼吸が浅くなるのを、皇后崎は暗がりから見ていた。
やはり、だ。
「何してる」
声をかけると、四季は振り返らない。
その反応だけで、確信に変わる。
「別に」
短い。
言葉を削る時は、決まって隠し事をしている。
「逃げる気か?」
「違う」
「じゃあ、倒れる準備か」
肩が、僅かに揺れた。
やはり、当たりだ。
皇后崎は距離を詰めない。
触れれば、四季は反射的に拒む。
「お前が怪我を隠す時は、“平気だ”と言わない」
言葉を選ぶ。
責めるためじゃない。逃げ道を塞ぐためだ。
「何も言わなくなる」
沈黙が夜の校舎に響く。
皇后崎が、四季の前に行き怪我の確認をしようと
制服を開いた瞬間、辺りの血の匂いが濃くなる。
包帯は赤く染まり、鬼神の血だとしても傷の回復が追いついていないのが一目で分かった。
(……これで問題ないつもりか)
怒りがないわけじゃない。
だが、それをぶつけるのは簡単すぎた。
「馬鹿だな」
それだけでいい。
「死なないと思ってる顔だ」
四季は否定しない。
それが一番、厄介だった。
「でもな」
声を落とす。
「死なないのは、お前が一人の時だけだ」
言葉が、ちゃんと届いたのが分かった。
四季の目が、こちらを見る。
「お前が倒れたら、残るのは俺たちだ」
言った瞬間、胸の奥が少し痛んだ。
これは忠告で、同時に本音でもある。
「……言ったら、止められると思った」
四季の声は小さい。
「止める」
即答する。
「それが俺にできることでもある」
感情を含ませすぎれば、四季は拒む。
「次は、誰にも隠すな」
四季に背を向ける。
「立てる…か……いや、その怪我じゃ無理か」
「おい、乗れ」
そう皇后崎がいって、四季の前に来たかと思えば、しゃがみ四季が皇后崎に背負われる構図になりそうになったのだ。
「…っは?」
「…黙って乗れ、さもなければ別の方法になるぞ」
別の方法になる…最悪の場合を見越して四季は大人しく皇后崎に背負われた。
こつこつと廊下に1人分の足音が響く、一定のリズムで歩いているため、四季の傷にかかる負担が少し減らされていた。このまま行けば保健室だろうと分かっていたが、振り払う気も起きず大人しく背負われていた。
皇后崎は後ろに背負っている四季の方を
振り返らなかった。
振り返れば、余計なものが見えてしまう。
だが、皇后崎は分かっている。
この言葉だけで、四季の癖が消えるとは思っていない。
(次も、隠す)
それでもいい。
気づけなかった時よりは、ずっとましだ。
気づかれないと思っていた傷は、
確かに隠されていた。
だが、それ以上に危険なのは、
四季自身が「見られない」と信じていたことだった。
怪我隠すのっていいよね
コメント
2件
こう言うの大好きです…(*´`)