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その夜。睦月君にはぜんぜん連絡がつかず、21時を過ぎても帰ってきてくれなかった。顔を見て話したかったのに…。
とりあえず大脇さんに連絡を取ってみた。彼なら私の電話を無視することはしないだろうと踏んで。
数コールのち、相手が電話に出た。『もしもし、奥様ですか?』
「そうです。あの…睦月君はそちらにいらっしゃいますか?」
『はい。TENGAで緊急対策を行っております』
緊急対策…。日経平均株価も過去にみないくらい大暴落していたし、呑気に家に帰るという状況ではないのだろう。
「あの…大丈夫ですか?」
『はい。ご心配には及びません。こちらでできる対策をいたしますので』
用事がなければ切りたいような雰囲気が伝わってきた。
「今日、プレゼンはどうなりましたか? それだけ教えていただけますか」
大脇さんは少し黙った後、今の状況を教えてくれた。
『後日発表のためまだ結果は出ていませんが…社長の口ぶりからすれば、揮(ふる)わなかったと言わざるを得ません』
やはり先ほど水島君が折り紙にやってきて私に打診したのは、プレゼンの結果、TENGAやマルヨーが選ばれるのではなく、未来スーパーが選ばれるからなのだろう。あれだけ頑張ったのに…残念だ。
「お忙しい所、教えていただきありがとうございました。夫によろしくお伝えください。失礼します」
投資のことはわからないけれど、大々的なニュースになるくらいだから、深刻な事態になっているのだろう。こんなとき、私にできることは――
(よし、お弁当を作ろう!)
腹が減っては戦はできぬと言うし、プレゼンが終わってから、恐らくなにも食べていないだろう。睦月君が私からの電話を意図的に無視するとは思えないけれど、合わせる顔がないとか、そんな風に思っているかもしれない。
あれだけ頑張ったプレゼンがダメだったのだから、私に会いづらいというのも理解できる。それなら、私から会いに行けばいい。もう待っているだけの自分じゃない。睦月君への想いは、自分で伝えなくちゃ!
私は急いで折り紙に戻り、支度を整えた。まずはご飯を炊くところから。玉子はたくさんあるし、鶏肉もいっぱいあるので、からあげ弁当を作ることにした。材料がないから凝った幕ノ内弁当みたいなものはできないけれど、届けることに意味がある。
あなたを大切に想っている気持ちを。
恐らく会社には全員残って今後の作戦を考えているはず。もし余ってもいいやと思い、TENGAで働く方全員分のお弁当を作った。配達用の軽ワゴンでTENGAまで行こうかと思ったけれど、多分オフィス街で駐車場も遠いと思うので、タクシーを使うことにした。
待っててね、睦月君。
今度は私があなたに会いに行くから。
コメント
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もう「待ってるだけの自分じゃない」って決意した瞬間、グッときたわ…。プレゼンがうまくいかなかった夫のために、全員分のお弁当を作って届けに行く奥さんの行動力、好きすぎる。電話で大脇さんから聞いた結果も「揮わなかった」って、ちゃんと現実突きつけてくるのがまた辛いんだけど、それでも動くのが尊い。さぶれさん、今回も人間ドラマがえぐいほど沁みました。続き楽しみにしてます🔥