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小さな町でも娯楽はある、町で人気の順・子・(年齢不詳)さんが経営する(スナック順子)の二階座席は
月一で北斗達牧場主が集まる寄り合い所で、1階はカラオケ喫茶になっていて
陽が沈み始める夕方、二階の座席に10人ほどの農作業を終わらせた牧場主と、商工会議所の面々が集まっていた
「―というわけで年季奉公人の労働力という点でも、今年は海外労働者の数を倍にするべきだそうだろ!北斗 」
北斗の牧場のすぐ2ブロック先になる、ブドウ園のせがれ(正ただし)が北斗を睨んで言う
「ああ・・そうだな・・・ 」
北斗はそっけなく返事した
「ちょっと待ってくれ!去年もそう言って海外労働者を雇ったが、彼らが必ずしも勤勉とは限らない!俺の所に来た労働者はまるで役に立たなかった、数が多けりゃいいってもんじゃないんだ!そうだろ?北斗? 」
実家が酪農園で地元消防団長の正勝(まさかつ)が言った
「ああ・・そうだ 」
また北斗は心ここにあらずで返事した
「彼らを集団で雇うのに、どうやって個人的資格にまで目が行くんだ?中にはそんな外れもいるだろうが、俺ん所は満足だ、だから今年もこれでいけばいい 」
あばた面で小太りの正は、北斗の高校の同級生だが、高校二年の時暴れて学校から強制退学させられ、いかがわしい行動と車を乗り回す生活にうつつを抜かすようになっていた
見かねた両親が地方から嫁を貰い結婚させて、今は家族でブドウ園を経営しているものの、正はどこの町にでも一人はいるヤンキーあがりの、大人になりきれていない大人だ
「だからちょっと待ってくれ!俺の所はお前らの所と肩を並べられるほどでかい牧場ではない、彼らの宿泊や食事を考慮しても損しているし、労働力が不足してるんだ、だからといって彼らの賃上げも出来ない」
正勝が言った
フンッ
「そんなの知るかよ!」
正が煙草に火を付ける
「なんだと!! 」
「まぁまぁ・・・」
カッとなる正勝を他の牧場主がなだめて、各自ビールを注いで回る
各牧場主達一人ひとりにいきわたっている順子ママ特製の、大きな仕出し弁当をつまみに、みんなそれぞれだらだらとビールを飲みながら話合いは毎回夜中まで続く
毎月恒例の牧場主達の行事だ、今までは辛抱強く、毎月この寄り合いに出ていたが、今の北斗には我慢の限界が来ていた
「あ~・・・すまないが、後は俺を抜きにして話し合ってくれないか、俺は・・・帰らせてもらっていいかな?」
北斗はすまなそうに肩をすくめて、面白味のない笑顔で言った
「なんでだ?」
「北斗がいてくれなきゃ困る!どうして帰るんだ!」
みんなが北斗を見てザワザワしだした
「あ~・・実はぁ・・・その・・ 」
そこで北斗の隣にいた直哉がボソッと言った
「家で兄貴の嫁さんが待ってる」
「ええっ!!」
「なんだって!!」
「うそだろ? 」
そこにいた全員が寝耳に水だった。そこへ北斗の斜め前にいたビック・ジンが、あたりめをかじりながらみんなに言った
「美人と言うより可愛らしいタイプだな!ありゃ!そんでどこかのお嬢様だ!まちがいない!あの気品はそーとーのものだ 」
「なんだ北斗!真夜中に起こされて結婚式をやらされたのに、まだみんなにお披露目してないのか?氷上町に新しい住人が増えているのに。奥さんも可哀想だぞ、きっと神もそうおっしゃる!」
ジンの横で北斗と同級生の和也も言った
きっちりと髪を七三に分けて、一番上まで止めたワイシャツに、紺色のカーディガンを着こなしている。牧師らしく彼は威厳たっぷりにそう言った
「隠しときたい気持ちはわかるけどなぁ~あんだけ可愛けりゃ!」
酒が入っているジンがワハハハと笑った
そこにいた全員が北斗に詰め寄った
「可愛いのか?」
「美人か?」
「どういうことだ!なんだそれ!聞かせろよ! 」
「吐けっ!どんな女だ!どこで見つけた?」
「お嬢様を嫁にもらったのか?」
「飲め!飲め!飲め! 」
「ママぁ~~~!!瓶ビール5本追加ねぇ~~!あと焼酎も!」
誰かが階段から1階へ叫んでいる、どんどん北斗のグラスにビールが注がれる
その横でジンと和也と直哉がゲラゲラ笑っている。いつもクールな北斗が動揺しているので、おかしくてたまらないみたいだ
一気に周りは北斗の結婚相手の話でもちきりになった
こいつらは飲める機会があれば、話題は何でもいいんだと苛立った
北斗は無理やり持たされているビールをぐいっと飲みながら叫んだ
「頼むから帰してくれ~~~~っっ!!! 」