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夜の帳が降り、衛星からの明かりが薄く照らすアードの夜。ドルワの里にある一軒のツリーハウス、ティナの家。その三階にあるティナの寝室。
「ふふっ、準備万端ですね?ティナ。こんなに固くなって」
「ダメだよ、フェル……私、まだ心の準備が……」
「大丈夫、私に任せてください。さあ、力を抜いて……いきますよ?」
「んっ……!」
淡い明かりに照らされた寝室のベッドで少女達の影が重なる。
「ふっ……んっ……ぁっ……」
「ティナ……どうですか?」
「んぅ……ぁっ!だめっ!フェル!そこはっ……ぁぅっ!」
「ふふふっ、ティナの弱いところ見付けちゃった……」
「ぁっ……んっ……!ふぅ……あっ!」
影が動き、ベッドが軋み、室内には少女達の甘い吐息が漏れる。
「あっ、ここ凄い……いきますよ?」
「待って!そこは……!ぁぅっ!……んんんーっ!……はぁ……はぁ……んっ……」
少女の影が激しく揺れ、そして脱力する。
「ふふっ……ティナ、可愛い……」
荒く息を吐く少女にもう一人の少女の影が重なる。アードでの夜は静かに更けていった。
おはよー、ティナだよ。いやぁ、スッキリした。えっ?昨日の夜何をしてたって?フェルが足のマッサージをしてくれただけだよ。
回復魔法を使いながらのマッサージは危険だね、うん。二度とマッサージチェアじゃ満足できない身体にされちゃったよ。
アードは科学と魔法が融合した超文明を築いているけど、変な拘りもある。まずこの天使のような薄くて露出が地味に多い衣服。まあ、翼があるから仕方ない部分はある。
でも重要なのは足元だ。何故か履き物だけは全く発展していなくてサンダルしかない。しかも高性能な科学の産物なんかじゃなくて、古き良き風習として草と革で作られた質素なものしかない。
これさ、地球で普及してる靴とは違ってゴムなんかも使われてなくて薄いから滅茶苦茶足の裏が痛くなる。なぜそこまでして拘るのか謎なんだよね。お陰で足の裏を痛めたり足を怪我したりは日常茶飯事だよ。
アードじゃ足のマッサージ屋さんが大流行してる。いや、根本的な原因を解決しようよ……石とか踏んだ日には悲惨なことになるからね。
同じような問題はリーフ人にもある。フェルも若草色のワンピースタイプの服に干し草を編んだ質素なサンダルだ。リーフ人はサンダルか、中には素足で出歩く人も居るらしい。ただ、リーフ人は種族的に足を圧迫されるのを嫌う傾向にある……らしい。
確かにフェルも足が汚れない場所だと素足で過ごしてることが多いんだよね。
……アードは足フェチの天国だった!?あっ、どうでも良いか。
私のサンダルはちょっと特殊、と言うか底は革だけど後は二ヶ所に水色のリボンを付けてる。先ずは足の甲の上で結び、後はもうひとつで踵を覆って足首で結ぶ。どうにも革が食い込んでいたかったし、せっかく女の子になったんだから可愛らしくしたい。
……まあ、ただのリボンじゃなくて滅茶苦茶頑丈で肌触り抜群な生地を使ってるんだけどね。
昨日ばっちゃんとの交渉を終わらせた私はそのまま家に帰って久しぶりのお母さんの手料理(魚料理)を堪能して、フェルと一緒に休んでた。
で、私の足がまるで棒みたいに固くなってたから治癒魔法を使いながらのマッサージを受けたって訳だよ。
フェルはテクニシャン(意味深)だった。
取り敢えず地球産の食べ物についてはばっちゃんに任せて問題ないと思う。うちの里なら、私のお土産って形で売れば皆警戒しない……はず。
「これが地球の食べ物か……いや、驚いたよ。こんなに美味しいものは食べたことがない。富裕層が食べる天然物に近いな」
お父さんが食べているのは酢漬けのニシンの缶詰だよ。ちょっと酸っぱいけど、塩焼きしか知らないアード人には新鮮な味覚になるみたいで絶賛されてる。
大半はばっちゃんに渡したけど、一部は家族用に残しておいた。蟹の缶詰とかどうかな。アードじゃ甲殻類は食べないから、未知の味として人気に……いや、前世でも蟹はダメだって人が居たからなぁ。
「地球の食べ物は面白いね。味に配慮しているところが特にだ」
「まだ地球には栄養スティックみたいなものは無いからねぇ」
「アレはもう少し味を工夫して貰いたいよ」
お父さんが苦笑いをしてる。まあ、仕方無いよね。無料で配布されてるけど、無味無臭だ。歯磨き粉付けてない歯ブラシを噛んでるような感覚だよ。美味しいなんて思えない。
まあ、無料だから文句は言えないけどさ。
「取り敢えずばっちゃんに任せたら、前金で30万クレジットをPONとくれたよ」
「里長が?あの人は見る目があるからね、投資した分はきっちり回収できると踏んだんだろう。それにこれだけ種類が豊富で味も良いんだ。先ずは里の皆を相手に商売かな?」
「うん」
「それなら僕もティナの活動に貢献できそうだ。どうだい?地球の人達は良い人達だったかな?」
「まだまだ始まったばかりだけど、良い場所で好い人達だったよ!お父さん達を連れていきたいくらいに!」
これは本音だ。ヘタに要人を連れていくより、私の身内を連れていくほうが難易度が低い。もちろんゆくゆくは、だけどね。
お父さんにお土産を渡して部屋に戻ると、フェルが待っていた。
「ティナ、お土産はどうでした?」
「うん、思った以上に好評だったよ。食べ物を選んで正解だったかな」
最初の予定だった娯楽品だったらこうはいかなかったと思う。
「臨時収入もありましたから、地球へのお土産も問題なさそうですね」
「ばっちゃんに感謝だよ」
昨晩お母さんに相談したら、医療シートの数を300枚用意してくれるようになった。これは素直にありがたい。前回は20枚くらいしか渡せなかったけど、今度は充分な数を渡せる。
医療シートには魔法も使われているから再現は無理だろうけど、いざと言う時に自由に使える高性能な医療アイテムは地球にとっても利益があるはず。
でもまだまだだ。最低でも1000枚単位で渡せないと交易にはならない。災害なんかで出る怪我人の数は、下手をすれば万単位だからね。
「トランクはどうしますか?」
「トランクは高いからなぁ」
何せ一番安いものでも10万クレジットはする。個人的に買うにしても、収入が増えてからじゃないと無理がある。
フェルと二人で頭を悩ませていると。
『ティナ、ザッカル局長より出頭命令が出ました』
どうやら私はゆっくりと過ごせる時間が少ないらしい。アリアからの連絡を受けてフェルと一緒に苦笑いを浮かべるのだった。