元貴の家で二人で呑んでいると、何の前触れもなしにふらりと元貴が作業部屋へと入って行った。
(あぁ、始まったな・・・。)
こういう時の元貴はゾーンに入っているため、『話しかけない、近づかない』がチーム内での暗黙のルールになっていた。
すごい曲を作る天才肌の元貴と、無理難題な音を提示されても努力で乗り越える若井
二人と僕の間には越えられない壁がある
迷惑をかけたくないから頑張って練習するけど
実際は何も出来ない、出来てない
出来損ないの僕
「”当たり前に進んでゆく皆んなについて行こうと頑張ってます”・・・。」
先を行く二人を追いかけて、置いていかれないようにもがいている
元貴のように美しい歌声じゃない
誰かの心に響くものではない
だから内緒話しみたいに
静かに暗闇に溶けるように
そっとサビを口ずさんでみた
「”あり得ない程に キリがない本当に 無駄がない程に”・・・。」
”我ら”?
違う
”僕以外”が・・・
「・・・尊い・・・。」
その瞬間、後ろからすごい衝撃を受けた。
「!!?」
何事かと思ったら、元貴がソファーに座る僕を後ろから強く抱きしめていた。
「びっくりした・・・。元貴、作業終わったの?」
振り返った僕の額に、元貴がチュッとキスをした。
「へ・・・?!」
思わず情けない声が出る。
すると、元貴は悪戯が成功した子供みたいに笑った。
そして
「”誰しも何処かに弱さがある様に”~♪」
離れて立ち、手を広げてラストの大サビの部分を歌う。
そこだけスポットライトが当たってるみたい。
やっぱり元貴は僕とは違うんだなと痛感してしまう。
「”無駄がない程に我らは尊い”~♪」
そこからアウトロに向かっていくけど
元貴は僕の目を真っすぐに見ながら歌った。
「“貴方は尊い”。」
「!」
「涼ちゃん。」
「は、はい?!」
元貴に呼ばれて我に返る。なんか、ミュージカルを見た後みたいにぼーっとしていた。
「俺がどんな思いでこの曲を作ったと思ってんの。」
この曲は大変な思いをして生み出したというのは僕ももちろん知っている。
元貴からしたらそんな愛しい我が子を貶されたような感じなんだろう。
「・・・ごめんなさい・・・。」
「貴方みたいな人に一番聞いてほしいし歌ってほしい曲だよ。」
「え?」
「あり得ない程に涼架は尊い~♪」
楽しそうに歌う元貴
あぁ、本当に
貴方は尊い
額:祝福/友情