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彼がクローゼットの中の服を選びかねていると、突然、部屋に設置されたスピーカーから館内アナウンスが流れ始めた。
「皆さん、ファッションショーは1時間後にロビーで行います。準備を整えて、指定の時間に集合してください。なお、皆さんの元の体は、この船の特別な部屋で大事に保管されています。しかし、安心してください。元の体は徐々に女性化する装置に入っています。つまり、元の体に戻れたとしても、早くミッションをクリアしない限り、女性化が進んでしまいます。良い結果を出すためにも、ファッションショーで最大限の魅力を発揮してください。」
その言葉を聞いた瞬間、彼の全身に冷たいものが走った。自分の元の体が女性化しているというのか。戻れたとしても、それが完全に女性の体になってしまっていたらどうする? その考えが彼を恐怖で支配した。
その時、部屋に備え付けられたモニターが突然オンになり、画面に彼の元の体が映し出された。透明なカプセルの中で静かに眠る自分の姿。しかし、その肌にはどこか女性らしさが滲み始めている。頬はわずかに丸みを帯び、唇も微かにふっくらとしているように見えた。
「くそ…」
彼は震える手で額を押さえた。時間がない。このままでは自分の体が完全に女性化してしまう。彼は深呼吸を繰り返し、自分を落ち着かせようとした。焦りが全身を駆け巡るが、今は冷静でいなければならない。
彼は部屋に置かれていたタブレット端末に目を向けた。それを手に取り、画面をタップすると、服の着方や化粧のやり方を解説する動画が再生され始めた。画面の中で笑顔の女性が、ドレスの着こなし方やハイヒールの履き方、さらにアイシャドウの塗り方までを丁寧に説明している。
「これをやるしかない…」
彼は覚悟を決めた。恐怖に打ち勝つためには、行動するしかない。動画を見ながら、彼はまずドレスを手に取った。滑らかな生地が指先に触れ、その感触に一瞬戸惑う。だが、指示に従ってドレスを頭から通し、肩にかける。鏡に映る自分の姿は、ますます女性らしさを増しているように見えた。
次に彼は化粧に取りかかった。ファンデーションを顔に伸ばし、アイシャドウを瞼に塗る。手が震え、思うようにできないが、タブレットの動画を頼りに少しずつ進めていく。リップスティックを手に取った時、彼の心は今まで以上に重くなった。唇に赤い色をのせると、まるで本当に女性になってしまったかのような錯覚に陥る。
「ここまでやったんだ…やるしかない」
彼はリップスティックを引き、鏡の中の自分に視線を固定した。そこに映るのは見たことのない女性の顔。しかし、その瞳には、間違いなく自分の意志が宿っている。彼は深呼吸をし、これが自分を取り戻すための戦いだと心に言い聞かせた。
準備が整い、彼は最後にハイヒールを履いた。足元が不安定で、バランスを取るのに苦労するが、これもまた女性としての試練だ。彼は一歩ずつ歩みを進め、ロビーへ向かう決意を固めた。時間は刻一刻と迫っている。元の体に戻るために、そして自分自身を取り戻すために、彼はこの試練に挑むしかなかった。