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「――う~ん。――でも、――もし本当に、“恋をしてはいけない相手に恋をしてしまった”のだとしたら、――雷さんも大変ね……」
「――“大変”? ――なんで、“大変”なんすか?」
京が不思議そうにすると、法雨は、案じる様な表情のまま答えた。
― Drop.015『 The HANGED MAN:U〈Ⅲ〉』―
「――だって……、――恋って、一度してしまったら、それが初恋じゃなかったとしても、諦めるのも、忘れるのも大変じゃない? ――それなのに、それが、これまで経験した事がないほどの初恋なんだとしたら、――想像しただけで苦しくなるじゃない」
「――な、なるほど。――それは、確かに……」
法雨の言葉に、京は思わず、神妙な面もちになる。
そんな京は、ふと、零す。
「――でも、あの雷さんが、あんな風になるまで生気抜かれるって事は、――雷さんが惚れちまった人って、めちゃくちゃ魅力的で魔性の人なんでしょうね……」
法雨はそれに、同じく考える様にしながらも悪戯っぽく言った。
「――そうねぇ……。――まぁ、少なくとも、――アンタなんかはコロっと落とされる割に、その相手からはまったく見向きもしてもらえないくらいの人かもしれないわねぇ……」
「――うぐ……。――なんか……、――言い返したいっすけど、多分その通りなんで、言い返せない自分が悔しいっす……」
法雨は、そんな京に笑いつつ、また考える。
(――う~ん……。――どこの誰に恋をしてしまったのかは見当もつかないけれど……、――あの勇敢な狩人様は、自分の雇い主のお嬢様にでも惚れちゃったのかしらねぇ……)
あるいは――、その雇い主の婚約者の可能性もあるやもしれない――。
(――だとしたら……、あの誠実な雷さんには、尚のこと酷な恋ね……)
もし、そのような相手であれば、あの誠実な男が行動に出られるはずもなく――、ゆえに、それはまさに、――禁断の――叶わぬ恋だ。
(そして、――そんな恋であるなら……、――“恋をしていると分かって困る”のも、――頷けるわね……)
「――あぁ、ところで。――京は、その相手が“誰なのか”って事は、雷さんに尋かなかったの?」
様々と思考を巡らせた法雨が、ふと思い立ち問うと、京は答える。
「――それが……、――一応、流れで尋きはしたんすけど……。――“言えない”って言われたんす……」
「――アラ……。――と云う事は、すごく有名な方なのか……、それとも、その方と無関係の京にすらも、言えないほどの方なのかもしれないわね……」
「――かも、しれないっすね……」
「――ううん……。――もしかすると、想像以上に深刻な話になってるのかもしれないわね……。――それか……、――……いえ、――流石にこれはないわね」
引き続き憶測を巡らせる中、ふと法雨が自問自答すると、京は身を乗り出す。
「――え!? ――な、なんすか!? ――なんか思いつく相手とか居たんすか!? ――俺にも教えてください!! ――超気になるっす!!」
法雨は、何故かそんな京を遠目に見る様にしてから答えた。
「――まぁ……、これは、――正直ありえなさそうって事なんだけどね……。――ほら、小説とか、映画とかでもたまにあるじゃない? ――自分が恋してしまった相手に、“その好きな人って誰なんですか?”って尋かれたりした時――、その相手に自分の恋心を悟られないようにするために、“好きな人は居るけど、誰かは言えない”って、言ったりするシーンが」
「――あぁ。――ありますねぇ」
「――で、そう言われた本人は、大体、“この人は、自分以外の誰かが好きなんだろう”って、思うわよね?」
「――はぁ。――まぁ、変に勘ぐらなきゃ、そうっすねぇ……。――……って、――え……?」
未熟な助手は、どうやらそこで、法雨が思いついた“ありえない思い付き”の内容を察したらしく、眉間に皺を寄せて続けた。
「――えっと、――つまり、――それを雷さんの話に置き換えると……、――雷さんが、“言えないって答えた相手”が、雷さんが恋しちゃった相手になるって事っすよね……」
「――えぇ。そうなるわね」
そんな京に、法雨が溜め息交じりに言うと、彼は、心からの確信をもって言った。
「――それは……、――絶、対、に、――ないっすね……」
「――そうでしょ。――アタシもそう思う」
つまり、法雨が思いついただけの“ありえない”仮定が真であった場合、――雷がとんでもない初恋をしてしまった相手は、この未熟でやかましい助手ということになる。
が――、やはりそれは、その助手自身も心からの確信をもって否定してしまうほどに、“絶、対、に、ありえない”事――という結論で決着がついた。
(――それにしても……、――雷さんも、せっかくの初恋がそんな壮絶な恋になるなんて……、――この“オオカミ坊や”たちの事と云い、――アタシからの非礼も含め……、――苦労の多い年を過ごしてるわね……)
法雨は、そう思いながら、未だカウンターでうんうんと考え込んでいる未熟な助手を見やりながら、次のオーダーを問うてやる。
その中、そんな京“坊や”を目の前にしているせいか、法雨はまたひとつ、よからぬ仮定を立ててしまった。
(――まさか……、――未成年の子に、とか……? ――ま、まさかね……)
法雨は、図らずも立ってしまった仮定とは云え、なんとなくまた雷に非礼を働いてしまったような気になり、その仮定を振り払いながらも、心の内で届かぬ詫びを紡いだ。
(――ごめんなさいね。雷さん……。――でも、――真相については、まったく見当もつかないけれど……。――今度、お店にいらした時も困っている様子なら、――やっぱり、アタシからも尋いてみた方がよさそうね……。――オトナの恋愛であるなら、尚のこと“坊や”には相談できないでしょうし。――アタシが力になれる事もあるかもしれないし……)
法雨は、改めてそう決すると、恩人でもある悩める探偵を想いながら、図らずも伝達役を務めてくれた助手に、次のカクテルを贈った。
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