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──秋晴れの空の下、小学校の運動場には賑やかな声が響いていた。
青組、赤組、黄色組、白組、それぞれの組が旗を掲げ、全力で競技に挑む。
コナンたちは青組で、もちろん灰原哀や少年探偵団も同じチーム。保護者席には阿笠博士、歩美の母親、元太の父親、光彦の姉、そして……服部平次の姿もあった。
「へっ……今日ばっかりは予定空けて正解やな」
そうぼやきながらも、服部はコナンの勇姿を目に焼き付けようと双眼鏡を持っていた。玉入れに徒競走、デカパン競争、台風の目。どの競技にもコナンは活躍していて、先生たちも青組の得点に歓喜していた。
そして運動会のトリを飾るのは、色別リレー。
「江戸川くん、リレーは後半で走るんだって!」と歩美が言った。
服部はそれを聞いて、
「よし、ちょっと今のうちに……」
と席を立ち、トイレへ向かった。
リレーが始まり、歓声が一段と高まる。
「いけー! 青組ー!」
コナンのバトンが渡る直前、服部はちょうど会場に戻ってきた。
(間に合うたけど……まだやな)
しかし次の瞬間、ざわめきと悲鳴が広がった。
「きゃあっ!」
「大丈夫!?」
「えっ、あれって……?」
保護者の1人が呟いた。
「青組の男の子、誰か転んじゃったみたい……」
服部は反射的に校庭へ目を向けた。先生たちが群がるその中心、ちらりと見えた小さな足。
「──工藤……!」
間違いない。あの靴、あの細い足。服部の身体は勝手に走り出していた。
「……どいてください!く、コナンくん!」
先生たちが顔を上げ、驚いたように声を上げた。
「君、誰かね?」
「かっ、……こいつの保護者です! コ、コナンくんは俺が運びます!」
担架が用意されていたが、服部はそれを断り、コナンをそっと抱き上げた。
「おい、工藤……しっかりせえ」
「……へへ……遅ぇよ、服部……」
眉間にシワを寄せていたコナンが、微かに笑った。
「な……お前…!」
「……ちょっと……待ってた」
その瞬間、服部の胸がきゅっと締め付けられた。
保健室までの道のり、服部はずっとコナンを抱えたまま。小さな身体がどれほど軽くても、その存在は重く、温かい。
保健室で氷嚢と湿布を用意してもらい、足を丁寧に冷やすと、養護の先生が言った。
「どうやら、くるぶしを捻挫しているようですね。しばらく安静が必要です」
コナンは軽く頷いた。服部はコナンの隣に座り、真剣な顔をしていた。
「なあ、ほんまに……何で押されるようなとこにおったんや。お前が走っとるとこ見たかったのに……」
「……うん、ごめん。……でも、来てくれたろ?」
「当たり前や。……あんな騒ぎ、嫌でも気づくっちゅうねん」
ふっと、コナンが笑った。
「……オレ……服部に運んで欲しくて、動かなかった」
「……お前なぁ……可愛いっちゅうねん笑」
服部は額をコナンの額に軽くくっつけた。
「お前がな、こんなちっちゃい体で無理ばっかするの、俺がどれだけヒヤヒヤしてるか……ほんまにもう……」
「……でも、好きなんだろ? 無茶するオレ」
「……好きや。……それでも、俺の前でだけは甘えろ」
「……ん。わかった。今だけ……甘えていい?」
「今だけちゃう。ずっとや」
そのまま、服部はそっとコナンの頭を撫でた。誰にも見られない保健室の静けさの中、二人だけの時間が流れていた。
そして、運動会の結果は……青組が優勝。
だがそれ以上に、服部の胸に刻まれたのは、あのときのコナンの笑顔だった。
「お前の笑顔が見れてよかった」
そのひとことに、全ての想いが詰まっていた。