「はい、お茶でよかった?」
「あ、ありがとうございます」
ベンチに座る憧憬に自動販売機で買ったペットボトルのお茶を手渡す。
目を合わせずに小さく頭を下げた憧憬がペットボトルを手にして、下を向いてしまう。
制服姿ではない憧憬の姿は初めて見る。
襟付きのブラウスに、ワイドパンツにスニーカー。デザインは悪くないが、色がブラウン色で統一されていて、全体がぼんやりしている気がする。
ペットボトルの蓋に視線を落とし見つめる憧憬に声を掛ける。
「とりあえず自己紹介しよっか? 麻琴は花蓮麻琴。麻琴って呼んで」
「え、えっと、憧憬恭美です……」
「なんて呼んだらいい?」
「えっ、ああ、えっと……」
しどろもどろになる憧憬が時々横目でチラチラと私を見てくるが、私はニコニコ微笑み続け憧憬が答えてくれるのを待つ。
「きょ、恭美で……お願いします」
「うん、じゃあ恭美は麻琴に相談がありますってメッセージくれたけど、相談って何かな?」
恭美は下を向いて口をモゴモゴさせ、膝に置いた手の指で自分の足を掻く。
無言の時間が続くが、黙って待っているとやがて小さく開いた口からポツリと言葉が落ちる。
「わ、私でも、その……ミーチューブに投稿して、その、ミーチューバーになれる、なれますか?」
「恭美がミーチューバーに? うん、なれるよ」
「え?」
私の答えに目を大きくして驚く。このとき初めて私と恭美の目と目が合った気がした。