テラーノベル
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若井に相談した、早速次の日。
絶賛打ち合わせ中なのだが、関わる機会が無さすぎる。まるで学生の頃、好きな人を遊びに誘わないとわざわざ話せないという感覚に似ていて。当時あまりいい思い出が無い俺にとっては苦痛でしか無かった。若井に助けを求めるように視線を送ったが虚しく、いつも通りでいけ、というジェスチャーのみ返ってくるばかりだった。
ふと、何をそんなに意識しているんだろう。そう思った。関わりを増やす?…メンバーである以上毎日のように会うから必要ない。アピールする?…自分をよく見せれるのか?今更。じゃあ、何がしたいんだろう。ひとつ辿り着いたのは、感謝を伝える事だった。でもそれは容易ではなくて。普段照れくさくて小さなことしかお礼が言えない、物や態度、歌として返すことでしかままならない俺がどう感謝を伝えるか全くと言っていい程分からなかった。さりげなく、資料をふむふむと頷きながら頭に入れている涼ちゃんを見る。なんか掴みたくなるほっぺしてんな。
「…むぅ!?なっなにぃ、もろきぃ、いらいよぉ」
抵抗の声が聞こえるが、タコさながらの君の口に今日買ってきたばかりのグミを放り込んだ。ぱっと手を離し営業スマイルを作って話に戻る。机を挟んで向かいにいるプロデューサーは、こういった光景に慣れたのか苦笑いを浮かべ続けた。いやありがとうではあるんだけどさぁ…。隣でぶつぶつ呟く声と、押し殺した笑い声が同時に聞こえてくる。こんなことして何になるんだよ。自分に苛ついてくる。
その後も多少強引にお菓子を口に突っ込んだり、肩マッサージを始めたり、ヘッドロックかましてみたり普段よりも無意識かつ何度も接触した。今日どうしたの?と聞かれたが黙っていろ、という意味で力を強める。若井と一瞬2人きりになった時、不器用過ぎな?と心配半分からかい半分で言われてしまったくらいだ。しょうがないだろ。生憎涼ちゃんの誕生日は初夏で、秋真っ只中の今からだとだいぶ先。せめてバレンタインだとか、クリスマスだとか企業が儲けるための企画をこの時期もやってくれればいいのに。カボチャデザインのパッケージのキャンディーを握りしめながらそう思った。
「とりあえず飯とかに誘ってみたら?ほら、こことかちょい高めでいいんじゃない」
涼ちゃんが個人仕事で早退した直後。俺も仕事があるため帰る準備をしていたら、唯一この後何も無い若井に呼び止められた。スマホには言った通り高級、とまでは行かないけど雰囲気の良いイタリアンレストランが映っていた。感謝伝えるなら丁度いいでしょ?ついでに思い伝えてきなよ。後半はハードルが高いが、いいかもしれない。ありがと、やってみる、と頷いてスタジオを後にした。
その夜、計画を練りながら今日もまた1人ベットに潜り込んだ。
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読んで下さりありがとうございます!
まさかのあらすじは大森さん視点でしたね。物語が終盤に入りました。果たして2人はどうなるのでしょうか。愛を伝えるのが不器用だから無愛想なんて言われちゃう大森さん。それを見守るひろぱ。何も知らない涼ちゃん。3人を最後まで見届けていただければと思います。
次も是非読んで頂けると嬉しいです。
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