光が差す場所には、闇が生まれる。
彼等は、光の裏の闇の世界をまだ知らない。
そう、これはまだ始まりに過ぎないのだからー
源蔵三蔵 二十歳
ドンドンドンドンドンドンッ!!!
太鼓の音が鳴り響く中、俺達は話し合いをしていた。
小桃と白虎、百花は自室に戻って行った。
「戦場に紛れ込んで、悟空を取り戻す?どうやって?」
陽春は髪をいじりながら、俺に尋ねる。
「美猿王を眠らせる。一時的に、封印させる。」
「そんな事が出来るの?」
俺の言葉を聞いた緑来は、不思議そうな顔をしながら呟いた。
ただ、名前を使っての封印技は、上位陰陽師しか扱えない術だ。
一応、俺も上位陰陽師の位には居るが…。
[ 名前封じ ]
名前の通り名前で封じる技、この術式専用の札を対
象者の額に貼り付け、呪文を唱え、最後に九字を切る。
書物で一度だけ見たきりで、実際にはやった事はない。
「出来なくはないよ、須菩提祖師が出来たんだから。ぶっつけ本番で、この札を美猿王の額に貼り付ける。」
そう言って、俺は1枚の緑色の札を取り出す。
「この札は、1枚しかないんだ。貴重な札だから、生産数も少ない。」
「じゃあ、失敗したら終わりって事?」
「そうなるな、一か八かこれに賭ける。」
「はー、良い?三蔵。ここには数百の妖が集まってんのよ、美猿王の所に行くには、美猿王を守ってる妖を倒さなきゃいけない。まず、正面突破は難しいでしょうね。」
俺の説明を聞いた陽春は、空を見ながら言葉を吐く。
沸々と体に伝わって来る妖気は、妖怪の多さを実感させられる。
カツカツカツ。
こちらに向かって歩いて来る足音が聞こえ、同時に小桃の声がした。
「三蔵を美猿王の所まで、護衛すれば良いんでしょ。」
ベルトがいくつか装着された白いフード付きの大きなパーカー、中は黒のベアトップに黒のショートパンツを着ていた。
「動いて平気なのか?小桃。」
そう言って、俺は小桃に尋ねた。
「今の所は。悟空を取り戻す為なら、小桃は何だってする。三蔵の援護も必要な事っぽいし。本当にこの方法で、美猿王は大人しくなるの?悟空は戻って来れる?」
小桃の視線は、真剣さを帯びていた。
「やってみない事には、分からない。だけど、この
方法で悟空を取り戻して見せる。小桃、力を貸してくれ。」
「分かった。猪八戒と沙悟浄は、最初から三蔵の提
案に賛成してるの?」
小桃は2人に尋ねていた。
「俺達から言う事は、特にねーな。美猿王には、眠っといて貰いたいしな。」
「何にはともあれ、俺と猪八戒は、三蔵のサポート役に回るつもりだ。陽春、緑来もそのつもりで来たんだろ。」
沙悟浄の言葉を聞いた2人は、黙って頷いた。
「話はまとまったか?」
「今決まった所だよ、百花ちゃん。」
「そう、あまり目立たない服装の方が良いよ。戦場に紛れ込んで行くんだったらね。下手に目立たない方が良い。」
百花は俺達に向かって、言葉を放つ。
「確かに、百花の言う通りだな。黒風はどうするんだ?俺達と一緒に行くか?」
「は、はい!!勿論で…、ゴホッ、ゴホッ!!」
「大丈夫か?黒風。」
「だ、大丈夫ですっ、ゴホッ、ゴホッ!!」
「水飲めよ、飲めるか?」
「あ、ありがとうございます。」
近くにあった空のグラスに水を注ぎ、急いで飲める準備をする。
コポポポポッ…。
水の入入ったグラスを受け取り、黒風はゆっくり飲み始めた。
「頭、少し良いですか?」
「どうしたんだ、緑来。」
「ちょっと、部屋の外でお話しを…。」
「分かった。ちょっとだけ、席を外すな。」
そう言って、沙悟浄と緑来は部屋を出て、少し離れた場所で話をしていた。
何の話をしてるんだろ?
「おーい、三蔵。服、これで良いかー?適当に探したから、こんなんしかないけど。」
猪八戒はタンスの中から、黒いマントを取り出していた。
「あー、良いんじゃない?私達の分もあるの?」
「あるよ、ほら。」
「結構、あるわね。他にも何かありそうね。」
ゴソゴソッ。
陽春と猪八戒は、タンスの中を漁り出している。
「おいおい、マントが見つかったんだから…。」
この2人は、何をやってんだ?
「あの、小桃さん?ですよね。」
「何で、名前知ってんの?」
「さ、三蔵さんがそう呼んでいたので…。良かった、探す手間が省けました。」
「どう言う事?小桃に何か用でもあるの?」
小桃は不機嫌そうに黒風を見つめるが、黒風は怯まなかった。
いつもなら、おどおどするのに。
どうしたんだろうか。
黒風の様子がおかしい気がする。
「は、はい。ここではなく、外でお話しを…。」
「ここじゃ話せないの?」
「百花ちゃんっ。」
小桃と黒風の間に百花が、話に割って入る。
「はい、申し訳ありませんが…。貴方がいると困る
んです!!」
「「え!?」」
黒風の言葉を聞いて、俺と小桃の声が重なる。
百花はジッと、黒風の事を睨み付けていた。
「す、すみません、失礼します!!」
「え!?ちょ、ちょっと!?」
グイッと小桃の手を引き、黒風は部屋を出て行った。
その場にいた俺達は、唖然としてしまう。
「く、黒風の奴、どうしたの?」
「あんな大胆な行動出来るんだなー。まぁ、小桃って結構かわ…、うぉ!?」
ブンッ!!
百花が猪八戒に向かって、剣を振り下ろした。
「小桃が可愛いのは、当たり前だろ。変な目で見たら、殺すぞ、お前。」
「ちょいちょい、褒めただけだっての。そんな怖い顔しなくて良いじゃん?」
「おい、猪八戒。あんまし、この女の子の事、威嚇すんなよ。」
陽春はそう言って、百花に黒いマントを渡した。
「悪いな、そろそろ行くか。」
「あ、沙悟浄。話はもう良いのか?」
「少し話しただけだから、小桃達も外で話してたのか?珍しい組み合わせだな。」
沙悟浄の視線の先には、小桃と黒風の姿があった。
どうやら、2人も話が終わったらしく部屋に戻って来た。
猪八戒が沙悟浄と小桃にマントを渡し、お互い戦闘準備に入る。
カチャッ。
霊魂銃を取り出し、銃弾を装填する。
「お嬢、奴等が戦闘を開始しました。」
「分かった。白虎、三蔵の事も警護して。」
「御意。」
小桃は白虎の頭を撫で、俺に視線を送る。
その視線の意味を俺は理解してる。
「行こう、皆んな。」
俺達は国王邸を後にし、戦場に向かった。
同時刻 花の都と宝像国の境目
美猿王と牛鬼は、ほぼ同時に境目に到着した。
2人の背後には、大勢の妖達が集まっており、不穏
な空気が流れている。
「よぉ、久しぶりだなぁ。」
「お前の執着心には感心する。よくもまぁ、俺に飽きねーな。」
「そりゃそうだろ?俺達はこうやって、お互いの命を削り合う関係なんだしよぉ。」
牛鬼の言葉を聞いた美猿王は、冷たく言葉を放つ。
「お前と俺は、違うだろ。女に溺れた男が、何をほざく。」
「何だと?」
「気持ち悪りぃんだよ、お前。」
美猿王の言葉を聞いた牛鬼は、キッと睨み付ける。
「牛鬼様に向かって、何て口を聞くんだ貴様ぁあぁあ!!」
「殺してやる!!」
ドタドダドタドタ!!
武器を構えた妖達が、一斉に美猿王に向かって、走り出した。
「あは、雑魚が群れて来てる。王、あれ殺して良い?殺して良い!?」
中華包丁を構えた天は、興奮気味に美猿王に尋ねる。
「あぁ、お前の好きにして良いぞ。」
「やったぁ!!じゃあー、三枚おろしにしよっと。」
タンッ!!
ビュンッ!!
物凄いスピードで走り出した天は、目の前にいた魚の頭をした妖に向かって、中華包丁を振り下ろす。
ブシャッ!!
「ギャァァァァァ!!」
紫色の血飛沫が飛び散る中、天は次々と魚の頭をした妖の体を斬り付ける。
まるで、魚を3枚に下ろすかのように、妖の体で試していた。
ブシャッ、ブシャッ、ブシャッ!!
「な、何だよ、この女っ、グァァァァ!!」
「あははは!!まだまだ、楽しましてくれるよねぇ!?」
「うがぁぁぁあ!!」
天は次々と妖達を斬り付け、牛鬼の目の前まで迫った時だった。
「あははは!!次はお前かなぁ!?」
牛鬼の頭上から中華包丁を下ろそうとしたが、右から鎌叉が飛んで来た。
ブンッ!!
キィィィン!!
「へぇ、君が飛ばして来たんだ。」
黙ったまま天を睨み付ける牛頭馬頭に向かって、邪は言葉を吐く。
邪が長い爪を使い、鎌叉の動きを止め、天を自分の方に引き寄せた。
「兄者!!」
「怪我はない?」
「うん!!」
その光景を見た牛頭馬頭は、鎌叉を乱暴に振るう。
「あぁ、お前等みたいなのを見てると腹が立つなぁ!?美しき兄妹愛ってか??」
「は?何なの、コイツ。」
「頭がおかしいみたいだね。」
天と邪は、牛頭馬頭を怪訝な目で見つめた。
「君の悪いガキですね、美猿王。」
丁はそう言って、美猿王に耳打ちする。
「牛鬼が飼いそうなガキだ。天、邪、そのガキを始末しろ。耳障りな声ばかり出すからな。」
美猿王の言葉を聞いた天は、嬉しそうに中華包丁を振り回す。
ブンブン!!
「えへへ、やった。コイツ、あの雑魚達よりはマシみたい。殺したら、何しようかなー。」
「そうだなぁ、あの胸の石を取りたいかなぁ、僕は。」
「兄者に似合いそう!!ねぇ、どっちが先にあの石を取れるか勝負しよ!!」
「良いよ。」
「やった!!じゃあ、僕から行くねぇ!?」
タンッ!!
「この糞野郎が!!テメェの方が気色悪りぃんだよ!!」
キィィィン!!
天の攻撃を受け止めた牛頭馬頭、互いに攻撃する手を止めなかった。
「俺達も続け!!」
「「「おおおおおおおおお!!」」
1人の妖の声を聞き、牛鬼側の妖達が一斉に美猿王に向かって走り出した。
ザッ!!
走り出した妖怪達の前に、丁達が立ち憚(ハバカ)る。
「行くぞ、お前等。」
丁の掛け声を聞き、李(リー)、胡(フー)、高(ガオ)は武器を構え、走り出す。
そして武器を構え、妖怪達に振り下ろす。
ブンッ!!
ブシャッ、ブシャッ、ブシャッ!!
「「ギャァァァァァ!!」」
「うがっ!?」
紫色の血が飛び交う中、丁達は武器を振るい続ける。
黎明隊の連携技は凄まじく、互いの動きをカバーしつつ、攻撃の手を止まる事はない。
「普通の雑魚じゃ相手にならねーか。お前等、餌の時間だ。」
パンパンパンッ。
牛鬼が手を鳴らすと、首輪に繋がれた化け物が歩き出した。
もはや、体の原型を留めておらず、至る所に人間の部位や妖の部位がくっつけられていた。
その化け物達を見た丁は、牛鬼を睨み付ける。
李は、怒りを露わにしながら、牛鬼に向かって叫ぶ。
「テメェ…。花果山の猿達をまた、化け物にしたのか!?どんだけの猿達を殺したら、気が済むんだ!!!」
この化け物達は、花果山に生息していた猿達である。
牛鬼は、猿達を殺し、毘沙門天等と共に化け物に作り変えたのだ。
闘技場にいた猿達と同様、酷い姿にされていた。
涎を垂れなし、瞳孔が開きっぱなしで、目からは涙が流れていた。
「お前等は、命を何だと思ってんだよ!?俺達をこんな姿にさせただけでは飽きたらず、関係ない猿達も殺したのか!!」
「何を怒ってる?弱い者が喰われんのは、当たり前だろ。この世は弱肉強食、そうだろ?」
丁の言葉を聞いた牛鬼は、悪びれる様子はなかった。
それどころか、何処か誇らしげな態度を見せている。
その様子を見て、丁達の怒りの炎が燃え盛る。
「あ、あぁぁあ…。」
「もゔ、やめで…。」
「ゔぅぅ…。」
化け物にされた猿達は、言葉を募らせる。
カツカツカツ。
美猿王は静かに歩き、丁達の前まで歩いた。
「び、美猿王…。」
丁の言葉には反応せずに、美猿王は爪で腕を引っ掻いた。
ポタポタと流れ落ちる赤い血は、刃の形に変形し、美猿王は化け物にされた猿達に視線を送る。
「死ぬ勇気すらねぇんだよな、俺が楽にしてやる。」
そう言って、美猿王は手を下ろす。
すると、血の刃が物凄い速さで、化け物にされた猿達の頭を跳ね飛ばす。
ブシャッ、ブシャッ、ブシャッ、ブシャッ!!!
紫色の血が飛び舞う中、唖然とする丁達の顔を見て、美猿王はは言葉を続ける。
「安心しろ、皆殺しだ。」
その言葉を聞いた丁達は、武器を構え直し、息を整える。
「「「御意。」」」
タンッ!!!
丁達は、武器を振り下ろし妖達を斬り刻む。
「王の命令だからね、お前等は1人残らず殺す!!」
李は意気揚々と言葉を吐き、鎌を振るう。
天は挑発するように牛頭馬頭に向かって、言葉を吐く。
「おいおい、まだ遊ぼうよぉ。息上がってんじゃねーよ、ガキ。」
「うるせぇ…っな!!」
ブンッ!!
キィィィン!!
息が荒いまま牛頭馬頭は、天に鎌叉を振り下ろす。
ドンッ!!
ブシャッ!!
天は牛頭馬頭の腹に蹴りを入れ、右腕を斬り落とした。
「っ!?鈴玉!!!」
「あははは!!次はどこにしようかなぁ?足かな?
頭かなー?あははは!!」
「やめろ!!」
牛頭馬頭の前に鱗青が立ち、大きな水の塊を出した。
「あれー?コイツ、誰だ?」
「鈴玉に手を出すな!!!」
シュンッ、シュンッ、シュンッ!!
鱗青は天に向かって、水の銃弾を放った。
「うーん。この水に当たったら溶けるよー、天。」
グググッ。
邪が自身の爪を長くし、ゴキゴキッと音を立ててな
がら指を鳴らした。
「なっ!?何で、分かっ…。」
ブシャッ!!
鱗青の右手首から、紫色の血が噴き出す。
バシャンッ!!
大きな水の塊は地面に落ち、小さな煙を上げた。
「うがぁぁぁぁあ!!」
鱗青は血の噴き出す右手首を握りながら、地面に倒れる。
「うるさいなぁ、男だろ?君。大丈夫でしょ、妖なんだからさー。これぐらいじゃ死なないだろ?」
「テメェ…。」
「あ、この手は天のおやつにするから。」
そう言って、邪はポイッと天に鱗青の手首を投げ渡す。
「やったぁ!!いただきまーす。」
喜びながら、天はパクッと鱗青の手首に噛み付く。
「いつもそうだよなぁ?」
牛鬼は天や邪、丁達を見て言葉を吐く。
「良いよなぁ、お前は生きてるだけで人が寄ってくんだもんなぁ。昔からそうだよなぁ。」
「あ?気色悪りぃな、お前。」
「あの時も俺の醜い顔を見て、言ったよな。」
美猿王には身に覚えのない言葉だった。
「意味の分からない言葉言うよな、お前。俺に何故、そこまで執着すんだよ。」
「テメェが生きてる限り、俺は…、自由になれない。分かるだろ?お前と俺は、どちらかが死ねば終わりだと。今世限りの命だと。」
「さぁな。そんな事はどうでも良い、俺はお前を殺すだけだ。お前も俺を殺したければ、殺しに来い。」
ビュンッ!!
美猿王の赤い刃が牛鬼に向かって、飛ばされた。
キィィィン!!
牛鬼は黒い影を増幅させ、刃を弾き飛ばす。
「あぁ、そうだよなぁ。俺達は分かり合う事はない、あの日、あの瞬間からなぁ!?」
ビュンッ、ビュンッ!!
美猿王の頭上から、黒い影の棘を降り注ぐ瞬間、美
猿王の元に一筋の刃の光が入る。
キィィィン!!
赤い刃が受け止めたのは、一つの刀。
「フッ。来たな、小桃。」
美猿王が視界の中に入れたのは、小桃の姿だった。
ブスッ!!
「悟空を返して。」
小桃は隠し持っていた短剣を取り出し、美猿王の脇
腹に突き刺さした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!