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……痛い。いったい、何なんだ? この痛みは。
鎧《よろい》みたいな物を身に纏《まと》ったやつにハグされてるような感じだな、これは……。
うーん、まあ、とりあえず起きてみるか。
ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)は暗闇に差し込んでくる一筋《ひとすじ》の光に向かって、手を伸ばした。
*
「……う……うーん……こ、ここは……」
彼が目を覚まして最初に見たものは見慣れた天井だった。
「うーん、ハルキと話した後の記憶がないな。いや、待てよ。たしか、俺はハルキに体を預けるように寝ちまって」
その時、彼は背後から何者かに、きつく抱きしめられた。
「痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 背中になんか刺《さ》さる! 背中になんか刺さる!」
その声で緑色の瞳と青い長髪とほぼ全身を覆《おお》っている藍色に近い青色の鱗《うろこ》が特徴的な美少女……いや、美幼女『ハルキ』(青龍の本体)が目を覚ました。
「……う……うーん……どうしたのー? ナオトー。怖い夢でも見たのー?」
「いや、別に怖い夢は見てないぞ。それより、今すぐ俺から離れてくれ! お前の鱗《うろこ》が背中に当たって、ものすごく痛いんだよ!!」
ハルキはまだ起きて間もないため、動きが鈍《にぶ》いようだ。
それに睡魔《すいま》が彼女を深い眠りへと誘《いざな》おうとしているため、彼女は二度寝したくてたまらない。
「えー、嫌《いや》だよー。ナオトを抱きしめてないと眠れないもん」
「俺はお前の抱き枕じゃない! と、とにかく早く俺を解放してくれー! 痛すぎるからー!」
彼は彼女から離れようと試《こころ》みるが、彼女はそれを許してはくれない。
「ダーメ。ナオトは私と一緒に居《い》ないといけない運命なのー」
彼女は彼の肋骨《ろっこつ》が折れそうになるくらいまで強く抱きしめた。
そのせいで彼は抵抗《ていこう》しても、しなくても地獄を味わうことになることを悟《さと》ってしまった。
「誰かー……助けてー……。痛すぎて死んじゃうよー」
彼が今にも死にそうな声で助けを求めると、彼女は彼の左耳に顔を近づけた。
「ナオト、少し静かにして。お願いだから」
「ひゃっ!? い、いきなりなんだよ! びっくりさせるなよ!」
彼のその反応で彼の弱点に気づいたハルキは、彼のことをいじめたいと思ってしまった。
「あれー? どうしたのかなー? 私、何かおかしなことしたかなー?」
彼女がそう言うと、彼は彼女に悟《さと》られないように話を逸《そ》らす。
「ん、んー? いったい何の話だ? それより、そろそろ個人面談を……」
「ねえ、ナオトー。今、この部屋には私とナオト以外、誰もいないよね?」
「ん? あー、まあ、そうだな」
「私たちの邪魔をするような人は、みーんなお茶の間にいるし、みーんなナオトの邪魔をしないように、おとなしくしてる。これがどういう意味か分かるー?」
「さ、さぁ? どういう意味だろうな。俺にはさっぱり分からな……」
「本当は分かってるよねー? 分かってないフリをしてるだけだよねー?」
「そ、そんなことないぞ、俺は本当に何も……」
「もうー、ナオトの意気地《いくじ》なしー。はぁ、分かった、もういいよ。ナオトの体に直接|訊《き》くから」
「えっ? おい、ハルキ。それって、どういう……」
彼は最後まで言い終わる前に、何かの気配を察知した。彼の本能が身の危険を教えてくれたのである。
しかし、一足遅かった。
「つーかまえたっ!!」
「……なっ!!」
彼の左耳を甘噛みしたハルキは、自分の口の中にある真っ赤な生命体で彼の左耳をペロリと舐《な》めた。
「くっ! お、おい、ハルキ。やめろ……やめてくれ。お願い……だから」
「えー? 何ー? よく聞こえないなー。もっと大きな声で言ってよー」
「そうしたい……けど、お前が……俺の性感帯を執拗《しつよう》に舐め回すから……無理、なんだよ」
「へえ、そうなんだー。左耳はナオトの性感帯なんだー。ということは、今ナオトはすっごく気持ちよくなってるってことだよね?」
「そんなことは……ない! とにかく、一旦、離れろ!」
彼が彼女の顔を自分の左耳から遠ざけようとすると、彼女は舌をミミズのように細くして、それを彼の左耳の奥まで移動させた。
「……っ!? お、おい! ハルキ! それは、ダメだ! やめてくれ! お願いだから!」
彼女は舌を口の中に戻すと、彼の左耳の耳元でこう囁《ささや》いた。
「じゃあ、私の言うこと聞いてくれる?」
「そ、それは俺にできることか?」
「うーん、どうかなー。まあ、やろうと思えばできると思うよー」
「そ、そうか。じゃあ、それをしている間に、自己紹介してくれ」
「うん、いいよー。じゃあ、始めよっかー」
こうして、彼はハルキに体を好きなようにされてしまうという運命に抗《あらが》うことができなくなってしまったのである。