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試食と称してお母さんと一緒に幾つかの缶詰を食べてみた。私が居た頃より缶詰の味が良くなってるような気がする。今回はアメリカの缶詰が中心だけど、世界各国の缶詰や保存食を仕入れてみるのも面白そうだ。
「魚類の食感は似ているから、魚系は受け入れられると思うわ。ただ……これは何かしら?」
「コンビーフの缶詰だよ」
個人的に選んだものも多い。ただ、コンビーフは薄味のものを選んだ。味付け次第で化ける食材だしね。
「ビーフ、つまり獣肉の類いかしら?」
「うん、牛って呼ばれる四足動物のお肉だよ。地球は畜産も盛んなんだ」
「土地があるみたいで羨ましい限りね。アードじゃまず無理だわ」
アードでも畜産専用の浮島も作られているけど、生産数はとても少ないから肉は富裕層や特権階級専用食材みたいなものだもんねぇ。
「ん、歯応えがあって美味しいわね」
気に入って貰えたみたいだ。
「売れるかな?」
「先ずは魚類とか野菜を中心に売るのが良いわね。このビーンズは気に入ったわ」
お母さんが好んだのはグリーンピースの缶詰だったりする。お母さんも野菜とか好きだもんね。
お母さんは関心を持ったものにとことん執着する癖がある。地球関連のものに興味を持たせれば、その才能をフルに使って地球のことを調べようとする筈。
「医療シートは役立ったかしら?アリアから聞いたけれど、大活躍だったみたいじゃない?」
アリア、いつの間に。
「助けを求める人を出来るだけ助ける。それって当たり前のことじゃないの?」
「そうね、当たり前の事だわ。けれど、それを実行に移せる人がどれだけ居るかしら?まして相手は異星人よ。住む星すら違う人に手を差しのべられる。ティナのそんな気持ちを私は誇りに思うわ」
「お母さん……」
頭を撫でられていると、胸が暖かくなる。前世では経験出来なかった事だ。深い愛情を感じるけど……あれ?お母さん、怒ってる?
「でも、無茶をするのは控えなさい。止めろと言っても聞かないでしょうからね?」
頬っぺた引っ張られちゃった。
「ふぁい」
「よろしい。次はどれくらいゆっくり出来るの?」
「現地時間で23日後には会談があるから、それまでには地球へ行かないといけないんだ」
「片道で7日だったかしら?局長からの依頼もあるだろうし、あんまりゆっくりは出来ないわね」
「うん、だから大急ぎで医療シートを集めないといけない。前回は100枚だったけど、今回は200枚は欲しいかな」
幸い局長がお給金を弾んでくれたから、資金の問題は解決した。危険手当てとして申請してくれたみたいで、政府もお金を出してくれたみたいだ。
流石にトランクは高価だから調達は開発局に任せるしかないけど、さっきの反応をみる限り感触は悪くない。予算を増やしてくれるのは間違いないと思う。
ただ、出来れば交易に必要な品は私自身で揃えたいとも思う。
「200枚ねぇ。用意できないこともないけれど、期限は?」
「出来れば明後日までに。どうかな?」
いつ次の出動要請が出るか分からない。理解に苦しむけど、今惑星アードで救難信号に応えられるのは私だけだ。私が宇宙に出るまではどうしていたか?
信じられない話だけど、全て黙殺してる。センチネルへの恐怖は同胞すら見捨てるレベルらしい。
「明後日?まあ、休暇を取れば出来るわねぇ」
「休暇取れそう?」
「取れるわよ。と言うか、真面目に出勤してるのは局長と貴女くらいよ?ティナ」
「えっ?」
確かに事務所はいつも静かだったけど……皆気ままに出勤してたんだねぇ。
前世はサラリーマンだったからなぁ。社畜精神が魂レベルで染み込んでるらしい。何だか凹む。
「それで、この食べ物を売る当てはあるの?」
「先ずは里の皆に紹介しようかと思ってる」
里の皆なら赤ちゃんの頃からの知り合いだ。アードにはたくさんの小さな里があって、その集合体が国家だ。いや、もう国なんて概念もないけど。
アメリカの合衆国制度に近い政治体制だ。頂点に女王陛下がいらっしゃるけどね。
ここ、ドルワの里にも里長が居る。千年の時を生きているらしいけど、そんなこと感じさせない人だ。
「重みがないみたいに言わないで欲しいな☆」
「そう言うところだよ、ばっちゃん」
「こんな乙女を捕まえてばっちゃんは酷くない?ティナちゃん☆」
「乙女(笑)」
「笑うな☆」
この、見た目はアード人のテンプレなんだけど瞳が星マークでキャピキャピしてるのがドルワの里長、ティリスさん。
私は親しみを込めてばっちゃんと呼んでる。里の子供は私だけだから可愛がられたしね。私も100年ぶりの子供らしい。
「でさ、ばっちゃん。お願いがあるんだけど」
「地球とか言う惑星のことかな?☆」
「相変わらず耳が早いね。そうだよ」
「上手くいってるのかな?☆」
「まだ取りかかったばっかりだし、何とも言えないかな。ただ、ファーストコンタクトは成功したと思う。で、お土産として食べ物をたくさん貰ったんだよね」
「ほうほう、地球の食べ物?どんな感じ?☆」
「食べてみる?取り敢えず魚類を中心に貰ってきたよ」
私が用意したのは冷凍のアジフライだ。レンジは無かったから初歩の保温魔法で暖めただけなんだけど、揚げたてと変わらないくらいの味が楽しめる。日本の冷食技術恐るべし。
他には……なんだろう、冷凍されたカボチャパイも持ってきた。アメリカの伝統料理らしいけど、冷凍でも美味しいから侮れない。
「どれどれー?☆」
取り敢えずアジフライとパイを食べるばっちゃん。食べ合わせがちょっと特殊だけど。
すると固まった。ん?
「ティナちゃん、これ幾らで売るつもり?」
「庶民が買える値段かな。高くても1000クレジットくらいで考えてる」
1クレジットが日本円だと一円くらいかな。値段は地球での値段を参考にしてる。輸送費?人件費?手間賃?全部私がやるから要らない。ゆくゆくは考えなきゃだけどね。
ちなみに医療シートが1枚1000クレジットだよ。と言うか、ばっちゃんの真顔始めてみた。
「あるだけ持ってきて。里の皆で全部買うから」
「毎度ありがとうございます~」
ばっちゃんの家にお邪魔して私物のトランクから詰め込んだ食料品の大半を出した。アリアが事前に決めた値段表や各種データを送ってくれたから簡単に受け渡しも終わった。
「はいこれ、前金ね。お小遣いみたいなものかな☆売り上げはちゃんと渡すから安心して☆」
「そこは信頼してるよ、ばっちゃん。って、大金だぁ!?」
30万クレジットをPONとくれたよ。うちの里長は豪快だ。
「これからも頑張ってねー?これ間違いなく売れるからさ☆」
「う、うん。ありがとうばっちゃん!」
予想外の大金が手に入った。フェルとお買い物でもしようかな。