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心狼@_shiro🤍🐺
光永さんに手首を掴まれ、怖くて足がすくんだ。
「放してください!」
必死に手を振りほどこうとしたが、男の力は強くてびくともしなかった。じわりと手首に痛みが走り、恐怖が増していく。
「騒ぐなよ」
「やめてください!」
私は履いていたヒールで思い切り彼の足を踏みつけた。
「っ……!」
一瞬だけ込められていた力が緩む。逃げるなら今だと思い、手を振り払って背を向けた。
だが次の瞬間、背後から腕を掴まれてしまう。
「おい、調子に乗るなよ!」
「警察を呼びます」
震える声でそう言ったが、光永さんは平気そうな顔をしていた。
「呼べばいいだろ。騒ぎになったら君だって困るはずだ」
「この会話だって、録音してます」
私はスマホの画面を彼に向けた。
「強要と脅迫、証拠は全部残っています」
まずいと思ったのか、一瞬だけ光永さんの表情が止まった。
――よし、怯んだ隙に逃げよう。そう思ったのに。
「だからどうした?」
次の瞬間、スマホを持つ手を強く掴まれた。
どうしよう。怖い。助けて――。
周囲を見ても、通りすがりの人たちは遠巻きにこちらを気にするだけで、誰も踏み込んではこない。
その視線すらも重く感じて、私は完全に動けなくなっていた。
「現実を見なよ。君にはもう選択肢なんてないんだから、言うとおりにすればいい」
視界が滲んで前がよく見えない。
もうダメだと思った、その瞬間だった。
「その汚い手を放せ」
よく通る声が空気を切り裂いた。その瞬間、掴まれていた手首が解放される。
ハッとして顔を上げると、そこには琉輝さんがいた。
「る、琉輝さん……」
信じられないという思いと、助かったという安堵で、一気に力が抜けそうになる。
次の瞬間、彼がそっと私の肩を抱き寄せた。
「翠々、大丈夫か?」
耳元で囁かれた声に、張りつめていた気持ちが緩んでいく。
私は小さくうなずくことしかできなかった。
「お前みたいな卑劣なやつと結婚しなくても、彼女はいっこうに困らないと思うが?」
「なんだと! 初対面なのに失礼だな!」
怒鳴る光永さんを前にしても、琉輝さんはまったく動じない。
むしろ余裕すら感じさせるその態度に、場の空気が一変していくのがわかった。
「なんとしても翠々を手に入れたいようだが、それは無理だ」
そう言って、私の肩を抱く腕にぐっと力がこもった。
守られていると実感して、胸が熱くなってくる。
「俺たちの邪魔するなよ! だいたい、お前はいったい翠々さんとどういう関係なんだ?」
「鳴宮琉輝。彼女の恋人だ」
「え……」
さらりと告げられた言葉に、心臓が大きく跳ねた。
恋人……その響きが頭の中で何度も反響する。だけど今は、それを問い返す余裕すらない。
「許さないぞ。お前の会社を調べてクビにするように圧力をかけてやる!」
プライドが傷ついたのか、光永さんの顔が怒りで真っ赤になっていた。
「脅したって無駄だ。スターレイルって知ってるか? ケンカを売るなら相手を確認してからにするんだな」
「スターレイルは日本人なら誰でも知ってる航空会社だろ。バカにするな。……え?」
光永さんの表情が、みるみるうちに変わっていく。
「スターレイルの鳴宮って……鳴宮財閥か?」
「さすがにわかったみたいだな」
軽く笑う琉輝さんに対し、光永さんは言葉を失った。
さっきまでの威圧的な態度は影も形もなく、明らかに動揺している。
「なんなんだよお前……。俺はビビったりしないぞ。彼女の叔父の会社に圧力をかけて潰してやる!」
「お前のところがビジネスをしないと言うなら、うちがもっといい条件で取引するからなにも問題ない」
あまりにも次元の違う返答に、光永さんはわなわなと唇を震わせていた。
「スターレイルとうちじゃ、レベルが違いすぎるじゃないか……」
あとずさりながらつぶやくその姿に、先ほどまでの余裕はない。
「彼女は俺が守る。一生、全力で。……それと」
琉輝さんが悠然と一歩前に出た。
「単純に、お前はフラれたんだよ。わかったなら帰れ」
それが決定打だった。光永さんは悔しそうにギリリと歯を噛んだあと、私たちから視線を外した。
「翠々は、俺のものだ」
低く、静かな声。それなのに琉輝さんの言葉は、誰よりも強く響いた。
光永さんはなにも言い返せず、そのまま背を向けて去っていった。
琉輝さんの完全な勝利だった。
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