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いつからだろう。学校が楽しくなくなったのは…。
その理由というものは思い出したくもないが、明確に思い出せてしまう。
私の名前は室城浜(むろばま)氷衣(ころも)。今年から亀池学園の高校1年生となった。
世間では「華の高校生」なんて呼ばれたりもする、人生で1番か2番目に楽しいとされている時期。
しかし今のところ私には友達がいない。登校し、教室に入っても誰も「おはよう」とか声をかけてこない。
席に座るまで1人。というか席に座ろうが1人。
前の席の子も隣の席の子も後ろの席の子も、高校で新しくできた友達の元へ集まっている。
孤立無援。きっとそれはみんなが私の感情がわからなく、不気味に思っているからだろう。
私はあることがきっかけで、人前で感情を出すことを抑えて生活している。
教室の前のほうでは、このクラスの陽キャラが集まっていた。
亀池学園では入学、クラス分けが発表された後、クラス毎にお世話する亀(本物)が割り当てられる。
1年間、クラスの全員持ち回りでその亀のお世話をする。それができないとこの高校ではやっていけない。
そういう縛りがあるため、その分校則は緩い。
教室の前のほうで集まっている陽キャたちも、茶髪はもちろん、金髪もいれば青髪なんかもいる。
白ギャルはインナーカラーでピンクを入れていたり、毛先だけ金髪にしていたりとやりたい放題状態である。
その中でもやりたい放題で、クラス1、いや、学年1、いや、亀池学園1
いや、日本の、いや世界の高校生史上1番派手な髪をしているんじゃないかと思うのが
茶礼(さら)王時(おうじ)という男子生徒。
前髪の中央を白にしていて、右側をピンク、左側を黄色にしている。
3色ヘアーなんて二次元でも聞いたことがない。さらにチェーン…。なんていうんだろう。
氷衣はスマホを出して、検索エンジンHoogle(ホーグル)の検索欄に
Hoogle「メガネ チェーン 名前」
と入れて調べた。
あ。グラスコードっていうんだ。グラスコードをしたメガネをしている。
そして耳にもピアスがすごく開いている。茶礼くんは言わずもがな、クラスのトップに君臨している。
白ギャルがいる陽キャ女子グループも朝から賑やか。
私はあんなグループと関わることはないんだろうな。と自分でも思うが、意外に思われるかもしれないが
過去の私のままだったら、あのグループの一員でもおかしくはなかったのかもしれない。と思う。
思い出したくはなかったが、つい掘り起こされてしまう記憶。
〜
氷衣は小さい頃から、喜怒哀楽がわかりやすい女の子だった。笑うと目が三日月形になり
目が無くなる、クシャッっとした笑顔が可愛い明るい女の子だった。小学校のときは友達が多かった。
女の子をまとめるような、クラスの中心的なポジションになることも多かった。
それは中学生になっても同じだった。明るく、誰にでも分け隔てなく接する人気者。
氷衣自身はカーストなんてあるとも思っておらず、気にもしていなかったが
仮にカーストというものがあれば、氷衣は上位にいた。陽キャグループとよく仲良くしていた。
すると自然と男子の陽キャグループとも関わるようになる。
氷衣は、本当に、なんの気もなしに男子と話していたのだが
とある男子が氷衣のことが好きらしい。という噂が回りに回ってきた。
氷衣はそのことを知らなかったのだが、氷衣と仲が良い陽キャグループの女子にもその噂は届いた。
あろうことか、そのグループの中に、氷衣のことが好きらしいという男子のことが好きな子がいた。
そんなことは梅雨知らず、いつも通り登校し、氷衣のことが好きだという男子とも笑顔で話して
いつも通り、仲が良い陽キャグループと合流した。いつも通りの日々が始まる。…はずだった。
「ころ(氷衣のアダ名)ってさー。あんま笑わないほうがいいよ。笑顔可愛くないし。ね?」
という言葉をかけられるまでは。
…え?
氷衣はその言葉を飲み込み、理解するまで時間がかかった。
「ね?」
その女の子が周囲に同意を求める。
「まあ…。そうかな?」
「ちょっと笑顔がわざとらしい、っていうか」
「それ!」
今まで仲が良く、これからも楽しく中学生活を送っていけそうだ。と思っていたのに
みんなからそんなことを思われていたなんて考えもしなかった。
「え…ええ、そ、そうかな?」
そのときの笑顔は、氷衣自身も引き攣っていたのがわかった。
「それ!その笑顔!マジやめたほうがいいよ。
ころ(氷衣のアダ名)はこれからクール路線で行こう。うん、そうしよう」
その子からしたら、自分の好きな男子が、これ以上氷衣のことを好きにならないように。という
ちょっとした軽い一言だったのかもそれない。しかし氷衣にとっては笑顔を封じる重い鎖となった。
#ヒトコワ
それからというもの、氷衣は人前ではなるべく笑わないように心がけ、笑顔が徐々に減っていった。
しかし元々喜怒哀楽がわかりやすい氷衣。
笑顔はなるべく出さないようになったが、怒ったときなどは、わかりやすく怒った顔になる。すると
「ころ(氷衣のアダ名)って怒った顔怖いよ。最近全然笑わないし」
自分が「笑わないほうがいい」と言ったのをすっかり忘れている女の子が言い
それからあまり怒った顔も表に出さなくなった。
喜怒哀楽の喜と怒と楽を出さなければ、学生生活においては無表情で過ごすのも同じ。
無表情の氷衣を次第に周囲は気味悪がり、友達は離れていった。
〜
そんな忌まわしい記憶を飛ばすように左右に顔を振る。
大丈夫。私には友達兼恋人がここにいるんだから。
と氷衣はスマホをつける。アイコンをタップし表示されたのは
「オレとトランプしよ?〜すべてが新鮮な転校生 ババ抜き編〜」
というタイトルとイケメンのキャラクターたちのイラスト。
このゲームは通称「オレトラ」で有名な乙女ゲーム。
乙女ゲームとは、ゲーム内に出てくる複数の男性を“恋愛的な意味”で落とし
恋人になるのが目的の、(主に)女性向けの恋愛ゲームである。
「オレトラ」は元々、動画配信サイト「MyPipe」で始まったもので
それが爆発的な人気となり、正式にゲームとしてリリースされた。
従来の乙女ゲームと同じく、出てくる男性キャラの好感度を上げ、攻略していくのだが
従来の乙女ゲームと違うのが、攻略終盤、そのキャラとトランプゲームをすることになるという点。
シリーズは「ババ抜き編」や「大富豪編」など、ゲーム毎に分かれており
キャラ毎に、負けたらいいのか勝ったらいいのか、そこが肝となる。
オラオラ系のキャラは基本こちら側(プレイヤー側)が負けて
「…悔しいけどオレの負けだ。○○(プレイヤー名)の言うこと1つだけ聞いてやる」
となり
「じゃあ、私と付き合って」or「ジュース買ってきて」
など選択肢を選ぶことになる。
攻略キャラとトランプゲームができる時点で好感度は高いのがだ、付き合えるかどうかはわからない。
これまでにないシステムの乙女ゲームが反響を呼び、今では数多くのシリーズがリリースされており
そして「ワタシとトランプしない?」通称「ワタトラ」というギャルゲーまで発売されている。
氷衣が言う「友達兼恋人」というのは、その「オレトラ」の攻略キャラクターの1人である。
氷衣は「LOAD」ボタンをタップする。
あぁ…白城(はくじょう)くん…
画面に映ったのは黒髪の制服姿の爽やかイケメンのキャラクターのイラスト。
名前は白城(はくじょう)英守(えいす)。ポジションは王子様キャラ。
氷衣は中学で、外にいるときに表情を出さないようになって友達がいなくなってからというもの
学校の空き時間、休みの日など、そのほとんどの時間をゲームに注いだ。
FPSもやった、RPGもやった。その中でもハマったのが乙女ゲーム。
数々の名作といわれる乙女ゲームもプレイしたし、王道の高校生物もやったし
警視庁の警察との乙女ゲームやファンタジー系の乙女ゲームなど、変わり種もいろいろやった。
数々の乙女ゲームをプレイしてきて氷衣が気に入ったのが、王子様系のキャラクター。
新作をプレイするときは、まず初周は流れに身を任せてプレイをし
各キャラの特徴などを把握し、ノーマルエンドの回収。次に王子様系のキャラを攻略にかかる。
王子様系キャラとのエンドが見れたら他のキャラの攻略にとりかかる。
そして最後、〆(しめ)として王子様系キャラをもう一度攻略して終わりにする。それがいつもの流れ。
今はまさに「オレトラ」の「〜すべてが新鮮な転校生 ババ抜き編〜」のすべてのエンドを見終え
〆の王子様系キャラの攻略の最中。
昨日サティスフィー版の「オレトラ」区切り悪かったから区切りいいところまでって思ってプレイしたら
結局攻略まで行っちゃって、寝たの4時とかになっちゃったんだよなぁ〜…。
というかシンプルに神経衰弱が難しかった…。眠っ
と思いながら大きなあくびが出そうだったので、手で口元を隠して大あくびをした。
「オレトラ」シリーズには乙女ゲームには珍しい「難易度」がある。
「Normal(普通)」だとトランプゲームのトランプが固定となる。なので1回覚えて攻略を考えることができる。
しかし「Hard(難しい)」の場合、トランプゲームのトランプが毎回ランダムとなる。
たとえば神経衰弱の場合、「Normal」だと、位置が変わらないので
覚えれば、なんなら写真を撮ればパーフェクトゲームを達成することもできるのだが
「Hard」の場合は毎回ランダムになるので、しっかりとした神経衰弱をしなければならない。
しかし「Hard」の場合しか見れない1枚絵というものが存在するので
「オレトラ」プレイヤー界隈では「Hard」一択なのである。
ま、そこがおもしろいんだけどね
と思って、脳内だけでニヤけていると担任の先生が入ってきて
朝のホームルームが始まるということでそれぞれ席に戻った。
朝のホームルームが終わり、1時間目の授業も始まった。
眠気と闘いながら2時間目までの授業を終えたが、そこで眠気のピークがやってきた。
次の授業まで少し寝よう…。みんなのイスの音とかで…起きれる…で…しょ…
瞼が重力に負けてその瞳を隠した。…自然と、ゆっくりと瞼が開く。
体感で言えば、眠りに落ちて次の瞬間目が開いたような感じ。
ボヤけた視界が広がる。自分の腕、制服の袖、学校の机特有の匂いに、机の木目。
…あぁ…みんなのイスの音の前に起きれた…。偉いぞ私
なんてボヤァ〜っとした頭で考えながら顔を上げる。
…え?
ボヤけた視界でもわかった。ピンクと白と黄色の髪。
え?私の前の席は整井(ととのい)さん。ミルクティー色の髪の、そもそも女の子だ。でも今目の前にいるのは
と思っているうちに、視界が晴れ
「お。起きた」
その声の主の顔がハッキリと見えた。氷衣の目の前にいたのは王時だった。
王時は窓側の壁を背もたれにして寄りかかり、氷衣が顔を上げると顔を氷衣のほうへ向けて微笑んだ。
「え。あ」
「おはよう」
「あ、おはよう、ございます」
「なぜに敬語」
と笑う王時。
いや、話したことほぼないし
と思う氷衣。と同時に
この人は私になにか用なのだろうか…
と思うが、それは聞けなかった。しばらく沈黙が訪れる。
「…え。オレ待ち?」
と王時が自分を指指す。
「え。あ…」
と言いながら初めて斜め前の席に視線をやった氷衣。誰もいない。
その前の席に視線を移す。誰もいない。後ろを振り返る。後ろの列誰もいない。
「…え?」
教室には氷衣と王時以外人がいなかった。
…お?夢か?夢の中なのか?夢だとしたらなんで茶礼くんが出てくるんだ?
あぁ、派手でチャラいからか。印象に残りすぎてるんだ。そりゃそうだ。街中ですれ違っても覚えてるわ
と思う氷衣。氷衣の様子に
「あれ?もしかして知らない感じ?」
と言う王時。
「今日の3時間目、移動だよ?」
と続ける。
・(てん)・(てん)・(てん)
「えぇ」
驚いてはいたものの、感情を出さない癖がついており
「それ驚いてんの?」
と王時に言われる。
「あ、はい」
「室城浜(むろばま)さんってクールだよね。ポーカーフェイス」
と言う王時に
あ、私の名前知ってたんだ
と思う氷衣。
「移動教室のこと知らなかった?」
「いや、知ってはいたんですけど、忘れてました。起こしてくれる友達も、いない、ので…」
と自分で言ってて勝手に傷つく氷衣。
「じゃ、今度はオレが起こしてあげるよ」
「あ、どうも…」
「まかせろ」
と言うときに右手を胸にポンッっとあてようとして、右腕を動かしたとき
右腕の肘の内側、肘部管(ちゅうぶかん)という部分の皮膚の付近の尺骨神経が刺激され、痺れるという
いわゆる「ファニーボーン」と呼ばれる現象が起こった。
「いった!待って!ハニーボーン!」
※「ハニーボーン」ではなく「ファニーボーン」です。
「ハニーボーン打った」
※「ファニーボーン」は痺れる現象のことで、部位の名称ではありません。
「あっ、ズウィ〜ンってなってる。ズウィ〜ンって」
と右腕を伸ばしながら、左手で右肘を下から触り右腕を支えるようにする王時。その様子を見て
「…ふっ」
思わず笑ってしまった氷衣。しかしすぐに口に手をあてて、笑顔から真顔に戻す。
しかし、王時は痛がりながらも、その一瞬の氷衣の笑顔を見逃さなかった。
「…いってぇ〜…」
と王時は右肘を摩りながら
「室城浜さん、なんでもっと笑わないの?」
と言った。その瞬間
見られた
という思いと
気持ち悪いって思われる…最悪だ…
と過去の言葉たちやトラウマが頭を駆け巡る。友達がいないとはいえ
周囲には無害で、空気のような存在だったのに、笑顔が気持ち悪いと知られて
それがよりにもよってクラスの中心人物に知られて、もしそれが周囲に知れ渡ってしまったら
クラスメイトから陰で笑われ、静かな高校生活すら送れなくなる。と思っていたら
「めっちゃ可愛いのに」
という王時の一言で、頭に駆け巡っていた過去の言葉たちやトラウマ
最悪の未来予測もパッっと弾けるように消えた。
「え…」
王時を見ると、いまだに肘を折り曲げて痛がっていた。
「あぁ〜…。ようやく治った」
と言った後、氷衣のほうを見て
「んじゃ、教室移動しますか」
と何事もなかったかのように笑顔で言った。
氷衣は授業の用意をして、王時の後をついて教室の出入り口まで行く。
すると王時がスライドドアを開き
「なんか誰もいない教室ってちょい怖いよね」
と言う。
「た、たしかに、そうですね」
と言いながらペコッっと頭を下げて先に教室を出る氷衣。
「敬語」
と笑いながら氷衣が出た後で王時も教室を出てドアを閉める。そして廊下を2人で歩く。
「他のクラスは授業中。なんか悪いことしてる気分だね」
と言う王時。
ま、本当に悪いことはしてるんだよね…遅刻だし…
と思う氷衣。そう思った後すぐに疑問が浮かんだ。
私は寝てたし、起こしてくれる友達がいなかったから移動教室に気づけなかったわけだけど
王時を見る氷衣。
「やっぱ2、3年って怖くて感じるよねぇ〜。「なんだその髪色!ちょっと来いよ」的な感じで
呼び出されたり」
なんて呑気に言う王時。
茶礼くんは私と違って友達もたくさんいるし、寝てたら起こしてくれるわけで…。なんで教室にいたんだろう…
と王時を見ながら思う氷衣。そんなこんなで移動教室の教室前についた2人。王時がドアを開けて先に入る。
「遅れましたぁ〜」
と明るく言いながら入る王時。
「茶礼。遅すぎるぞ」
と先生に言われる王時。
「さーせんさーせん」
先生が王時の後ろの氷衣を見つける。
「あぁ、いなかった室城浜か。なんで遅れた?」
と先生に言われて、ドキンとする氷衣。先生に怒られる恐怖と、クラスメイトの視線が集中している緊張。
それに遅刻した理由が理由だけに言い出せない。
なにか…無難な言い訳を…
と下を向いて考えていると
「いやぁ〜、実はオレのプリント探しを手伝ってもらっててぇ〜」
と王時が言った。
え?
と思い顔を上げる。
「プリント探しを?」
と言う先生。
「そうなんですよぉ〜。室城浜さんは時間に間に合うように移動しようとしてたんすけどぉ〜
プリントどっかに落としたのかなぁ〜的な感じで、周りに頼めるのが室城浜さんしかいなくて
んで、手伝ってもらってたらこんな時間に」
「さーせん」みたいな表情をする王時。
「まったく。クラスメイトに迷惑かけるな。2人とも早く座りなさい」
と先生に言われて
「はあぁ〜い」
席につく王時と氷衣。
プリント取りに戻ってきてたのか…。
私寝てて遅れただけなのに、なにも言えなくて茶礼くんのせいにしてしまった。あとでお礼言わないと
と思うのと同時に教室から移動教室の教室までの王時の言動に、どこか既視感を覚えた氷衣。
授業中ずっとそれを考えていた氷衣。授業が終わり、移動教室の教室から自分たちの教室に戻る。
氷衣は友達がいないので、もちろん1人で帰ることになる。
1人ポツポツと帰っているときに、ふと思い出した。
そうだ。前プレイした「オレトラ」の王子キャラの言動と似てる
そう。既視感を覚えたのは、以前氷衣がプレイした「オレトラ」シリーズの
氷衣が好きな王子様キャラの言動に似通っていたからだった。
氷衣は頭の中ですべてを思い返し、王時と重ねてみる。
シーン1(オレトラの場合):ヒロイン(プレイヤー)と王子様キャラとのデートのとき
王子様キャラは出口のドアを開けてくれて
ヒロイン(プレイヤー)が先にお店を出る。それをさりげなく行う。
(王時の場合): 王時がスライドドアを開き
「なんか誰もいない教室ってちょい怖いよね」
と言う。
「た、たしかに、そうですね」
と言いながらペコッっと頭を下げて先に教室を出る氷衣。
さりげない…
シーン2(オレトラの場合):ヒロイン(プレイヤー)と王子様キャラが、移動教室の授業のとき
少し時間を空けて2人きりになり、誰もいない教室でキスを交わした後
2人で手を繋いで移動教室の教室へ移動したとき
本来なら王子様キャラがドアを開けて、ヒロイン(プレイヤー)を先に
外に出てもらったり、入ってもらったりするはずなのだが
そのときは、王子様キャラが先に教室に入った。
それは遅れて入ってヒロイン(プレイヤー)が
最初に注目を浴びないため。そして最初に怒られないためだった。
(王時の場合): 移動教室の教室前についた2人。王時がドアを開けて先に入る。
「遅れましたぁ〜」
と言いながら入る王時。
「茶礼。遅すぎるぞ」
と先生に言われる王時。
同じだ…
シーン3(オレトラの場合):修学旅行で王子様キャラとヒロイン(プレイヤー)が
自分たちの班から抜け出して2人きりで楽しんだ後
王子様キャラの班のメンバーと
ヒロイン(プレイヤー)班のメンバーがホテルに帰っているのに
2人は帰るのが遅くなり、先生にバレて呼び出されたとき
「先生すいません。妹のお土産をと思って
でもなにがいいかわからなかったので、お土産選びを手伝ってもらってました」
とヒロイン(プレイヤー)がなるべく怒られないように話を持っていってくれた。
(王時の場合): 「あぁ、いなかった室城浜か。なんで遅れた?」
と先生に言われて
「いやぁ〜、実はオレのプリント探しを手伝ってもらっててぇ〜」
と王時が言った。
「プリント探しを?」
と言う先生。
「そうなんですよぉ〜。室城浜さんは時間に間に合うように移動しようとしてたんすけどぉ〜
プリントどっかに落としたのかなぁ〜的な感じで、周りに頼めるのが室城浜さんしかいなくて
んで、手伝ってもらってたらこんな時間に」
「さーせん」みたいな表情をする王時。
同じだ…。…同じか?
たしかに言動は似ていたが、明らかに違う部分があった。
それは「オレトラ」での王子様キャラは、皆一様に黒髪で爽やか。
ピアスはしている場合としていない場合があるが、ピアスはしていても耳たぶに1つずつ。
しかし王時は三色の髪に左右色の違うカラコン、グラスコードつきのメガネに腰パン
ピアスは「何個開けてんの?」というほど多い。ドがつくほどチャラい。清楚とは真反対の位置にいる。
同じだけど、全然違う
矛盾することを思いながら教室へと戻った。席に座ると
「室城浜さん」
と声をかけられた。
「は、はいっ」
ビックリしたが、表情には出さないように心がける。
声をかけてきたのは、氷衣の前の席の整井モナ。モナは後ろを向いて氷衣に話しかけてきた。
「ごめんねぇ〜、うちの茶礼王子が」
「え?」
「いやぁ〜、室城浜さんが遅れたのあいつのせいなんでしょ?いやぁ〜、申し訳ないっ」
と手を合わせる女子。
「あ、いや」
「実は私が寝てただけなんです。茶礼くんは庇ってくれただけで」
とか言ったらなんて思われるだろう。クラスでの居場所がなくなるだろうか。
いや、整井さんがそんな人だとは思わないけど…
と思っていると
「あ、私整井モナ。よろしくね?」
と謎に自己紹介をするモナ。
「あ、…知って、ます…」
「お?そお?ま、そりゃそうか。後ろの席だもんね?てか全然話したことなかったよね?
これからちょくちょく話しかけてもいい?」
と言うモナに
私に?無表情で会話もろくにできない私に?
と思うが、どこか嬉しくもあり、どこか緊張なのか、恐怖なのか、そんな感情も混ざっていた。
「あ、はい」
「マジ?やったぁ〜」
というモナと氷衣を遠目でみる王時。
「な?王時」
「…は?」
「いや聞いとけし。放課後ステ1((ステワン)ステージ1の略称)行って、ボウリングとかいいんじゃね?って話」
「あぁ」
と我に返った後
「でぇ〜もぉ〜、ネイル割れそうだしぃ〜」
と両手の指を広げてネイルを見せるようにして言う王時。
「王時は爪長すぎんだよ。切れよ」
「えぇ〜?可愛いじゃん。な?騎人(ないと)」
「え?まあ、いんじゃん?」
などと仲良しグループで話していた。そんなこんなで学校が終わった。
授業と授業の間の時間や昼休みなど、王時にお礼を言おうとしていた氷衣だったが
王時が1人になることはなく、結局
お礼…言えなかった…
言えなかった。
ま、明日隙を見て言おう。…覚えてるだろうか…。いや、茶礼くんの記憶力的にとかではなく
茶礼くんからしたら日常はおもしろいことで溢れてるんだろうから
あんな出来事なんて記憶力に留めるほどの出来事ではないんじゃないかという意味で…。
…というかお礼を言うにしても、私から話しかけないといけないという高すぎるハードルがあるの忘れてた…
なんて思いながら帰ろうと教室を出て行こうとしたら
「あ!室城浜さん!バイバァ〜イ!また明日ぁ〜!」
とモナが手を振るので、氷衣はペコッっと頭を下げて、小さく手を振って教室を出た。
家に帰り、手洗いうがいを済ませ、自分の部屋に行って着替え、テレビをつけ、電気を消し
カーテンを閉め、部屋を暗くし、テレビでサティスフィーを起動する。そして「オレトラ」を起動する。
「「オレとトランプしよ?〜部活の汗 神経衰弱編〜」」
各攻略キャラクターたちがタイトルコールをする。
「…いい」
タイトルコールだけで心が躍る氷衣。
「さてさて。昨日、いや今日か。今日の朝で九楼(くろ)くん攻略終わったから今回はぁ〜」
と考えながら進んでいく。するとすでに攻略した
今やっている「オレとトランプしよっ?〜部活の汗 神経衰弱編〜」の王子様キャラが出てきて
なぜか王時のことが思い返される氷衣。そしてモナの言葉も思い出す。
茶礼王子…か…
「おい王時!王時の番」
金髪の糸瀬(いとせ)昇有(のあ)に言われる王時。
「ん?あぁ」
スマホをいじっていた王時がスマホをポケットに入れて、ボウリングの球が出てくる装置の前に行く。
「王時そんな腰パンでよくボウリングできるな」
黒髪の瀬戸門(せと)騎人(ないと)が言う。
「まあなぁ〜」
振り返ってニコッっと笑う王時。
「よっ!腰パンマン!」
青髪の父野(ふの)聖最(せい)が言う。
王時は両手を握り拳にし、右手をピンと伸ばし、左手を曲げたヒーローのようなポーズをする。
「行け!せんとくん!」
と昇有が言うと
「あ?」
と怒った顔をする茶髪の木本(きもと)宣透(せんと)。
「こえぇって」
と言う昇有。
「宣透に「せんとくん」は地雷ワードだから」
と言う騎人。
「腰パンマンいきまーす」
と王時がボウリング球を持ちながら言う。
「よし!ピンを敵だと思え!」
「よっしゃー」
王時がボールを投げた。倒れたピンは6ピン。
「まあまあまあ、上場上場」
次、スペアを狙ったが、倒れたのは2ピン。合計8ピンだった。
「ヤベェ〜。腰パンマン、負けたわ」
「負けたな」
「腰パンマンの仇はオレが取る!」
と聖最が言う。
「聖最も腰パンマンだもな」
「本家腰パンマンには負けますぜ」
なんて楽しんでいるときにも、王時はとあることが頭の隅にあった。
それは移動教室の授業で騎人、聖最、昇有、宣透と一緒に移動しているとき
「あ、ヤベッ。プリント落ちた」
と言いながらプリントを拾う聖最。それを見て何気なく教科書、ノートをペラペラ捲る王時。
「…あれ?」
と王時が立ち止まる。
「どした?」
騎人も聖最も昇有も宣透も立ち止まる。
「え、待って」
と言いながら教科書とノートを捲る王時。
「プリント消えた」
「は?マジ?」
「バッグかな?机ん中?とりま取り行ってくるから」
と言って教科書とノート、筆箱を昇有に渡して
「持ってっといて!あと先生にプリント取り戻ってることも言っといて」
と言いながら、腰パンで走りづらそうに小走りで走って教室に戻った王時。
教室のドアを開く。すると窓際で寝ている女子が目に入った。
えぇ〜っと?室城浜さん?だっけ?整井の席があそこだから、たぶんそう
と思いながら教室に入る王時。自分の席に行って机の中とバッグの中を探す。
「あれ。ねえ」
今度はロッカーの中を探す。
「あ、あった」
他の教科の教科書と教科書の間に挟まっていた。そのプリントを持って氷衣の近くに寄る。
起こそうと思ったが、寝ている横顔が、あまりにも幸せそうで
気持ちよさそうに寝てるなぁ〜
と思い、起こすのが悪い気がして、起きるのを待つことにした。
プリントを四つ折りにしてお尻のポケットにしまい
氷衣の前の席、モナの席のイスに、窓際の壁を背もたれのようにして座る。スマホを出して、昇有に
王時「プリント見つかんねぇ〜」
と送る。
昇有「LIMEしてねぇで戻ってこいや」
と返ってきたので
「たしかに?」
と呟く。昇有に返信しようとして、ふと氷衣のほうを見る王時。
室城浜さんってあの無表情の人だよ、な?
席順を思い出す。モナがいて、その後ろに氷衣。
うん。整井が表情豊かだから落差すごいんだよな
と思う王時。そして昇有に返信をしようとしていたとき、視界の端で氷衣がムクッっと起きるのが見えた。
お。眠り姫が起きましたか
と思う王時。
「お。起きた?」
と声をかけた。
「え。あ」
「おはよう」
「あ、おはよう、ございます」
ひさしぶりに言われたな。「おはよう“ございます”」って
と思う王時。
「なぜに敬語」
と言ったものの、しばらく返答がなく
「…え。オレ待ち?」
と王時が自分を指指す。
「え。あ…」
と言いながらキョロキョロする氷衣に
小動物みたいだな
と思う王時。
「…え?」
と無表情だが、どこか戸惑った様子に
「あれ?知らない感じ?」
と言う王時。
「今日の3時間目、移動だよ?」
と続ける。しばらく沈黙があり
「えぇ」
と漏れ出たような声の氷衣。その様子を見て
「それ驚いてんの?」
と思ったことがそのまま口を吐いて出た王時。
「あ、はい」
あ、驚いてたんだ
と思いつつも
「室城浜(むろばま)さんってクールだよね。ポーカーフェイス」
ババ抜きとかやったらよゆー負けしそう
と思う王時。
「移動教室のこと知らなかった?」
「いや、知ってはいたんですけど、忘れてました。起こしてくれる友達も、いない、ので…」
と言う氷衣に
友達、いないのか。…たしかに、見るといつも1人でいるな
と思い
「じゃ、今度はオレが起こしてあげるよ」
と言う王時。
「あ、どうも…」
「まかせろ」
と言うときに右手を胸にポンッっとあてようとして、右腕を動かしたとき
右腕の肘の内側、肘部管(ちゅうぶかん)という部分の皮膚の付近の尺骨神経が刺激され、痺れるという
いわゆる「ファニーボーン」と呼ばれる現象が起こった。
「いった!待って!ハニーボーン!…ハニーボーン打った」
肘に来た衝撃で腰が浮く。悶える。
「あっ、ズウィ〜ンってなってる。ズウィ〜ンって」
と右腕を伸ばしながら、左手で右肘を下から触り右腕を支えるようにする王時。その様子を見て
「…ふっ」
と笑う氷衣。痛がりながらもその笑顔が目に入っていた王時。
氷衣はすぐに口元に手をやって隠してしまい、笑顔が見れたのは一瞬だったが
いつも無表情な氷衣が見せたその笑顔の時間が、スローモーションのように感じた王時。
「…また見たいな」
思わず呟く王時。
「え?なにを?」
と昇有に言われて声に出ていたことに気づく。
「お?もしやドタイプのセクシー女優でも見つけた?」
「お?マジ?名前教えて。オレも見るわ」
「違ぇわ」
「じゃ、なんだよ〜」
「え?」
少し考える王時。
「んん〜…。今はオレだけの特別なやぁ〜つ」
と笑う王時。
これは黒髪清楚な王子様キャラが好きな乙女ゲーマーな無表情の姫(氷衣)と
派手でチャラい王子(王時)との青春リアル乙女ゲーム。
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