桃赤
青赤
あれから、どうやって家に帰ったのか覚えていない。
気づいたら自分の部屋のベットの上に膝を抱えて座り込んでいた。
ピコンとメッセージが届く音がして、光ったスマホに目を向けると青ちゃんから”ほんとにごめん”とだけ表示されていた。
あの優しい彼に襲われそうになった時の事がまたフラッシュバックして、涙がこぼれる。
俺が桃くんを好きなように、青ちゃんだって俺に真剣に好きだと伝えてくれた。
なのに、好意を卑下するような、拒絶するような態度を取ってしまった。
全部全部、自分が悪いと分かっているのに。
泣きたいのは青ちゃんなのに。
もう何が悲しいのか分からない。
「ふ….、ぅう」
真っ暗な部屋にしばらく情けない俺の嗚咽が響いていた。
―――
夏休みも半ば。
クーラーの心地良い風の音。
机に積み重なっているやりかけの夏休みの宿題。
俺は何をするでもなくただベットの上で時間が過ぎるのを待っていた。
….あれから青ちゃんと連絡を取ってない。
『青ちゃ、顔に砂が、』
『っ、!….大丈夫』
この間の部活で青ちゃんの頬に付いていた砂を払おうと伸ばした手を思いっきり避けられた事を思い出して胸が痛む。
何しろサッカー部は夏の大会があってピリピリしているし、青ちゃんも桃くんももちろんレギュラー入りしている。
夏祭りの日、あんなに険悪だった2人はプレイ中は双子のように息が合うものだから凄いものだ。
そんな事を考えベットの上でぼぉーっと白い天井を見上げているとぴんぽん、と家のチャイムがなった。
今家の中は俺一人だし、もしかして青ちゃんかも、とドタバタ階段を降りていくとそこには見慣れた顔ぶれがうつっていた。
「赤くん来たよ〜!」
「赤の家久しぶりに来たわ〜」
「赤、大丈夫…?じゃなさそうだね」
「紫ーくん….橙くん、黄くん」
扉を開けて安心したのか、張りつめていた糸が切れたのか、へなへなとその場に座り込んでしまう。
出迎えて早々泣き出す俺を見て、3人はオロオロしながら家の中に入ってきてくれた。
───
「そっかー、そんな事が….」
「青はスイッチ入ったら気持ちのブレーキ聞かんとこがあるからな〜」
「ホント、2人ともいつまでも餓鬼なんですから」
出来事の一部始終を話すと、困ったように唸る紫ーくんと、納得したように頷く橙くん、ちょっと怒り気味の黄くん。
リビングのテーブルの上には紫ーくんが用意してくれたレモネード。
黄くんに関しては涙で腫れてしまった部分を擦っちゃダメだよ、と優しくティッシュを渡してくれるし、橙くんは背中をポンポンさすってくれている。
俺の家なのに3人に俺がもてなされている?感じで申し訳ない。
「赤くんはさ、青ちゃんと桃くんどっちが好きなの?」
───そんなの分からない。
桃くんが好きだったはずなのに、青ちゃんのあの苦しそうな表情を見て何も分からなくなってしまった。
あの日から俺はずっと青ちゃんのことばっかり。
「どっちかちゃんと決めないと、2人とも傷つけちゃうよ?」
紫ーくんの言葉に俺は俯く。
そしてふと我に返った。
青ちゃんは俺を好きでいてくれているけれど、桃くんは俺の事は嫌いなのだ。
つまり俺が桃くんのことを好きでいるのは迷惑でしかない。
ストンと何かが胸に落ちてきた感覚だった。
紫ーくんは2人とも傷つけるなんて言ったけど桃くんに関しては俺の事でどうこう関係がないのだということ。
一人ぼっちだった俺に話しかけてきてくれた青ちゃん。
いつも誰よりもそばにいてくれた青ちゃん。
泣いている俺を慰めてくれた青ちゃん。
俺の事を好きだと言ってくれた青ちゃん。
「俺っ….まだよく分からないけど….青ちゃんに謝りたいっ….」
嗚咽混じりでそう言うと、3人は優しく笑って背中を押してくれた。
「じゃ、今行ってこなくちゃね」
「赤なら大丈夫やで」
「何かあったらすぐ駆けつけます」
その姿に泣きそうになって唇を噛む。
俺はホントにいい友達を持ったなと思う。
….巡り合わせてくれたのも彼だから。
───
「あらぁ、赤くんいらっしゃい」
「お、お邪魔します」
いつもとは違って深呼吸をしながら青ちゃんの家のインターホンを押すと、中から小柄な青ママが扉を開けてくれた。
「あの、青ちゃんは….」
「あの子なら部屋にいるんだけどねぇ」
相変わらず綺麗に片付けられている家の中。
夕飯をご馳走になっているリビングに通してもらいながら聞くと、彼女は申し訳なそうに言う。
「ごめんねあの子、赤くんになにかしちゃったでしょ?」
「ぇ….」
あなたの息子に襲われそうになりました、なんて口が裂けても言えない。
青ママは俺にとって家族みたいなものだし、大好きなのだ。
俺が固まっていると彼女は俺の両手をぎゅっと握って眉を下げた。
「私がこんなこと言うのはあれなんだけど….青のこと嫌いにならないで欲しいの」
「!!なるわけなりません!!」
思わず手を握り返して即答すると青ママは頬を緩めて安心したように笑った。
「赤くんが家に来るようになってから….あの子本当に楽しそうで….」
赤くんの話ばっかりするのよ、
また、泣いてしまいそうになる。
───
「ぁ….青ちゃん….いる?」
緊張しながらノックをして問いかけると部屋の中からドッタンバッタンと物音が聞こえゆっくり扉が開いた。
そして少し髪に寝癖のついて疲れたような彼が驚いたように顔を出す。
「赤くん….」
「ごめん俺、青ちゃんのことっ」
口を開いた瞬間、強引に部屋に引きずり込まれ背後のドアをがちゃんと閉められる。
そして両手首を捕まれドアの壁に押し付けられた。
「あお、ちゃ」
「ははっ….w馬鹿なの?赤くん」
そう乾いた口調で笑う彼の表情は伸びた前髪で伏せられ見えない。
「襲われそうになった男にわざわざ会いに来るなんて….」
「っ….」
「密室に二人きり。僕がこのまま組み敷いて口を塞げば華奢な赤くんなんて簡単に犯せるんだよ?」
顔を上げた彼の表情は強ばっていて俺を掴む手は少し震えていてまるで….
「….青ちゃん、わざと俺に嫌われようとしてるでしょ」
「は….?」
───
泣かせてしまったあの日から、赤くんに触れるのが怖くなった。
あの日無理やり掴んだ腕は細くて、僕の下で怯える彼は小さくて。
いっそのこと、嫌ってくれたらよかった。
僕が悪役になって桃くんがヒーローになる。
それでよかった。
良かったはずなのに。
赤くんの一言で力が抜けてしまった。
「は….?何言って….」
「青ちゃんのことなんてお見通しだもん。」
ふふん、と満足気に鼻を鳴らす君にぽかんとしていると、緩められた僕の手から赤くんの両手が伸びてきてムギュっと頬を掴まれる。
「ふふ、雪見だいふくだ」
「だれゃがゆきみだいふくだお….」
恋というものはやっかいなものだ。
可笑しそうに笑う君の顔が眩しくてまた愛おしさがダムのように溢れてくる。
───好き、大好き、どこにもいかないで。ぼくのそばいて。
赤くんの小さくて華奢な指先に自身の手を添えようとして我に返った。
….僕が彼に触れていい資格などどこにもないのだ。
ゆるりと落ちていく僕の片手を赤くんがそっと両手で掴んだ。
思わず反射的に身体を強ばらせる。
「赤く、」
「大丈夫だから….」
そのまま彼は手を自身のシミひとつない真っ白な頬に添えて目を閉じる。
少し冷たい赤くんのほっぺと、じんわり暖かい手のひら。
「あの時は泣いちゃってごめんね。もう、怖くないから….」
怖くないなんて嘘だ。彼の両手は微かに震えている。伏せられた長いまつ毛の辺りには泣いた後があった。それでも、頑なに僕の手を離そうとしない。
いいのだろうか。許されても。こんな酷いことをした僕でも。
優しい海のような赤くんの中でこのまま。
「赤くんはほんとずるい人だよ….ほんとに、」
これだから君を僕は諦められないんだよ。
全部全部君のせいだ、だなんて。
震える片方の手で彼の小さな身体を抱きしめる。
「ごめん、ごめんね….赤くん」
「もういいから….泣かないでよ青ちゃん….」
赤くんの両手が僕の背中に回された事が嬉しくてまた涙腺が緩んだ。
誤魔化すようにぎゅっと彼を強く抱きしめる。
「苦しいよ青ちゃんっ….w」
「….あか、くん…….」
赤くんは勇気をだして僕に会いに来てくれた。
───だからちゃんと、僕も大人にならなきゃね。
君を諦めるにも諦めないにしろ。
「夏のサッカーの試合、勝ったら僕の彼女になって欲しい」
To Be Continued….?
まっっっじで忙しくて….待っててくれた皆さん大変お待たせしました泣
10月文化祭、中間テスト、体育祭、修学旅行….と行事が続きすぎてですね….(((言い訳
ヤバい!続きが思い浮かばない!!
焦ってTERROR開いては閉じての繰り返しでなんも進まなくて….(((前回の物語までしか元々考えなかったとか言えない(((
やっと最近落ち着きました笑笑
皆さんも体調気を付けて(((
コメント
19件
何回も読み直してます🥺💕大好きです(*´`)続き待ってます!!はみぃさんのぺースで頑張って下さい!
わたしほんとにめっちゃ主人公派なんですけどこう見てると青くんと…って思っちゃいます😿 青くんがいいかも…桃くんがいいかも…って揺さぶられながら毎話見てます笑👀 そんで超絶オスな青くんばっちばちにかっこよすぎて震えました🫨💘 視聴者が飽きないように予想外な展開とかめちゃきゅんきゅんする場面、不安で心配になる場面とか信頼してるお友達がきて安心したり、感情がたくさん動かされております…笑💓
見るの遅れちゃって申し訳ないです 今回も神作提供ありがとうございます🫶🏻️💞 おかげで涙腺が緩みました.笑 ぶくしつですっ.ᐟ.ᐟ