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「何?」
「……ううん、何でもないよ!」
固く固く握りしめていた左手から力が抜ける。
バラバラになったブレスレットの星たちを、星歌はそっと自分の鞄の中に滑り落とした。
「何だよ、姉ちゃん。急にニヤニヤして」
「んーん!何でもないってば!」
「しっ! 声でかい。近所迷惑になるから……」
言いながら鍵を回し、扉を開ける。
無意識の動作で、行人の手は壁をさぐった。
室内は真っ暗な筈だからだ。
「あれっ」
ところが、だ。
玄関から正面に見える窓も、部屋も夜の静けさに充たされている中、手前のキッチンスペースだけが煌々と明るい。
アッと声をあげた星歌の眼前。
その視界いっぱいを義弟の背が覆う。
やや強張ったその背中に、彼が身を固くしているのが分かった。
「あの……」
「しっ!」
後ろから声をかけるも、鋭く遮られる。
常とは異なる部屋の様子に、彼が用心しているのは分かった。
なので、尚のこと星歌としてはいたたまれない思いである。
「あのぅ……」
「黙って、星歌」
玄関に置いてある傘の柄を握りしめる行人。
「あのぅ、違うんだよ……」
「何がっ?」
「私、出かけるとき電気消した記憶……ない」
フウッと息を吐く気配。
星歌の目の前で強張っていた肩から、力が抜けたのが分かった。
「朝だから部屋は明るかったんだ。でもこっちのキッチンは暗かったから、たしか電気つけたと思う。けど、消したかと言われたら……多分消してない。いや、絶対消してない」
「姉ちゃんーー…………」
長くのびる語尾に思いを込めたか。ゆっくりと息を吐く行人。
武器にと手にしていたものを傘立てに丁寧に戻し、彼はスニーカーを脱いだ。
念のため、狭いキッチンスペースと部屋を確認してから星歌を手招きする。