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「なん、で…?」
先程まで時々ツッコミつつ、楽しそうにプランを聞いていたのと裏腹に君は揺れる瞳で問うた。
「なんで、って。もう決めたことだから」
「違うの。な…なんで、フェーズ3が無いような言い方なの…?」
フェーズ3。それは俺たちが活動を始める時に、2度目の区切りを着けた上で最後の幕にしようと話していたものだ。フェーズ3が終わったら、なんとなく各々で好きなように活動しようと決めていた。脱退していった元メンバーの彼らのように。でも勿論それは涼ちゃんがいる前提の話。状況は変わってくるから、とそのまま君に伝える。
「…そっか…」
「…今までは5人だから、3人だから取れていたバランスなんだ。2人だったらグループとは呼べない、から。若井も、サポメンも、みんな了承してくれた…。」
静かに聞いていた若井も苦しそうに頷く。1呼吸おいて涼ちゃん、と呼びかける。引け目からだろうか君は今にも泣き出してしまいそうだった。
「世間が忘れようとも、俺たちは絶対忘れないから」
事実ではあるが、口下手でこんなことしか言えない自分を恨んだ。それに、君はきっと涙が零れないように必死で発言できないだけでそういう問題じゃないと思っているはずだ。俺が謝るのも自分のせいだと考えるも禁止しているから、不穏さが残ったまま溜め込んでいる次の仕事へ向かった。
◻︎◻︎◻︎
あの時から元々の忙しさがぶり返し、場の雰囲気は良好だが上手くフェーズ3に着いて話せるチャンスは訪れなかった。若井と2人の時間が増えつつも、遂に涼ちゃん初のソロ雑誌撮影が行われる日がやって来た。3人で車で揺られるのも久しぶりだ。
「やっぱ緊張してる?」
「もう、昨日9時間しか眠れなかったよ。2人が居なくても上手に笑えるかな〜…」
「涼ちゃんいっつも13時間は寝るのにね。まあ大丈夫でしょ、今まで沢山のライブを色々あっても結局は成功させてきたじゃん」
ねえ元貴、と後ろから身を乗り出し、笑いかけられ頷く。ツッコミ不在かよ。すると君がなんか若井が最近妙に優しい、なんていじり半分で怪しんでいる。ミラー越しに確認すれば、本人は酷いなぁと苦笑いしているが実際そうだ。今日も本来涼ちゃん1人の予定だったが、若井が無理を言ってついて行こうという事になった。何故そこまでするのか理由を聞くと不安だからの一点張り。俺だって限られた少ない時間一緒にいたいのは勿論だが、流石に裏がある様に感じてしまう。
「では藤澤さん、こちらへどうぞお掛けください」
着いてすぐ、挨拶を終え楽屋に向かうとそう君は促される。緊張で強ばった顔がおかしくてニヤけてしまった。スタッフさん達は俺達が来るのはついさっき伝えられたようで、気まずそうにソファーを進めるか迷っている。と、すかさず若井が、
「あぁ、すみません。自分が無理言って来ただけなのでお構いなく」
とにこやかに言った。メイクさんはそれを聞いてほっとして君の髪をとき始める。パッと見気遣いに見えるが、俺の目には彼の行動が、優しいが怪しげな横顔が牽制として写った。わざわざした理由は知るよしもないけど、誰に対してかは考えずとも手に取るように分かる。
部屋の一角で静かに火花が散る。君が楽しそうに笑う声が一際大きく聞こえた。
暫くして準備をばっちり終えた君が立ち上がる。そして3人でメイクや羽が目立たないような衣装のコンセプトに合った、煌びやかだがどこかフェミニンで涼ちゃんらしいセットが用意されたスタジオに入る。ビジュが良すぎて何度か盗撮したのは、まだバレていないはずだ。
撮影が始まり、邪魔にならないよう端の方に2人で逃げていた。だが様子に気づいたカメラマンさんと監督に手招きされ戸惑いながら恐る恐る近づく。
「お2人が目に見えるとこに居た方が表情が自然なんじゃないかと思ったんだ。野次でも褒めでも、いつもの感じで周りから話しかけちゃってくれない?」
と説明され、それならと大きく息を吸う。
「よっ、ポンコツ最年長!!緊張して目が笑ってねえぞ!」
若井が一瞬ドン引きしたようにこちらを見るが、涼ちゃんが吹き出したのを確認して叫び出した。
「あれ藤澤さん、ソロ雑誌初めてですか?」
「凄いじゃないですか!ソロ雑誌で表紙なんて!流石メンバーで3番目に忙しいだけありますね!」
「…2人ともここぞとばかりに僕のこと弄るね!?」
流石にやり過ぎで怒られるかと思ったが、ちらりと見ると監督もカメラマンさんも大笑いしながら連写している。涼ちゃんも顔を顰めたり困った表情になったりするがさっきよりは笑顔が自然だ。
ふわり、と夢で見た美しい光景が重なる。あの時も、君は微笑んでいたっけ。
あぁ、結局俺はベタだけど君の笑顔が1番好きなんだな。
感傷に浸っていると、ぽかぽかと肩あたりを攻撃されているのに気付く。休憩に入って真っ先こっちに来たのか。もう〜、元貴も若井も弄りすぎ!そう言い不貞腐たが、耐えきれずにふはっと君は笑う。
「でも、ありがとね」
ドキッ、と。心臓が跳ねた。
決めた。人の良さは気付けるのに、自分への好意に疎い君だから。時間はかかるかもしれないけど絶対に、君にこの気持ちは伝えておこう。
そう決意し、3人でまたふざけながら楽屋に戻った。
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読んでくださりありがとうございます!
更新遅くなりました、しかも書きたい詰め込みすぎて少し長いです。さらにもりょきも全然無くて申し訳ないです。あと数話です、よろしくお願いします…汗
次も是非読んで頂けると嬉しいです。
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