――崖に着くと私はあの子をいつもの縁に座らせて、その右隣に私も座った。
『…ねぇ』
『なあに?』
『……』
『どうして私じゃ無いの』
『…?』
私は夜明けの予感を乗せて揺れる巨大な海に問いかけた。
『どうして、私じゃ無くこの人じゃ無ければいけなかったのですか 』
『身体の傷は身体を蝕む。その様に、魂の傷は魂を蝕む』
『私、魂が蝕まれることが何にも比べものにならない程…』
『…苦痛です』
『……』
『身体の傷は捨てることが出来ても、魂の傷はそうもいかない』
『…このまま死んでしまえば、私は永久に痛みの無い苦痛を受け続けることになります』
『でももし、傷をこの人に流しているこの罪深い私が社会から逃れたなら』
『今生ではもう傷を受けずに済む』
『その先でゆっくりこの人の傷を治して…』
『また記憶を集める旅に出られる…!』
『だから…!!』
そう言って、水平線の向こうから溢れる光に身を委ねようとしたその時、
『大丈夫』
私は腕を引かれて、
『…ワタシ、先に向こうで休んでるね』
私は背中を地面に打って、
『あなたは家に帰って』
その人は身を投げ出されて、
『じゃあ、おやすみ。』
そして、日の出の中に掻き消えていった。
私はその瞬間、魂を失った。
あの後私は確かに家に帰った。でも、その先の記憶はもう私の中に
残っていない―――――
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