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沙織は自分の軍服にも機能を付与すると、着替えを済ませた。
(魔法を付与したおかげで、めちゃくちゃ軽くて動きやすい……! うん。私ってば、良い仕事したわねっ)
紺と臙脂色の女性用軍服は、かなり洒落たデザインで、コスプレしたみたいに可愛かった。
男性用軍服を身に纏ったアレクサンドルとシュヴァリエは、それはもう目を見張るほどの佇まいだ。
(二人共……鼻血が出そうなくらいカッコいい……)
きっと、この国には素晴らしいデザイナーさんがいるのだろう。そんなことを考えていると――。
「一応、馬車ではなく馬を用意してあるのですが。サオリ様は……馬に乗れますか?」
心配そうに、ステファンが聞いた。
「乗馬は……したことが無いです。すみませんっ」
(一般庶民のJKだったものですから……。馬を見るのも動物園くらいですよ。私、使えない子だわ……)
「あの領地まで、馬車では時間がかかってしまいます。サオリ様は、私の馬に乗ってください。幸いこの軍服は、重さを軽減してくれる様ですので。二人で乗っても負担無くスピードが出せると思います」
シュヴァリエはそう提案してくれた。
「ええ、本当に驚くほど軽いですね」と、アレクサンドルからも納得のお墨付きで、二頭の馬で向かうことになった。
「シュヴァリエ、向こうに着いたら……僕、ステファンとして動いてくれ。アレクサンドル、シュヴァリエ、サオリ様を頼んだよ」
「「承知しました」」
そして、三人でオリヴァーの居るシモンズ領へと出発した。
◇◇◇
馬は、かなりのスピードで走っていた。
重力があまり掛からない状態にしているので、馬もかなり調子が良い様子だ。
沙織自身は――。
吹き抜ける風の中、シュヴァリエとの密着ともいえる距離感に少し戸惑っていた。シュヴァリエの前に乗せられているので、密着するのは当たり前なのだが。
(まあ、風は気持ちいいけど。普段は、リュカになったシュヴァリエを抱っこする側なのに……何だかドキドキしちゃう。早く着かないかしら……)
馬車だとどんなに急いでも、まる三日はかかる道のりだった。馬が潰れない程度の休息や、癒しをかけたりしながら、とにかく先を急いだ。
ステファンの研究室から遠く小さく見えていた例の山も、段々とハッキリした姿を現してくる。
「あの山が、ステファン様の……」
「――はい」
沙織の呟きに、シュヴァリエは短く返事した。
――いよいよ、三人はシモンズ領へと入って行く。
先に進むにつれ、そこはまるで戦地のような光景へと変わっていく。
鼻をつく血腥い風に顔を顰め……その惨状に胸を衝かれた。
(……なんて、酷い)
「もうすぐ、国境門が見えて来ます」とシュヴァリエは言った。
「オリヴァー達はどこに居るのかしら?」
「今は先ず、シモンズ辺境伯の砦に向かいましょう! 其処に、必ず指揮する者が居る筈です」
隣に並んだ馬から、アレクサンドルが言った。
「では、あの砦に向かいます」
シュヴァリエが見た先に――それは在った。
◇◇◇
砦の中へ向かおうと門に近づく。すると、二頭の馬に気付いた騎士達が、敵かと思ったのか……急いでやって来た。
だが、着ていた軍服を見てすぐに味方と判断し、奥へと通してくれる。
通された一室には、オリヴァーよりも筋骨隆々の逞しい男、シモンズ辺境伯が居た。
アレクサンドルを見て、辺境伯は鋭い目を大きく見開く。
「まさか! アレクサンドル殿下が、直々に御出でになるとはっ。私の力不足で……誠に申し訳ありません」
「そんな事はありません。今回は想定外の事態です。国の応援はまだですが、どうか私達にも一緒に戦わせてください」
「殿下、感謝致します!」
それから、アレクサンドルと一緒に居た、シュヴァリエと沙織にも気がついた。
「ステファン殿も、いらして下さったとは! ほう、そちらの方は……女性騎士とは珍しい!」
「初めまして、サオリ・アーレンハイムと申します」
「……サオリ殿? もしや、オリヴァーのクラスメイトの!?」
「あ、そうです。いつも、お世話になってます」
沙織の返事に、シモンズ辺境伯は更に驚き慌てる。
「なんと……!! 流石に、アーレンハイム公爵家のご令嬢にまで手伝っていただくのは……」
「あ、お気になさらず」
「……ですがっ!」
上から下まで沙織を眺めると、シモンズは困り顔になるが――。
「サオリ様でしたら大丈夫ですので。シモンズ辺境伯、指示を下さい」
辺境伯は半信半疑の表情で、アレクサンドルの言葉に渋々と頷いた。
「今、国境門と死の森の二手に分かれて騎士達を配置しています。魔物の多さが尋常ではありません。出来れば、其方に向かっていただきたい」
そうは言ったものの……チラチラとまだ心配そうに、沙織に視線を向ける。
(ま、仕方ないわよね。とりあえず、その前に!)
「辺境伯様、怪我人はどちらに居ますか? まず、そちらを治してから森に行きます」
「……治す? まさか、癒しが?」
沙織はニッコリと笑みを浮かべ、シモンズの言葉を肯定した。
辺境伯とその部下に連れられ、怪我人が収容されている場所へ行くと――。
あまりの怪我人の多さと、惨状に目を覆いたくなる。初めて目にした状況に、沙織も立っているのがやっとだ。
アレクサンドルも真っ青になり顔を背けた。
(でも……絶対、全員助ける! )
沙織は自分を鼓舞すると、大きく息を吸う。呼吸を整えると全身から魔力を解き放つ。
「全てに、癒しを!」
――部屋全体が光に包まれた。
怪我人の上に降り注ぐ、癒しの光。
それは、奇跡と呼んでもおかしくない光景だった。
その光景を目撃した、シモンズ、アレクサンドルはもとより、沙織をよく知るシュヴァリエまでも言葉が出なかった。
静寂を破ったのは――怪我が治った者達の歓声だった。
「では、さっさと森へ向かいましょう!」
未だ言葉を発さない男達に、沙織は元気に言った。