テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
颯爽と現れたソレールは、まるで別人のように鋭い視線をこちらへと向けている。
「お覚悟を」
淀みなくソレールはそう言うと、剣を抜いて一気にティートへと距離を詰める。
ティートは、ソレールと同僚だから彼の剣の実力を知っているのだろう。アニスの剣を弾いて距離を取る。アネモネはついでといった感じで投げ飛ばされてしまった。
「眠り薬を飲んでなかったんですね。アネモネは信用されてなかったということですか。それは、残念」
頭上から飽きれた声が聞こえて、アネモネは地べたに這いつくばった状態で胸を押さえた。ティートの言葉が、酷く心を抉る。
こんな気持ちになるのは馬鹿げている。自分が先にソレールを裏切ったのに。
そんなふうにアネモネが心を痛めていても、事態はどんどん変化する。
「ぬかせ、ティート」
アニスはアネモネをちらりとも見ずにそう言い放つと、ソレールに己の剣を放った。
ソレールは難なくそれを受け止める。まるで、何百回、何千回と練習したかのように的確に。
双剣使いとなったソレールは片方の剣でティートの剣を弾いて、もう片方の剣を降り下ろした。
───ダンッ。
屋敷全体を揺るがす地響きのあと、微かな呻き声が聞こえた。
「…… あーあ、俺の部屋に穴が開いたぞ。どう責任を取ってくれるんだ?」
ガシガシと後頭部を掻きながらぼやくアニスは、ついさっきまで自分が命の危機に瀕してしたことなど忘れてしまったかのようだった。
「絨毯で隠せばいいだけでしょう」
「フラン殿下に修繕費を請求するのが良いのでは?」
同時に口を開いた二人にアニスは「黙れ」と呻いた。
絨毯で隠すという即席案を出したのはソレールで、第二王子に請求しろと提案したのはアネモネ──ではなく、ティートだった。
ティートは死んではいない。床に串刺しになって身動きが取れない状態なのだ。
呑気なことを言えるぐらいの余裕があるから、ティートとは怪我を負っていないだろう。一瞬で命を奪うより、この方が高度な技術だ。
すごい。すごい、すごい、すごい。もはや神業といっても過言ではないそれを、アネモネは身体を起こしながら食い入るように見つめる。
でもそのまま視線を上にした途端、ソレールと目が合い息が止まった。
ふらふらと立ち上がったアネモネは一歩後退する。
怖かった。とても、とても怖かった。ソレールに軽蔑されるのが。
睡眠薬を使って、彼を騙すような真似をした。アニスにまで危険が及んでしまった。
こんなつもりじゃなかった。自分の力で丸く納めるつもりだった。誰も傷つけるつもりなんてなかった。
胸の内から言い訳が溢れてくるが、どれも言葉にすることができない。
「……アネモネ」
とても静かに名を呼ぶソレールが今、どんな気持ちでいるのかわからない。
目で見たことを言葉で覆すのはとても難しいし、精一杯説明をして信じてもらえないのはとても辛い。
アネモネは、また一歩ソレールから距離を取るために後退してしまった。