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そうだ、短編を書こう

9 - 酒は飲んでも呑まれるな。いやホントに。

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2024年09月14日

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強烈に一目惚れだった。

マジで。どタイプだったんだ。

……新しい俺の部下が。




「…………キッツ…」


と呻くは右京 幸之助うきょう こうのすけ。御年30、とある会社のとある部署の課長。隠れゲイだがここ十数年恋人・出会い共々に無し。年による心身の不調から目を背けづらくなってきた今日この頃、 つい一月前に部署に入ってきた新卒の新人に絶賛片想い中である。

さて、そんな右京は現在会社を後にし行きつけのゲイバーの片隅でこそこそ酒を飲んでいる訳だが。

彼にとって何がキツイってそりゃ10近く年下のしかも明らかなノンケに惚れたという事実それ自体などでは断じて無く。

そう、惚れた自分という……ちょっとコンプラとかそういうの的にマズイおじさんの存在であった。

一つ考えてみよう。22歳の新人に惚れる30歳の課長。 セクハラ問題まっしぐらである。相手の性別関係なく、右京の立場はヤバかった。


「バレたら死ぬ……バレたら死ぬ………」


と、カウンターに突っ伏しうわ言のように繰り返す右京。その不審な行動も最早「いつものこと」なので誰も触れてはくれない。右京は今日も独り心の中で泣きながら酒をあおるのであった。

と、その時カロンカロンとバーの扉に付けられた鐘が鈍く鳴った。カツンとヒールの踵の様な足音が軽やかに右京の鼓膜を叩く。新しい客はどうやら右京と同じく革靴を履いているらしい。

しかし右京はそんな事はどうでも良かった。それより自分に打ちひしがれたい夜なのであった。そもそも、入ってきた客の顔をわざわざ見るなんてちょっと品が無いだろうと右京は常々思っていた。

そんな訳で顔を上げなかったのだが、これが右京の人生においてトップ3に入るレベルで致命的なミスとなった。


「……………あの、大丈夫…ですか?」


若い男の声だった。

右京は瞼を閉じ、その声を反芻した。心配そうに萎んでいるものの、そのやや高く張りのある声はなんだか妙に聞き覚えがあった。はて、どこだっただろうか。最近歳のせいか中々思い出せない。いやはやしかし、この男かなりいい声の持ち主だ。いや、声だけではない。こんな明らか面倒そうなおじさんに声をかける、その精神が美しい。それを無下にするのも宜しくないだろう。右京は虚ろにそう考えた。


「……あぁ、はい、」


右京はのろのろと顔を上げた。


「おれは大丈夫れす………っへ?」


そして、狐の面と目が合った。

そう。この雑多なバーの中で、その来店者は狐の面をつけていた。祭りの的屋で売っているような、造りのしっかりした良いお値段のお面である。しかし時はまだ春。お面シーズンでは無い。よってこの男、そこそこ不審者である。

さて、話は変わるが右京には日頃から天然のきらいがあった。それが彼が部下達に愛される大きな原因となっているのだが……それはさておき。しかも天然に加えてこの時点で右京は既にかなり仕上がっていた。深酒を止めてくれる人も居なかったので今夜の右京はそれはもうベロンベロンだった。

だから、


(わぁ、きつね……喋る狐かぁ。そんな知り合いいたっけなぁ)


と言う具合で、現状を酔っ払い特有の驚異的抱擁力で受け止めてしまった。

そのお面を被っている男が、やけに見慣れたグレースーツを着こなしている事まで頭が回らなかったのである。


「ほ、本当に大丈夫です、か……?」

「はい、らいじょーぶれす……あ、すみません、おれ邪魔れすよね……あっちいきますから……」

「いや、邪魔という訳では……」

「あぁ、すみませんちょっと待ってくらさい……ぐらす空けなきゃ…」

「ちょっ……課長待っ……!」


右京はグラスに残っていた酒を一気にあおった。力の加減ができなくなった右京の腕が振り下ろされ、カンッとグラスが机に叩きつけられる。それと同時に右京の頭がぐらぐらと揺れ始めたが、狐の面の男はグラスと奥のバーテンダーの顔を交互に見てはオロオロとするばかりで気付かない。

そしてバーにいる者は誰一人として、右京という酔っ払いに絡まれる哀れな狐面を助けてやろうという考えを抱かない。今宵は客もキャストも薄情者ばかりであった。


「んふ、んふふ……きつねさん、なんらかかわいいれすね…」

「え?……っあ、大丈夫じゃなさそうになってる!?うわーっ、どうしよう………課長、しっかりして下さい…! 」

「…かちょう……ありぇ、きつねさんやっぱりおれのことしってるんれすかぁ……?おれもねぇ、あったことあるなぁっておもってたんれす…」

「ギクッ」


狐面の時が止まった。

しかし厄介絡み酒酔っ払いおじさんこと右京は止まらない。


「きいてくらさいよぉ、おれね、すきなひとがいるんれすよぉ。でもこれがすんごい…とししたでぇ……こぉんなおじさんがすきになったら………いろいろ、あぶないん……れすよぉ…………」


右京は今後の自分に向けて大きな爆弾を投下しつつこっくりこっくりと船を漕ぎ始めた。狐面もまた、その大きすぎる爆弾の存在をうっすら感じながら右京が床に激突しないようにそれとなく右京の肩を抱いた。


「きつね……んふふ………すぴー…すぴー……」

「ね、寝た………」


狐面はホッと息をついた。そして右京を引き摺りながら会計を済ませ、バーを出た。


「あーびっくりした……」


そして狐面を外した。



狐面こと左車 春樹サグルマ ハルキはとある会社のとある部署の新人社員である。

あくる日左車が仕事を終え家に帰る途中、会社の先輩に急に呼び出され渋々向かった先は何だか不思議な雰囲気のバーであった。左車は首を傾げながら店に入り……そしてそこで独り酔い潰れる我らが課長の姿を見た。

見てはならないものを見てしまったと思わせるその弱々しい背中に、左車は取り敢えず慌てて狐面を被った。これは今朝寝坊したせいで間違えて鞄に突っ込んだ物であった。左車は神の存在に感謝した。そして先輩の存在を憎んだ。十中八九、課長を自分に回収させるために呼んだのだろうと察しがついたのである。

後で焼肉を奢ってもらおうと自分の中で早急に片を付け、左車は課長に声をかけた。


事はそういう次第である。



目が覚めたら、右京は見知らぬ部屋にいた。

丁度良く部屋に入ってきた左車……もとい自らの想い人に飛び跳ねて驚き、その衝撃で昨夜の痴態をすっかり思い出した。

あの後、勿論左車が右京の家を知っているはずがなく、右京があの状態で正しく自らの住所を言えるはずがなく。というかそもそも右京が全く起きず。左車は最終的に自分の家に右京を運び込んだのであった。

右京は小一時間土下座し続けた。あまりにあんまりな自分にちょっと泣いた。


「課長、そんな……謝らないでください。次気をつければ良いんですよ」

「うっ……うっ……さぐる”ま”ぐん”……」

「次からは自分も呼んでください。ストッパーくらいにはなれますから」

「ごべん”な”ざい”ぃ…… 」


そんな訳で、二人は共に酒を飲む仲となった。


(左車くんには申し訳ないけど、長く一緒にいられるのは嬉しいなぁ……アッ!?これセーフか?これ課長としてセーフか!?)

(………課長……好きな人いたんだ……)


この二人が結ばれるか否かは、また別のお話。

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