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天翰は大鍋で米をたっぷりと煮て、艾粥をこさえた。その緑いどろどろを十一は味見して、顔をしかめた。「山賊の飯ぁ精進料理じゃねえんだ。肉を入れろ、肉を。源家は肉を食ってたから平家に勝てたんだぞ」
銀鴟の請売りだった。十一は粥に塩漬けの猪肉をたっぷり放りこみ、くつくつと煮た。掘立小屋の土間に、えもいわれぬ匂いがただよう。十一は椀によそって、天翰に突きだす。
「食え」
沙弥の戒律が肉食を禁じているのは知っていた。天翰は肉粥を見つめていたが、五日の空腹には勝てず啜った。ぱっと顔が輝く。
「おいしい」
にかっと十一は笑った。「だろう。もっと食え」
「おっ、うまそうだな」
簾を捲って、百舌が顔を出した。十一は天翰の鬘をぽんと撫でる。
「こいつが煮たんでさ。で、そいつは?」
百舌は町人風体の童をつれていた。年の頃は十二、三と見えたが、頬はやつれ、唇は荒れ、手は皹だらけで、酷い姿だ。それでいて、始終にこにこと笑みを浮かべるので、かえって薄気味悪かった。
「名めえは喜々須ってことにしてやれ」
百舌はいった。喜々須は椀ごと丸呑みする勢いで粥を平らげた。お代わりは? と天翰が尋ねると、こくこく頷いて椀を差出した。
山賊どもが続々と戻り、肉粥にありついた。大鍋はあっというまに底をついた。きょうの夕餉は妙にうまかったと、みな口を揃えた。夷虎がいう。
「お日羽の汁は天下一品だな」
「あっちの汁もな」
百舌が茶化した。天翰は耳を染めて顔を伏せた。
山賊五人は盃を傾けつつ、新参にあることないこと吹きこんだ。夷虎の法螺まじりの武勇伝。牙良が棟梁の手を金槌で潰して大工をやめた顛末。百舌が片目を失くした因縁話。銀鴟の白拍子との痴話――話がシモがかってくると、牙良が天翰を抱き寄せた。
「おゝ、ちょうどいいところに女がいたぜ」
銀鴟が牙良を張り倒して、天翰をさらった。唐棣色の衣を捲りあげ、天翰の魔羅と陰嚢を新参に見せた。さすがに喜々須もにこにこをやめて、ほうけたふうになりゆきを見ていた。
膝立ちの美童の背に添うように、銀鴟は押入った。毎夜のことに、天翰はもう泣きも喚きもしなかった。ただゆさぶられながら、せつない目で十一を見つめた。十一は見つめかえした。銀鴟は天翰の首をねじって、唇をねっとりと吸った。
百舌が膝行って、天翰の衣をほどいた。妖しく白い肌に、ぷつりと尖った乳首と、赤く熟れて蜜を滴らせた魔羅。ごくり、誰かが生唾を呑んだ。百舌が美童の乳首を吸って、もう一方を捏ねた。あゝ、と天翰が身をよじる。おのれの魔羅にふれようとして、百舌にひょいと両手を押さえられる。
「お日羽。おれは教えたよな。それはおめえのだが、おめえのじゃねえんだ。勝手にさわっちゃなんねえ。そういうときは、どうするんだ?」
天翰は泣きそうに十一を見てから、顔をうつむける。そのあいだも、銀鴟が容赦なく腰をたたきこみ、百舌が頸から腋から胸乳をねぶる。天翰はぶるぶると腿を震わせて、とうとう口にする。
「……ま、魔羅を、……てくださ……」
「魔羅が、なんだ。はっきりいってみな」
「……魔羅を、しごい……てください」
「そうだ、よくできたな」
百舌は口づけをくれると、三つ指で天翰のそれをつまむ。妙枢を隈なく責められて、天翰は身をくねらせ、おゝん、おゝん、と高く咆える。盛りの獣じみた、凄絶な声。きいいいいっと胸が引き攣れる気が十一はする。十一は手酌で呑む。まるで呑み競べのように淡々と、ひたすら呑む。
淫らな三つ巴に牙良が加わり、四つ巴になり完成する。銀鴟の腹のうえで撞木反りの天翰、その胸乳を牙良がねぶり、魔羅を百舌がしゃぶる。恍惚の美童はしかし、ときおり正気に返ったかに十一を見つめる。十一は、ただ酒を呷る。おれには、あいつを救えねえ――
「おい、十一。おめえはひとりで甕を空にする気か」
夷虎にいわれたのはおぼえている。だが、そのあとのことは、おぼろげだった。十一は、初めて正体を失くした。
山賊どもの大いびきのなか、朝の鳥が鳴いた。割れそうな頭の重さに、十一は呻いた。十一の手を、天翰の手がとった。昨夜の痴態がうそのように、天翰はきちんと鬘と衣を着ていた。
「これを」
薄墨色の紙包を、十一はひらいた。褐色の粉末。
「なんだこりゃ」
「四苓散だ。朮、沢瀉、猪苓、茯苓。二日酔いにはこれが一番だと和尚さまがおっしゃっていた」
「生臭坊主かよ」
十一はつまんで嘗めた。うげえ、と思わずいった。苦い。天翰は白湯の椀をわたした。十一は粉薬を含んで、鼻をつまんで白湯で飲みくだした。しばらくすると小便がでて、頭痛はかなりましになった。
朝靄が晴れて、日が照った。四照花の木蔭で天翰は、経本を押頂いてからひろげた。九十九折りの黄紙に、鮮やかな楷書の墨痕。ほうと十一は息をついた。
「きれいな筆だな」
「虞淵どのは寺でも指折りの能筆であった」
「ぐえんは、どんなやつだった」
野の陽炎を見るかに天翰は、遠い眼差をした。
「優しい兄のような。私には親も兄弟もない。赤子の時分、寺の門前に棄てられていたのだそうだ。そんな私に、虞淵どのはよく目をかけてくれた。もし兄がいたならばこんなふうだろう、といつも思っていた」
十一は経本を手にとった。漢文の経は、十一にはとんと読めなかった。きっと、優秀な僧だったのだろう。
「おれぁ数しかわからねえ。この百と千は読める。あと、おめえの天の字も読める。天かんのかんは、どんな字だ」
天翰は小石を拾って、地べたをひっかいた。天翰。
「うん、むずかしい字だな。おれのは、やさしい」
十一も小石で地べたをひっかいた。十一。
「十一どのの名はおもしろい」
十一のとなりに、天翰は書く。士。
「これは士。立派な男という意味だ」
「なるほど。だが、おれはこっちだろう」
士の下に十一は書く。土。天翰は笑う。
「私が天で、そなたが土なるか。おもしろい」
天地、と天翰は書いた。なるほど、と十一は思った。
「十一どのの名は、慈悲心鳥のことか」
「じひしんちょう?」
「十一、十一と鳴く鳥がいるだろう。あれを寺では慈悲心、慈悲心とききなすのだ」
「そんなありがてえ鳥じゃねえ。十一番目の子だから、十一だ。百姓ぁ子だくさんだから」
「十一人兄弟であったか」
「いゝや、六人兄弟さ。赤ん坊のうちに死んだり、里子に出したりしてな。おっ母が生きてりゃ、もっと多かったかもな。おっ母は弟の十二を産んだときに死んじまった。十二の面倒は、おれが見たんだ。その十二も死んじまった。寛喜三年の大旱んときにな」
飢饉の年が続いたのちの大旱魃だった。大地が干割れ、作物が枯れ、川が干あがり、井戸も涸れた。渇きを癒すには、生木を齧るよりしかたなかった。
「お水くんろ、お水くんろ、ってさ。十二は赤ん坊だから、ききわけがねえ。おれは井戸の底に少し残った泥水を掬ってきて飲ませた。そしたら、急に苦しみだして、吐いて、瀉して……あっというまだった。兄弟が目のまえで死ぬのは、初めてじゃなかった。けど、それは勝手に死んだんだ。なかば寿命さ。でも十二は、おれが死なせた。おれが、殺したんだよ」
「十一どの」
花奢な手が袖をつかんだ。十一は微笑した。
「十二が死んでも、おっ父も兄ぃらも、けろっとしたもんだった。むしろ、口減らしになってよかったってな肚なんだ。生きるのがあんまり苦しいと、人は人でなくなっちまう。獣になっちまうのさ。おれは生きるのが心底いやになった。それで、夜の山に入った」
死に場所を探していた。なのに、風に草木が騒ぐたび、夜の禽が啼くたびに、小便をちびりそうな気持ちがした。泣きながら母を、弟を呼んだ。
「死にきれなくてさ、山を何日もさまよった。そんなとき、銀鴟のお頭に拾われた」
死んだら終えだ、地獄も極楽もこの世のモンだ、と銀鴟は説いた。奪ってでも生きろ、地獄も極楽も味わいつくせ、それでこそ人生だ、と。
「そうでなきゃ、おれは今ごろ舎利こうべさ。だから、おれにとっちゃお頭は、親よりも大事な人だ。つまらねえ話をしたな」
天翰は首を振って、経本の偈を指差した。
「私がまず唱えるから、十一どのも唱和してほしい。そなたの母上と、十二どののために」
ふたりの声が合わさって、朗々と響いた。衆生見劫盡大火所燒時我此土安穩天人常充滿園林諸堂閣種種寶莊嚴寶樹多花果衆生所遊樂諸天擊天皷常作衆伎樂雨曼佗羅花散佛及大衆。まるで意味のわからぬ響きが、それでも美しく感ぜられたのは、かたわらの小僧のせいかもしれなかった。