テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
それは一面の、霧だった。音のない霧のなかで、部埼はただ一人、懐中時計を手にして立っていた。
秒針が、動いている――
ずっと止まっていたはずの針が、逆向きに回っていた。
「……これは、」
彼の目の前に現れたのは、
白亜の姿の
烏帽子島灯台だった。
“無言のまま”、その灯は燃えていた。
「俺が、あの時……お前を見捨てなかったら……」
部埼の喉元がかすれる。
「誰も、お前を責めてなんかいない」
その声は、霧の中から聞こえた。
姿はなかった。ただ、かすかに、懐かしい笑みだけが残された。
同じ頃。
観音埼の目の前には、崩れかけた自分の姿があった。
瓦礫の中、真っ白な姿でうずくまるもう一人の自分。
「君……あのときの……」
「ボクはもう、誰にも必要とされてないんだよ。」
少年のような観音埼は、目も合わせようとしない。
「二度も壊されて、二度も建て直されて……
もう“最初の自分”なんて、残ってないんだ。」
観音埼はゆっくりと、その手を取った。
「それでもいい。君は“今ここ”にいる。
ボクたちが、灯りを繋いでる限り――消えない。」
その言葉に、瓦礫の灯火がぽっと灯った。
特牛はまだ、迷っていた。
影の中から、いくつもの声が彼を呼ぶ。
「お前は小さいから、守れない。」
「角島の陰に隠れていればいい。」
「お前じゃ、誰も助けられない。」
その声の渦の中、彼はただ、薙刀を抱きしめていた。
そのとき。
「特牛!」
駆け込んできたのは――角島だった。
「目を覚ませ!誰が小さいって言った! お前がいちばん――」
叫ぶより早く、彼は特牛を抱きしめた。
「お前が、守る言葉を選んできたこと。
俺は、ちゃんと見てる。」
その腕のなか、特牛の薙刀が微かに光った。
「……ぼく、まだ、こわいけど……でも――行きたい。みんなのところへ。」
「じゃぁ、一緒に行こうか。」
二人の影が、光に溶けていく。