テラーノベル
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詐欺師(偽司祭)を追い払い、銀貨数枚を手に入れた僕たちは、一旦街の食堂で一息つくことにした。ルーシーは、僕のマジック……もとい、彼女の中では「謎の超常技術」に興味津々で、鼻息を荒くしながら注文したスープの前でノートを広げている。
「ねえショウ、さっきの『タネ』も気になるけど、まずはこの世界の常識を叩き込んであげるわ。いい?」
「ああ、頼むよ。郷に入っては郷に従え、っていうからね」
ルーシーは「コホン」と一つ咳払いをして、先生のように人差し指を立てた。
「まず、この世界の『魔法』。これは知識と魔力があれば、誰でも使えるものよ。文字を覚えるように知識を蓄え、心臓付近にある魔力を練って、それを『詠唱』という形で出力する。これが基本」
「なるほど。プログラミングのコードを入力して、バッテリーで動かすようなものか」
「……たとえが独特だけど、まあそんな感じ。だと思う。だからこそ、ショウみたいに喋りもせずに現象を起こす『無詠唱』は、本来なら国家魔導師レベルの変態……じゃなくて、天才の所業なのよ」
ルーシーはキラキラした目で僕を見つめる。いや、僕はただ磁石を抜いただけなんだけど。
「そして、もう一つ。魔法とは全く別の系譜にあるのが――『呪い』。これは……」
ルーシーが声を潜め、少しだけ顔を強張らせた。
「魔法と違って、魔力は必要ないわ。代わりに必要なのは血筋。『魔女』と呼ばれる一族にしか使えない固有の能力で、発動には必ず『代償』が必要になるの。例えば、自分の右手を火傷させる代わりに相手を――」
「――相手の右手を丸焦げにする。そういう等価交換、かしら?」
「そうそう、それ! ……って、ひゃあああ!?」
突然背後から聞こえてきた艶やかな声に、ルーシーが椅子から転げ落ちそうな勢いで飛び上がった。
僕が振り返ると、そこにはいつの間にか、一人の女性が立っていた。
銀髪をゆるく波打たせ、夜の闇を溶かしたような深い紫のドレスを纏った美女。
その存在感だけで周囲の空気が一変する。街の住人たちが遠巻きに「おい、まさか……」「伝説の……」と震えながら囁き合っているのが聞こえる。
「め、めめ、メリル様!? なんで不老不死の魔女がこんな辺境の街に!?」
ルーシーが生まれたての小鹿のようにガタガタと震えながら叫ぶ。メリルと呼ばれたその女性は、長い睫毛を伏せ、優雅に溜息をついた。
「なぁに、そんなに驚かなくても。……最近、なんだかお肌の調子が悪くて。化粧ノリが最悪なのよね」
「お、お肌の調子……?」
ルーシーが眉間にしわを寄せた。伝説の魔女がスキンケアの悩みで出張してくるのか?
「あなた、さっきの男の子よね。なかなか面白い『芸』を見せていたわね?」
メリルが僕の目をじっと見つめる。その瞳はどこまでも透き通っていて、マジックのタネさえも見透かされそうな、冷たくて鋭い美しさがあった。
「ショウ……マジシャンです。……それで、呪いの説明の続きを、当事者である『魔女』様に伺ってもいいでしょうか?」
メリルは「あら、度胸があるわね」と唇を吊り上げた。
「いいわ。暇つぶしに教えてあげる。……『呪い』は魔法みたいに甘くない。魔力というエネルギーを消費するんじゃなく、世界の理(ことわり)に直接支払うのよ。何かを得るためには、それに見合う何かを差し出す。それが自分の健康か、寿命か、あぁ、でも魔力を支払うこともあるわね。それで相手の魔力を空にすることもできる。あるいは――愛か」
彼女が「愛」という言葉を口にした瞬間、微かに空気が揺れた気がした。
「さて、ショウ君。私の『タネ』も暴いてみるかしら?」
不老不死の魔女と、現代のマジシャン。 最悪の出会いは、スープよりもずっと苦い「嘘」の香りがした。
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