テラーノベル
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石工(いしく)道具が潰れる前に、少しだけ拡げられていた通路は以前より僅(わず)かに奥へとレイブの体を到達させていた。
具体的には以前嵌(はま》り込んで苦しい思いをした顎や首は穴ぐらの内部へ到達し、先に伸ばした右手は肩まで抜け出す事に成功して、バタバタともがく様に地面を齧(かじ)って通路に残った体を奥へと動かそうと足掻き続けていたのである。
足掻きながら視線を穴の最奥に向けたレイブの目には、抱き合って固まっているギレスラとペトラの震え続ける姿が映る。
――――あそこまで、ギレスラとペトラが恐がっているあそこまで…… くうっ! 死ぬのならせめて、弟と妹を抱きしめて、い、一緒にぃっ! ぬ、抜けろ、抜けろ、抜けろおぉっ!
思いに合わせる様に一層力を込めたその時……
ガキッ! ビキビキビキィッ! ガラガラペキペキペキ…… パキパキパラパラ……
「ぐあっ! 肩、う、腕があぁっ! う、うーん…………」
その声を最後に気を失い地面に伏せたレイブを穴ぐらの中に引き入れたのは、先程まで抱き合って震えていた小さな猪ペトラと、稚竜ギレスラの四本の幼い前足である。
確(しっか)りと掴んだ前足を離さぬように、後肢(こうし)に力を込め、まだ飾りの様に心細い小さな翼をはためかせ、穴ぐらの奥に迎え入れたレイブの姿を目にした弟と妹はほぼ同時に唸る様に呟くのであった。
『グガッ! レ、レイブ、ノ、ウ、ウデガァッー!』
『ひ、左腕が…… 無くなってるぅっ! れ、レイブお兄ちゃーんっ! し、確りしてぇっ!』
失神しているレイブの答えは無い。
只、穴ぐらの内部へと引き入れられたレイブの姿を見れば、ギレスラとペトラのパニックにも得心が行きまくる事態なのであった。
気を失っただけでなく、フルフルと震え続けているレイブの体には、先程まで有った左肩から先が消え失せているのだ。
彼が引き抜かれた倉庫と穴ぐらの間である通路には、砕けた石くれ、元レイブの左腕だったであろう瓦礫が、命の|残滓《ざんし》を感じさせる事無く散らばっていた。
石化は末端から起きる事が多い。
バストロの目や、フランチェスカの顔面の神経、以前のレイブ自身の経験では両足の先からだったが……
今回レイブを襲った石化は、通路の中に残された左腕、左手の先から始まっていた様である。
肩口まで進んだ石化に対して、力尽くで押し込んだ結果、肩から先が砕け散ってしまった、そう言う事であろう。
意識を失ったレイブを岩窟の最奥へと引っ張って連れてきたギレスラとペトラ。
賢(さか)しく如才(じょさい)ないペトラが遠慮気味に抑えた声でギレスラに告げる。
『ねえ、見てよギレスラお兄ちゃん、レイブお兄ちゃんの左肩ぁ! 少しづつ石化してるみたいだわよ? どうしようか、ギレスラお兄ちゃん?』
『ンガッ! コ、コナグスリ、ハ?』
『粉薬だったら倉庫の方にしか置いていないわよ、この穴ぐらにはお水と干し肉、後はレイブお兄ちゃんに言われて運び込んだ大量のドングリしか無いんだからぁ、でも取りに戻ろうにもあっちには魔力が溢れ返っているでしょう? 倉庫にはいけないよねえ、どうしようか? このままじゃレイブお兄ちゃん死んじゃうよね? うーん……』
『ウ、ウーン…… ッ!』
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