「は、はい…。」
向けられていた瞳が細められる。
「単刀直入に言おう。君たちのどちらかに心臓を提供して頂きたい。」
「は……?」
突拍子もないセリフに思わず困惑した声が出る。
「……今の娘が助かるには心臓移植しかないんだ。だが、今の親族の中には提供出来る人がいない。」
そう言い、ベッドの上の女の子へと落とされた視線が酷く切なかった。
「だから君たちをここに連れてきた。心臓を移植する、という行為は非常に繊細で条件に当てはまる人も簡単には見つけられない。その中でも君達は選ばれたんだ。」
選ばれた、という言葉の響きがこれほど良くない時があっただろうか。あまり心臓移植については詳しくないが、心臓を失ったら人間は死ぬことくらいは分かる。
だけど、こんなにも小さな身体で沢山の苦しみを負っていると思うと少しだけ心が揺らぎそうになった。血色の悪い窶れた姿を瞳に映し、じわじわと瞼が熱くなる。
ベッドの傍らにしゃがみ、まだ幼く小さい手のひらをぎゅっ、と握りしめる。伝わってくる暖かい体温が生きてることを実感させてくれる。この歳の子ならきっと外で遊びたいだろう。色んな友達を作って、色んな世界を見て、成長していくはずなのに。
「んだよそれ、勝手すぎんだろ!!」
ベッドの向かい側に立っている男が叫ぶ。その声に反応するように指先が微かに動いた。はっ、として顔を見れば小さく瞳が開かれていた。きっと音は聞こえているんだ。
「こいつに心臓をあげろだと?笑わせんなよ、こんなガキより俺の方が価値がある!!!」
そう吐き捨てた男の神経が分からなかった。まだこの子は生きていて声だって聞こえているのに、なんでそんなことを目の前で言えるのか。
「…天海、こいつを、」
「ふざけないでよ…!!!」
西山さんが何かを言いかけていたが、咄嗟に紡いだ言葉で遮ってしまう。それくらい男の行動が許せなかったし、この子の心情を考えるといたたまれなかった。
「なんでそういうこと平気で言えるの…!っ、この子にだって聞こえちゃってるのに、そんなこと言う人になんて、価値ないからっ、!」
感情のままに発した言葉が震える。目尻から溢れ出る涙がシーツに濃い染みを作っていく。
「……藤澤様。お部屋を変えましょう。」
天海さんの優しい声と共に、暖かい手のひらが肩に触れる。差し出された手を取れば身体を支えてくれ、綺麗な柄のハンカチで涙を拭われた。
「これでお相子ですね。」
そう微笑んだ天海さんに、力なく笑い返す。
部屋を出る直前に、氷室さんの怒鳴る声が聞こえた。優しい彼女からは部屋の様子を想像できなかったが、振り向くことはしなかった。
コメント
1件
自分よりも小さな女の子が苦しんでいて、助かる方法が心臓移植しかなくて、自分の心臓を差し出すか、見離すかだなんて究極の選択すぎる。。゚(゚´ω`゚)゚。ナケチャウ