俺が10歳のとき。
俺には憧れの人がいた。
みんなの憧れで、たくさんの小さな命を救ってきた人。
中途半端な正義じゃない。
口先だけの綺麗事は吐かない。
そんな人だった。
俺も救われた内の1人。
いつかは俺もあんな風になりたいと何度も思った。
でも、無理だった。
俺の言葉はあの人の言葉みたいに美しくはなかった。
俺にはとても手の届かない人だ。
そんなあの人に、俺は好意を寄せていた。
───寄せていた、というのはおかしいか。
寄せている、だ。
しかし、もう叶わない恋だ。
あの人はもう、ここにはいない。
もう会えない。
言葉を交わすこともできない。
どうせ、幼い少年の儚い恋だ。叶うわけもない。
そんなあの人との日々は、誰にも明かす気はない。
あの人との、大切な時間。
夜、満天の星空のもとで少しだけ話す時間。
学校での出来事や、面白かった漫画のことを話すだけの時間。
そんな時間が、俺の幸せだった。
特別なことは何もない。
それが良かったのだ。
当時の俺にとって、一番心落ち着く時間だった。
もう今、そんな幸せな時間はない。
社会の闇や上司の言いなりになるだけのつまらない日々だ。
…あの人は今、幸せだろうか。
俺も数十年後、そっちに行くよ。
なんて、あの人が好きだったスズランを見つけて幸せな思い出に浸っていただけのつまらない男の話。
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