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練習試合当日 朝 グラウンド横断幕が風にはためき、グラウンドは朝の光で白く輝いていた。
選手たちが次々と集まり始め、ユニフォームに着替えた姿が少しずつ増えていく。
翼はベンチの横でメガホンを並べながら、胸を高鳴らせていた。
いよいよ、竜皇高校硬式野球部として初めての公式戦——
練習試合とはいえ、甲子園への第一歩だ。
監督が全員をグラウンドに集めた。
まだ9人しかいないチーム。
みんな少し緊張した面持ちで輪を作った。
監督は資料を手に、静かに言った。
「今日の相手は二校だ。
恒星高校と大谷高校の一年生チーム。
それぞれ3イニングずつ、計6イニングの練習試合を行う」
その瞬間——
真琴の顔色が、はっきりと変わった。
「大谷……?」
小さな呟きだったけど、近くにいたアキはすぐに気づいた。
真琴の肩が、微かに震えている。
アキは自然に真琴の背中に手を置き、ゆっくりと摩った。
「真琴? どうした?」
真琴は唇を強く結んで、首を横に振った。
「……いや。なんでもない」
声は小さくて、明らかに無理をしている。
アキはさらに真琴の背中を優しくさすりながら、
心配そうに眉を寄せた。
大谷高校。
真琴が中学時代に3年間バッテリーを組んでいた捕手が、
今は大谷高校の1年生エースとして活躍している。
あの暴力と罵声の記憶が、すべて大谷のユニフォームに染みついている。
監督は真琴の様子に気づいていたが、
あえて深くは触れずに続けた。
「バッテリーはチームの心臓だ。
ここが完成しない限り、甲子園など夢のまた夢だ。
今日、しっかり実戦で試してくれ」
真琴は拳を強く握りしめ、
地面をじっと見つめたまま小さく頷いた。
アキは真琴の肩を軽く叩いて、
低く、でもはっきりと言った。
「俺がいる。
今日も、全部受け止めるから」
真琴は一瞬、息を詰めた。
それから、震える声で小さく答えた。
「……うん」
翼は少し離れたベンチから、その様子をじっと見ていた。
タクが隣に立って、翼の肩に手を置く。
「真琴……大丈夫かな」
タクは静かに頷いた。
「アキがいる。
あいつ、意外と真琴のことをちゃんと見てる」
翼は小さく息を吐いた。
「うん……
今日、みんなで支えよう」
グラウンドに、試合開始の緊張がゆっくりと広がっていく。
真琴のトラウマが、今日、再び試されることになった。
でも、その隣には、
昨日までとは少し違う温度で立っているアキがいた。